53話 攻撃魔法を扱えるようになろう(8) 息抜きも必要だ
「とりあえず使う際は注意しないといけないってことは肝に銘じておこう。使うときはソロの時だけ。それ以外では見せないようにしないとな…」
空間魔法の危険性を認識した将一は、使用上の注意事項を決めておく。何気なくやっているタグの転送など人の見えない所だがいいが、もし人前でやろうものなら自身の身に危険が及ぶ行為なのだと、一層ばれないようにする必要があると感じた。酒席の宴会芸では済まないのだ。
自らを戒める項目がまた増えたと思いながら、空間魔法の訓練をこれで終わらせる。一応攻撃魔法は作れたのだ。ならば他の魔法の攻撃手段を考えようと頭を巡らせる必要がある。空間魔法の攻撃手段はあれ以上の物はないだろうし。
「次は…召喚魔法だな。ここに来た初日のお昼はこれのお世話になったんだっけか。まさか世界を超えて効果を発揮する魔法があるとは思いもしなかったな。いろんな道具を出すのも便利だし、生活でもずいぶん役立ってくれてるよな。
で…そんな召喚魔法の攻撃手段だけども…まさかとは思うが…精霊を呼べたりなんてのは流石にないよな?
元の世界にはいるわけないし、こっちの世界でもそんな存在流石にいないだろう。いたら世界中に情報が伝わってる案件だろうな。それがないってことはいないってことだろう。まだ見つかってないとかじゃなければだけど…」
ゲームでお約束的な精霊という存在。流石に異世界の要素でダンジョンがあるとはいえ、精霊がいるとまでは思えなかった。
敵性ならそもそもモンスター以上の脅威となってそうだし、友好ならダンジョン攻略に力を貸さなかった理由がわからん。将一も精霊は流石に無理だと思い、呼び出そうという考えすら思い浮かばなかった。
しかし今、召喚魔法を攻撃手段として考える以上試せるなら試してみたいという思いはある。これもソロの時しか無理だろうが役立つことは確かだろうし。
とはいえ…精霊を呼び出すというイメージが全くできない。
自分が知っているのはゲームやアニメに出てくるような作られた存在であり、架空の物だ。異世界や別世界の存在はわかっているが、そこに精霊がいるかは流石にわからない。
「言葉にすれば補正してくれるから大丈夫だろうけど…あれは自分の記憶をどこか参考にしている節があるからなぁ。架空の存在持ってくるとか変なことになりそうだぞ…。ゲームとかのキャラが出てくるとかは流石に無理だよな? でも不可能を可能にしてきた魔法だから、あながち無理だと否定できないんだよなぁ…これも」
いきなりゲームやアニメのキャラが現れて契約主よ…とか言ってこられてもこっちが困ることになりそうだ。中には性格的に危ないのもいるし呼び出すのが怖い…。
呼び出した後攻撃して帰るタイプならばいいのだが、もし居座ったりでもすれば…。
「流石に精霊召喚とか試すのも怖いから無しにしよう…。それ以外でなんか攻撃手段考えなきゃな。
一番わかりやすいのが武器を呼び出してそれで戦うってことだよな。防具としてプロテクターや防刃ベスト出した時みたいに。
正直この魔法も人前じゃ見せらんないよなぁ…。
以前足確保の為1人用ヘリを~とか言ってたけど、この魔法を使えばヘリだろうが戦車だろうが戦闘機だってポンポン出せるんだもんな。パイロットだけ用意できればいきなり部隊として機能する戦力が出来上がるわ。21層からの巨大化エリアでヘリが複数あれば…って言ってた状況楽に達成できちまうよ…。自分じゃ動かせんから意味ないけど、軍に知られるわけにはいかない魔法2番目だな…」
空間魔法に引き続き、再び人目に触れるところでは使えない魔法が出てきてしまった。もちろん出すものによるが、乗り物系は人目に触れさせたらいけないだろう。それに公表してない力なので小さいものでも見られればまずことはまずいわけで…。
結局この魔法も扱いには要注意だなぁ…と、自分をまた戒める必要がありそうだった。便利なんだけどなぁ…。
「なんかもうどの魔法も見せていい所とダメな所ばかりな気がしてきたぞ。そういや土魔法も岩サイズの宝石見せらんないしなぁ。いや、あっちはダンジョンで採れるかもしれないっていう可能性があるからまだいいのか?
ともかくセーブしなければいけない所はどの魔法でもありそうだわ…。
で、結局召喚魔法での周りに見せても大丈夫そうな攻撃手段はなにがあんだ? この魔法の利点は途切れることのない物資だと思ってるんだがなぁ。それを見せちゃいけないってなると…途端に利用法がなさそうだぞ? 1人で輜重部隊を担当できる魔法だもんなぁ…影響が大きすぎだわ…。
この魔法に関してはソロ限定と考えとくかぁ。攻撃手段はいっぱいあるけど見せられないってのが辛いわ…」
とりあえず召喚魔法は状況を鑑みてという方向に決まった。
もしかしたらカモフラージュ用に大きなリュックでも担いでダンジョンに潜れば少しは物資についてごまかせるかも知れない等、使うためにはちょっとした小細工が必要かなぁという感じだ。
「さてと…次だ次。サクサク考えていかないと終わんねぇや。今日は夜中までコースは避けたいからな。思いつくもんはどんどん試してこう」
次によく使ってると言えば時間についての魔法かな…と思った。この家を建て直したすごい魔法だし、自分の若返りもこの魔法が関係しているだろうし。これに関していえばほんとインチキもいい所だと思っていた。
生物であろうと無機物であろうと、時間という力からは逃れることができない絶対的なものであり、未来も過去も操れるとなれば、神の力に匹敵するのではないか…と思っている。
「そしてやっぱこの魔法も軍…というかこの世のありとあらゆるものに関係するか。誰にも知られることがいかない魔法ってわけだ…。
まぁ、洗濯やら皿洗いとめっちゃ身近で使いまくりだけどな! だって便利すぎんだもんよこの魔法…。朝起きて髭そる手間もかからないわ、洗い物はパッっと終わるわ社会人に必須な能力すぎるって。
1日が48時間にならねぇかな…を、実際に実現してくれそうなんだよなこの魔法は。
これでマジックアイテムを何とか作ってみたいんだよねぇ…。この効果がかかった部屋に入ると時間の進みが半分になる! とかできそうなんだよな。ほんといつか作ってみたいわ…」
そうすればこういった訓練や知識を学ぶ時間が実質増やせるはずだ。広くできるかはわからないが…そこも含めていろいろ作ってみたいと感じていた。
時間魔法に関しては攻撃と言っていいのかわからないが、相手の時間を止めたり巻き戻したりができるのならば討伐もかなり楽になるはずだった。時間にあらがえる者等いないだろう。
ただこれも対象有りきなので、ここで今実験することが叶わないのを残念に思った。無機物に関しては先ほどのボールが転がし、途中で止まるのか? といった実験は成功しているのだが…。
生物相手はダンジョンでぶっつけ本番になってしまうのがこの訓練場の限界だろうか。
「後はダンジョンで確認すること…っと。それが成功すれば楽になるのは確かなんだからぜひとも成功してもらいたいな。
しかしこの魔法も見せられないわな。目に見える魔法ではないけど、彫像のように止まったモンスターとかが見られなければそれでいいか。
よし、次に行くかね。お次は重力変化だな。正確には重量変化になるのか? 重くしたり軽くしたりできるってことはその物体に掛かってる重力変化とも言えなくもないけど…。
というか疑問が出てきたけどダンジョン内部ってどうやって重力掛かってんだ? ダンジョンが重力調整してたらこの魔法はじかれたりしないよな?」
ダンジョンが内部の重力を管理している場合、もしかしたらダンジョン側から手を出される可能性があるんじゃないかと、ふと思ってしまった。
空間魔法もそうだが、ダンジョンの管理してる部分に影響を与える魔法はどうなるのか今は予想がつかなかった。
「例えばモンスターに掛かる重さを数倍にして動けなくさせようとしてもダンジョンがそれを異常と検知したら直される恐れもあるかぁ…こいつもダンジョンで要検証案件だなぁ。ちょっとこっちで実験してみるか。実際重力変化って肉体にやるとどうなるんだ? 無重力とかはちょっと体験してみたいんだよなぁ…」
重力変化という事は気圧をいじればいいのかな? と、先ほど転がしていたボールに、今かかっている気圧の3倍を加えてみた。
気圧の変化について計算を習ったはずだが、これもいつの間にか忘れてしまったなぁ…と、時間の経過を恨んでしまう。使わなければやはり忘れていくなぁ…。
一応1気圧が1013hPaというのは覚えているのだが、これを倍にした時どうなるか等興味があったはずなんだけども…。
ボールは上から気圧を変えられている所為か少しへこんでいるようにも見える。3気圧程度ではそこまでではないのかな? と思ったが、内部が水という事も影響しているのかもしれない。
それに平地より高い場所であるこの山も多少影響している可能性も考えた。いろんな要因が混ざってきてなにがなんだかよくわからなくなってきた…。
「難しく考えるのはやめよう。物理の実験したいわけじゃないんだっての。
とにかく一方からだけ圧を加えると対象は動くのに支障があるというのは確かなわけだ。後はこれがダンジョン内でも有効かどうかってところだなぁ…」
後に実験してからふと思ったことだが、重くさせるって要は内側に引っ張る力がさらにかかっている状態なわけで、普通に対象の体重増加でいいのではないかと思った。気圧変化ってどっちかというと風魔法の分野なのでは? と。
重力変化魔法で気圧を操れたのは、地上にかかる力を圧だと考えたからなのかはわからない。実際自分が使っている時も気圧がどうこうなんて難しく考えていないのだし。
そんな風に考えた結果、外からの力ではなく、対象の重量そのものを増やすか減らすと考えればダンジョンからの横やりは来ないのではないかという仮説が出た。
「こう考えると楽だな。気圧じゃなくて重力と引力操作ってことか。さっきは重くしたから今度は軽くしてみるか。
無重力状態になるにはそのどちらからとも解放してやればできそうだな…ちょっと試すか」
そう言うと訓練場にガラスで出来た箱型の部屋を作ってみた。
そんな勢いよくやるつもりはないが、もし失敗し重力だけ無くした場合、そのまま空に飛んで行ってしまう事になりかねんと思ったのだ。まぁ、飛行魔法ですぐにでも止まれはするのだが一応の保険というやつだ。
そして部屋の中に入ると、自身の体から重力と引力の力を無くしてみる。
「おお? いつも体に感じてた力がないとこんな風になるのか」
普通に立っている状態だったのだが、力をどちらとも無くしたことで将一の体は次第に浮き上がっていた。知らず知らずのうちに地面を蹴ってしまっていたのだろう。
「うおっ!? なんか浮遊魔法とも飛行魔法とも違う感じがしてちょっと変な気分だな。やべぇ…体の自由が効かんぞ」
完全に地面から足が離れた状態になり、どうにかしようともがいてみたところ体の向きがグルグルと変わる。一定の姿勢が維持できないのだ。空中で前転をしたり後転をしたりと、最初地面を離れた時の速度で壁にぶつかるまでの間、かなり困難な移動をすることになった。
まっすぐ立っていることがこれほど難しいものだったのかと思い知らされた瞬間だった。
しばらく不自由な思いをしながら、部屋の中をバウンドするかのようにして移動をしていた。だが変に体を動かさなければまっすぐを維持できるという事を学ぶと、余計な力をかけずただただ漂流物の真似をして、無重力にまずは慣れてみることにした。
「いやー…最初はテンパったけどちょっと慣れてくると楽しいもんだなぁこれ。速度そんな出さなければ壁にぶつかった時もそんな痛くないし、浮遊とは感じがちょっと違うけど面白いわぁ」
地面や壁に棒を出して掴まれる場所を作ると、そこを握りながら部屋の中を見渡す。この中自体は変わっていないのに自分だけが重力と引力から解放されたらこんなことができるのかぁ…と、満足そうな顔をしている。
壁を水にでもすれば衝撃が吸収されるだろうし、万が一間違ってスピードを出してもそれならば事故も減るかな? と、早速どう改造するかといった考えを出す。無重力体験コーナーがこうも簡単にできたことに気分が乗ってきた。
「いろんな魔法考えなきゃいけないからちょっと疲れてたけど…こうしてリフレッシュできたからよかったな。やっぱ息抜きは必要だわぁ…」
なんだかんだ他人に知られてはいけない魔法ばかり思い浮んだ所為か、知らず知らずのうちに気疲れしていたようだ。この無重力の魔法を試してみてよかったと、今はそう感じている。
ダンジョンで使えるかどうかという事から考え付いた魔法だが、こうして遊びに使えるともわかり気が楽になった。
この分なら重力を少しだけ戻してやれば、低重力空間も体験できそうかな? と思う。無重力空間も楽しいっちゃ楽しいのだが、人間やはり重力はなくてはならないな…と。宇宙飛行士の人が無重力に慣れる訓練をしている理由が分かった気がする。
「それに加えて無音の空間にも慣れなきゃいけないんだもんなぁ…。人間音がない空間にずっと居たら精神がおかしくなるって聞いたことあるけど実際どういう感じなのやら…。こっちも試してみるか? 宇宙飛行士になりたいわけじゃないから今はいいや…」
棒から手を離し、仰向けになって空中をゆっくり漂う。水面に浮かんでる間隔ともまた違うが、そんな気分でまったりとしながらこの無重力の力を堪能していた。




