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38 奇跡だわ、あきらめていた治ること

 青空が広がる麗らかな午後。城の中庭ではガーデンパーティーが開かれていた。

 温泉施設・水の郷の隣に建設していた宿泊施設が完成したのだ。

 名前はシンプルにホテル・カスタリア。その開業パーティーである。

 招待客は貴族も平民もおり、みんなが宿泊施設に関わっている人たちだった。

 もちろん主催者はロークだ。

 そのロークはパーティーの主催者として目の前で挨拶をしていた。



「無事ホテル・カスタリアが完成したことうれしく思う。すばらしいホテルが完成したのは皆のお陰だ。カスタリアの発展のため、開業後も皆に尽力してほしい」



 声に張りがあり、堂々とした挨拶は王者の風格が漂う。

 招待客は熱い眼差しでロークを見つめている。

 私もその姿に目を奪われてしまう。



「さすがロークお兄様ですわ。堂々とした立ち振る舞いだわ」


「そうね」



 私はソニアとステッド先生と一緒にいた。

 隣にいたソニアがこそっと話しかけてくる。



「それに堂々とイシュカに自分の色のドレスを身につけさせるのね」


「うっ……」



 ソニアの指摘に頬が熱くなってくる。

 このパーティーのために、私はロークからデイドレスを贈られていた。

 爽やかなクリームイエローの生地で、シンプルながらも繊細なレース使いが光る柔らかな雰囲気を持つドレスだ。

 ソニアには何も言っていないのに、分かる人が見れば誰にこのドレスを贈られたのかわかるのだろう。



「それでは、皆楽しんでくれ!」



 ロークの乾杯の合図で、給仕たちから料理が振舞われた。

 その料理はシノレス村で採れた野菜をベースにしたホテル・カスタリアで出す予定のものだ。

 シノレス村での農業改革が始まった。

 ジャンを中心に進めているが、農作物の育成は順調だと聞いている。

 今回のパーティーに使われている野菜は、既にシノレス村で実っていたものだが、もう間もなく収穫ができるそうだ。数回収穫できるのはありがたい。

 さっそくソニアとともに、ほわりと温かな湯気が立ち上った料理を食べた。



「ん、美味しい!」


「まあ! これは王都でもなかなか食べられない美味しさだわ。ね、サイモン」


「そうですね、ソニアお嬢様。この料理をホテルのレストランで出せば、とても喜ばれそうですね」



 料理人が腕によりをかけたとは思うけれど、シノレス村の野菜は本当に美味しい。

 これはカスタリアの名物になりそうだ。

 料理を楽しむのもいいけれど、今日はナンシー様にポーションを贈る日でもある。

 そのナンシー様はホテル・カスタリア開業の中心メンバーとして活躍し、今はニコラス閣下とともに招待客への挨拶で忙しそうだ。食事をする暇もなさそう。

 ロークがタイミングを見て連れてくると言っていたので、それまでは待つしかない。

 私はソニアとステッド先生と一緒に、招待客から少し離れた壁際のテーブル席で、ポーション談義に花を咲かせていた。



「イシュカ、楽しんでいるかしら?」


「ナンシー様」



 ベールから見えた口元に笑みを浮かべたナンシー様が、ニコラス閣下とともにやってきた。

 その後ろにはロークと側近の二人がいた。

 立ち上がった拍子にロークと目が合うと、キレイなウインクを送ってきた。

 あ、これはここでポーションを贈ってもいいという合図ね。



「ニコラス閣下、ナンシー様。ホテルの開業、おめでとうございます。お二人が最も活躍されたとお聞きしています」


「イシュカ嬢、ナンシーに勇気を与えてくれて感謝する。妻が笑顔で動き回る姿をどれほど見たかったことか」


「ふふ、ニコラスったらずっとイシュカにお礼を言いたかったそうなの。私も同じ気持ちよ。イシュカ、本当にありがとう」


「もったいないお言葉です。私こそ王宮を追放された身なのに受け入れてくださり、ありがとうございます。ナンシー様、今日は贈り物があるんです」


「贈り物?」



 持っていた小さめのカバンからポーションを取り出し、ナンシー様に差し出した。



「とうとうできたのです。ナンシー様のポーションが……受け取っていただけますか?」


「イシュカ、本当に……?」


「はい。お待たせして申し訳ありません」



 ナンシー様は唇がわななき、震える手でポーションを受け取ってくれた。

 そしてナンシー様はポーションの蓋を開けると、躊躇うことなくそのままくいっと飲み干した。



「ナンシー様!?」



 すると突然、ナンシー様の体からひと際強い光が放たれた。

 う、眩しい。思わず目を細める。

 強い魔力のようなものがあふれ、空気が振動しナンシー様のベールが飛ばされる。

 光が落ち着きゆっくりと目を開けると、そこにはナンシー様の素顔があった。

 はっ、と誰かが、いや誰もが息を飲んだ。



「ナ、ナンシー、お前……」


「ニコラス……私は……?」



 ぺたぺたと頬を触っていたナンシー様の両手をニコラス閣下が握りしめた。



「何ということだ……何年もお前を苦しませていた痣が、ない。治っているんだ!」


「本当に!? この……この病が治るだなんて……!」



 はらりはらりとナンシー様の瞳から涙がこぼれていく。

 ニコラス閣下がナンシー様の手を引き寄せ、その体を強く抱きしめた。



「ニコラス……!」


「ナンシー、ナンシー……良かった!」



 うそ、でしょ……。

 思わず呆然と立ち尽くす。こんな現象なんて見たことがない。

 たった一つのポーションで、ナンシー様を長年苦しめていた痣がなくなった。

 竜神の泉の水を使ってポーションを作ったのは私だけれど、こんなに即効性のある効果が現れるなんて思ってもみなかった。



「イシュカ嬢、本当にありがとう。イシュカ嬢と出会わなければナンシーは一生苦しんでいたと思う。どれだけ感謝してもし足りない!」


「イシュカ……ああ、イシュカ。私は病についてはもう諦めていたのよ。もう一生治ることはないと。でも、こんな奇跡に出会えるだなんて! イシュカ、ありがとう!」



 良かった、本当に良かった!

 カスタリアへ来て、ナンシー様と出会って苦しんでいることを知った。

 グレッグもニコラス閣下もずっと気に病んでいたことを知った。

 もう皆さん苦しまなくていいのだ。



「本当に治って良かったです。私はお世話になっているお二人に少しでもご恩をお返しし、笑顔になってほしかったのです。お役に立てて良かった」



 私が王宮追放されたのも意味があったのだと、私は役に立てたのだと私自身が心底ホッとした。







お読みいただきありがとうございます(^^)


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