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49 いざ行かん!最後の竜神の泉へ

「聖なる光よ!」



 ロークの声が森に響いた。

 声に反応するようにロークが手にしている剣、メルヴィン様とグレッグの剣が、まばゆい光を放つ。

 剣は神聖な白光を纏った。


 アケロース川の氾濫から二週間後、デルフィ地方のラトナを訪れていた。

 私とローク、メルヴィン様、グレッグの四人で行動するのは、初めてかもしれない。



「来るぞ!」



 ロークが大地を蹴る。

 続いてグレッグ、メルヴィン様の順に駆け出した。

 目の前にいるのは、近くを流れる腐敗した川から現れた数十体のアンデット。

 そのうち数体のアンデットが、ロークに向って襲いかかった。

 ロークがすばやく真一文字に剣を一閃する。



 グギャアアアアアアアッッ



 低いうめき声を上げながら、アンデットが消滅した。

 すごい、本当にアンデットを倒した!

 これがロークの言っていた王家の秘術なのね。

 やっぱり見たことがない術だ。

 同じようにメルヴィン様もグレッグも剣で斬って、アンデットを消滅させていた。


 アンデットは魔物と違って実態がない。

 だからアンデットに対抗できるのは、術を持つ王宮術師が対応するのが一般的。

 剣を扱う兵士たちではアンデットとは戦えない。即退避が基本だ。

 剣で戦えている状況を見ることができたのは貴重な経験だ。



「また来るわ!」



 私は反射的にブレスレットを掲げて、竜神たちの名を呼んだ。



「スクルド、ウルズ!」



 瞬間、腕につけたブレスレットが熱く反応した。

 スクルドとウルズの竜神石が、まばゆい光を放ち輝きだす。

 ひと際強い光を放った後、目の前にスクルドとウルズが現れた。



「スクルド、ウルズ、力を貸してほしいの!」


『任せろ、イシュカ』



 川からアンデットが次々に生まれてくる。

 アンデットを足止めして、少しでも時間がかせげるように水術を詠唱した。



水壁結界(アクアウォール)!!」



 ゴオオオオオオッッッッッッ



 激しい水音を響かせ、美しい水の壁が私たちを取り囲むように生まれる。

 いつもより巨大な壁になったのは、竜神たちのなせる業だ。

 アンデットは突如現れた水の壁に弾かれた。

 そのわずかに生まれた時間に、ロークが走りこんできてアンデットを上段から斬りこんだ。

 その返す刀で右から襲ってきたアンデットを薙いだように見えた。



 グギャアアアアアアアッッ



 数体のアンデットを一気に消滅させた。

 早すぎて私の目では追えなかった……さすが、カスタリアの雷火。

 アンデット相手に圧倒している。



「よし、凌いだな。スクルド、ウルズもありがとう」


『かわまぬよ』



 息を整えつつ、ロークが言った。

 数十体いたアンデットはすっかり消滅していた。

 腐敗した川は流れているが、アンデットは生まれてこなかった。



「すごいわ。本当にアンデットを倒せたのね。これが秘術の力……」


「アンデットの相手をする状況の時は助かっているよ」


『見事だ。上手く使いこなせたものだな、王太子よ』


『そうじゃな。かつて聖女を思い出すわい』


「ローク様、こちらもすべて倒しました」



 グレッグの報告にロークがうなずいた。

 各々の剣からまとっていた白光が消えていた。

 効果はずっと続くわけではないのね。



「みんな、ケガは大丈夫? 回復は必要?」


「イシュカ、大丈夫だ。先へ急ごう」



 ロークの言葉に先へ進むことにした。

 竜神ヴェルザンディの泉は、ラトナにある森の奥深くにあるらしい。

 大きな泉のようで、泉を源流とした小川が流れている。

 その小川に沿って、道なき道を私たちは進んでいた。



 グギャアアアアアアアッッ



「この声は!?」


「また来るぞ!!」



 しばらく進んだ後、また同じように腐敗した川から、数十体のアンデットが現れた。



「覚悟していたとはいえ、キリがないな……聖なる光よ!」



 再び三人の剣が白光をまとう。

 三人は襲ってきたアンデットに斬りかかった。


 本当は浄化の術を使ってしまいたい。

 でもそうしないのは、浄化の術をここで使っても意味がないからだ。


 この小川は竜神スクルドの泉が源流だ。

 源流である泉が腐敗していれば、当然そこから流れる小川も腐敗している。

 大元になっている竜神スクルドの泉に使わないことには、本当の意味で浄化ができない。

 それに大技なので、力が大きいと言われている私でも、一回しか使えないのだ。

 ウルズとヴェルザンディの力を借りるとしても、力を回復させるのに一か月はかかると踏んでいる。

 だから、温存しておくのに越したことはない。



『うああああああああ!』



「何かしら!?」



 森に男性の叫び声が聞こえた。

 こんな森に人がいたの!? まさかアンデットに襲われているんじゃ……。



「メルヴィン、グレッグ、ここは任せた! 俺は助けに行く!」


「御意!」



 ロークがアンデットを一体倒してから、叫び声が聞こえた方向へ駆けていく。



「ローク、私も行くわ!」



 私はぐんぐん進んでいく背中を追いかけるスクルドとウルズも一緒についてきた。

 背中を追いかけていると大きな泉に出た。

 そこでロークがアンデットと対峙していた。

 そのアンデットの後ろに男性がうずくまっている。

 やっぱり、襲われていたのね!

 アンデットがロークに襲い掛かると、ロークが一撃をさっとかわし、剣で斬って倒した。

 すぐにロークが男性にかけよった。



『王太子、離れろ!』



 突然スクルドが叫んだ。

 ロークが反射的に飛びのく。

 ロークがいた場所に、腐敗した水がまき散らされていて、地面が腐ったように変色していた。



『……もう少しだったというのに』



 男性がゆらりと立ち上がり、こちらを見た。

 肩まで伸ばされた美しい深い青の髪に、陶器のような白い肌を持ち、美少年と言うべき風貌だった。

 けれども、長いまつ毛で縁取っているきれいな瞳は、ゾッとするほど冷酷だった。






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