39 デジャブだわ。一体どうしてこうなった!?
「イシュカ、オレからも。本当にポーションを作ってくれたんだな。ありがとう。君は本当に聖女のようだ!」
近づいてきたグレッグが珍しく瞳を緩めて、私に手を伸ばした。
「はい、グレッグそこまでだ」
くいっと後ろに引っ張られたかと思うと、ぽすんと背中が何かにあたった。
「ロ、ローク……様!?」
こ、これって……みんなの前で後ろから抱きしめられてない!?
ぼんと頬が熱くなって、わたわたと焦ってしまう。
でも、どこか嬉しくて腕は外せないまま。
「離してください、ローク様。ご令嬢にむやみに触れていいとは思いませんが」
「この色のドレスを着ているのに? 誰に贈られたものかわかっていて着てくれていると思うのだが?」
見たことがない鋭い目つきのグレッグに対して、余裕たっぷりにロークが返す。
ま、また始まったんですけど、この二人。
ど、どうしたらいいのかしら……。
「はあ、呆れた。二人とも周りを見てください。ポーションのお陰で招待客が何事かとびっくりされていますよ」
一人冷静なメルヴィン様の声で、私も含めてはっとする。
周りをくるりと見ると、招待客がこちらをチラチラ見てざわついていた。
「イシュカのポーションは常識の範囲を超えています。まだ公にするのは得策ではないですよ」
「確かに」
「そうだな」
メルヴィン様が諫めるとロークもグレッグも冷静さを取り戻した。
ロークの腕が離れて解放される。
よ、良かった……のかな。
恥ずかしさから解放されてホッとしたものの、寂しいと感じてしまう。
あのままでいたい、なんて……。
「ローク様とグレッグは招待客を落ち着かせてください。ポーションのことは公にせず」
「わかった」
「そうするよ」
「それからニコラス閣下、夫人をサイモンに診てもらいましょう。本当に治癒しているかどうか確認する必要がありますので」
「そうだな。それはありがたい」
「先生、よろしくお願いいたします」
「診させていただきますね。屋内へ一度行きましょう」
「あ、ナンシー様」
行ってしまわれる前にお伝えしたいことがあったのだ。
「今日はあまりお食事をされていないと思いますが、シノレス村で作った野菜をしっかり食べてくださいね。あの野菜は体を強くしてくれます。ポーションで治ったとは思いますが、これからも免疫力や体力は必要ですから」
「わかったわ。ありがとう、イシュカ」
「それから、ソニアもよ」
「わ、わたくし?」
急に私に会話を振られて、ソニアがきょとんとした表情をみせた。
「ソニアの体の弱さもずっと気になっていたの。元気でいてほしいからしっかり食べてね」
「もしかして、わたくしのことも気にかけていたの?」
「当たり前でしょう。友達なんだから」
「イシュカ、あなたって人は……もう大好き!」
がばりと抱き着いてきたソニアの頭をよしよしと撫でた。
ソニアとはすっかり仲良くなり友人関係になった。城の人たちからは姉妹のように仲が良いと言われることもある。
私自身、妹がいればこんな感じなんだろうなと思う瞬間もあり、余計に可愛く感じてしまう。
ソニアの体が強くなってくれるといいな。
「ソニア、男性だけでは不安でしょうから夫人についてあげなさい」
「そうね。わかったわ、お兄様」
「さあ、動きましょう!」
パンッ、と仕切り直すようにメルヴィン様が手を叩くと、各自が一斉に動き出した。
すごい。さすがは頭の切れる王太子殿下の右腕。
鮮やかな手腕に感心してしまった。
「イシュカ。ポーションの完成、おめでとうございます」
「ありがとうございます。メルヴィン様」
すっかり二人きりになってしまったが、メルヴィン様からのお祝いの言葉を、私は素直に受け取り笑顔で返した。
メルヴィン様が軽く目を開き、柔らかく笑った。
珍しい。そんな笑い方をするなんて。
「妹のソニアの体のことも考えてくれていたのですね。あなたはどこまで私を救ってくれるんですか」
「救うだなんてそんな大げさですよ。私はソニアとは友達になったんです。友達にずっと元気でいてほしかっただけですよ」
「周りから姉妹のように仲が良いと言われているくらいですしね。あなたがソニアの傍にいてくれて本当にありがたいのです」
「ソニアのご家族にそう言ってもらえるとうれしいです」
私の心からの本音に、メルヴィン様が目を細めた。
「……ねえ、イシュカ」
「はい」
「あなたはソニアと姉妹になりたいとは思いませんか?」
「姉妹?」
姉妹とは……どういうことだろう。
唐突な不思議な質問に首を傾げてしまう。
「えっと、楽しそうだとは思いますけど……」
「ソニアと姉妹になれる方法が一つあるのですが」
「姉妹になれる方法?」
「知りたくないですか?」
ち、近い。いつの間にこんなに近くに……?
私との距離を縮めたメルヴィン様に囁かれた。
「兄である私の隣に立つことです」
「へ?」
私が目を丸くしていると、メルヴィン様は私の手を取り指先に口づけた。
く、口づけ!?
「裏切れない相手の想い人であることはわかっています。でも、あなたの気持ちが傾かないのであれば、王家とも対等に渡り合えるハーコート公爵家が全力で守りますよ。それは辺境伯家にはできないことですから」
「ええ!?」
視線が合うとこれまでのメルヴィン様からは考えられない、熱が籠った視線を向けられていた。
「その時は、私を選んで」
と、とんでもないことを言われているのでは!?
しかも、デジャブを感じるシチュエーションに、私はぴしりと固まってしまった。
そんな状態の私を見て、軽やかにふふ、と笑ったメルヴィン様は、私の髪を一撫でして招待客の方へ向かっていった。
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