誓い
次の日の朝、ニュースをカードペーパーで見て驚いた。
「皇太子熱愛発覚!救国の女神との秘密のキス」
の見出しとともに二人が向かい合ってキスしている(ように見える)写真が載っていた。
こ、これは・・・この写真は・・・。
「あらー、ミオちゃん見かけによらずやるわねー」
起きたばかりの髪の毛のぐしゃぐしゃなナータさんが後ろからカードペーパーを覗き込んで口笛を吹く。
「ちちち、違うんです、誤解です、これは・・・」
確かに皇子と超接近はしたけど、キスなんかしてない。なのに、なのに・・・。
「もう皇子と縁戻しちゃいなよ。うちの兄さんより絶対いいって」
ナータさんはあまり関心がないと言った風にそれだけ言うと手をぷらぷら振って洗面所へ向かった。
あああ・・・。
じっとりとした空気が車内に充満していた。
今日はもう惑星オーに帰らなければならない。
宇宙港専用ポートまでの道のりは、普通は行く道よりも戻る道の方が短く感じるというが・・・。
さっきから黙ったままのレクセル。
そうよね、ゼオルの時だって相当怒らせたんだもの。またこんなことになって怒り心頭に達しているに違いない。
でもでもでも誤解なのに、あれはキスしてたんじゃなくて怪我した皇子の手当てをしててちょっと近づきすぎただけで・・・。
「っく・・・くくく」
突然レクセルが笑いだした。
「レ、レクセル?どうしたの?」
「あっははは・・・いや、ごめん・・・でも・・・」
レクセルは笑いが止まらないといった風に腹を抱えている。
ちょ、運転は・・・。
「な、何・・・?」
「どうせあの記事は嘘なんだろう?」
「へ・・・?何で・・・?」
「顔に出やすい君が、もし本当に皇子とキスなんかしてたら昨日の帰り道あんなに普通そうにできるわけないじゃないか」
「あー!分かってて怒ったふりしてたのね!?ひどい!意地悪!」
「や、だからゴメンって」
「もー、知らないっ」
ぷいっと横を向いてやった。
「そんなに怒るなよ。ちょっとからかっただけじゃないか」
「ふーんだ」
「ふふ、まぁ、いいや。ちょっと寄り道するよ」
そう言うとレクセルはリフターの操作盤を操作して横道に入る。
しばらく走らせるとだんだんと人工物が減っていき、山あいの道へと進んでいく。やがて都会的な景色が一変して、木々の生い茂る森の中へと入る。
「わぁっ、海」
やがて視界が開けて木々の間から青い海が見えた。
レクセルは海の見える岬にリフターを停めると、降りるように言った。
「んー、気持ちいい!」
もう秋だというのに眩しいばかりの陽光がさんさんと降り注ぎ、潮風が甘い独特の香りとともに鼻孔をくすぐっていく。
しかしこんな所に何の用だろう?船の時間はいいんだろうか。
「ミオ」
とてもとても優しい声音でレクセルが名を呼んだ。
「ん?」
「君に指輪のお返しをしたい」
「指輪?」
何のこと?指輪なんてあげたっけ・・・?
「ひどいな、忘れたのか?くれただろう?見えない指輪」
「あーーー!」
思い出した。というか思い出したくなかった。
だって、恥ずかしい!
あの時は必死だったのよ、思い返せばなんちゅう恥ずかしいことを!
「お、お返しなんて別にいいよ!だいたいエア指輪なんだしお金かかってないし」
そう、心だけという意味でそういう風に渡したんだから、レクセルの心が私にある(あるよね?)今は別にいいんじゃないだろうか。心には心でってことで・・・。
「あんなに価値のある指輪は他にないさ。そうだろう?君の心なんだから」
きゃーーー。恥ずかしいっ!だからっ、あの時はもう考えてる余裕なんてなくて結果そういうことになったわけで!蒸し返さないで~。
レクセルは過去の自分の言動に悶え苦しんでいる私の前に跪いた。
それから懐から小さな箱を取り出した。
レクセルがその箱を開けるとキラキラと光る美しい宝石の付いた銀の指輪が入っていた。
「わぁ、きれい」
基本的に綺麗なものが好きなので、ころっと指輪に興味を奪われた。
「気に入った?」
「うん」
「はめさせてもらってもいいかな?」
「どうぞ」
そう言うとレクセルは迷いなく左の手を取って、薬指へとその指輪をはめた。
あれ?あの、その位置はもしかして・・・。
「君の星の風習ではこうなんだろう?結婚はまだ先だけど、婚約の証に」
そして優雅に手の甲にキスをした。
い、いつどこでそんな情報を・・・。まぁ、地球とはやりとりがあるみたいだけど・・・。
しかしキスは規格外ですぞ・・・。
レクセルは顔を上げると真剣な目で、
「ミオ、この海より深く君を愛することを誓う。そしてこの山のようにその愛の変わらないことを誓う」
と、顔がゆでダコよりも赤くなるような台詞をのたまった。
こ、これを言うためにわざわざこんなとこに・・・。うん、でも効果は覿面・・・。
海はどこまでも青く青く、山はどこまでも静か。それが変わることなど永久にないだろう。それが信じられるほどに。
「そして心だけでなく、その身体も俺のものになってくれないか?」
取られた手にきゅっと力が入り、にこやかにほほ笑みながら言う。
えー、それはそういう意味ですよね・・・。
「え・・・、っと、あの・・・、は、はい・・・」
ゆでダコの顔を見られたくなくてうつむきながら返事した。それにそんなに見つめないで・・・。
「よかった」
レクセルは満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、誓いの証に、キスして。君から」
自分から!?
ふときょときょとと周りを見回す。
「誰もいないって」
そ、そうだろうけど・・・、なんとなく・・・。
跪いたレクセルの顔はいつもより下方にある。これならしやすいかな・・・?
レクセルの両肩に手を置いて触れるだけのキスをする。
顔を離すと、
「それだけ?」
とまたもやにこやかな笑顔。
だめなんですかっ!?
仕方なしにレクセルにしてもらってるように何度も唇を押しつけてはその薄い唇を食んだ。
「ふ・・・んん」
「上出来」
レクセルの腕が伸びてミオを抱きすくめる。
「きゃっ」
バランスを崩してミオはその胸に倒れこんだ。ミオ一人くらい倒れこんだくらいでは揺るがないたくましい胸と腕。その中にいるとひどく安心する。
ミオはその胸に頬を摺り寄せた。
「もうずっと離さない・・・」
そう耳元でささやき、レクセルはとろけそうなほどのキスをしてくれた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
えー、これから先のエピソードもあるんですが、ここから先はR18なので自重します。
その先の話もあるにはあるんですが(独立を望む地球VS帝国)、まぁ読みたいなんて人がいたら書きます。