52話 攻撃魔法を扱えるようになろう(7) 見せられないよ…
「うおっ! ボリュームたっぷりだな、ランスホークのから揚げは」
しばらく待ち続け、やっと自分の番号が呼ばれた将一はすぐさま料理を取りに向かった。席も近くなので取られることもないだろう。一応水も置いてあるのだし。
厨房の人から料理を受け取った瞬間、そのボリュームを見て驚いた。付け合わせとして盛ってあるキャベツの千切りの優に3倍以上のから揚げが山となって盛り付けてあった。
「大盛とか頼んでないんですけどこれ通常の量なんですか?」
「ええ、そうですよ。最初はもうちょっと少なかったんですけど、あの値段ならもう少し増やしてもいいんじゃないかってなりましてね。採算的に結構赤字ギリギリなんですけど…そのおかげか頼む人が増えましてね。お酒を飲む人にもこの量なら…と、結構人気なんですよ」
「へー…」
見ただけで大盛と勘違いしそうな量であり、厨房の人に聞いてみるがこれが今では普通らしい。
少し値段が高めだったのは希少性ゆえかと思っていたが、値段の割に量が少なく最初は人気がなかったのだろう。そこで個数を足してみたところ、お客から値段に釣り合うと認識されたらしい。お店からしたら赤字ギリギリらしいが、それで人気という事もあって下げるに下げれなくなった感じか。
(人気…という事は味的には大丈夫そうだな。鷹とか初めてだからむっちゃ気になるな…)
厨房の人にお礼を言って席まで戻る。早く食べてみたいという気持ちが高まってきた。
席に戻ると箸を手に早速から揚げを食べてみる。味に不安がなければ箸の動きに迷いがない。
「ほっほっ…アッツ……むぐむぐ…。う~ん…これが鷹かぁ。なんか筋肉質的なイメージがあったけど意外と柔らかいな。それにジュ―シーじゃん」
山になっている中から一つを箸にとって噛みつく。噛み切った部分からは揚げたての証拠として湯気が上がり、ジワーっと肉汁が染み出ていた。
肉そのものの味はさっぱりしているが、肉汁がそこに合わさりしっとりとした食感になっていた。味付けは少し濃い目かもしれないが、これはお酒にはよく合うだろう。もちろんご飯にもばっちりだ。
口の中の物を飲み込むと、すぐさま2口目に移る。やはりから揚げは箸が進む。から揚げと一緒に食べるキャベツの千切りも少し濃いめの味付けによく合う。キャベツの水気が油物を食べた後の口の中をやわらげてくれて、次のから揚げに伸ばす箸が止まらない。
時々汁物を飲んで口の中をさっぱりさせたり、レモンを少量絞って酸味を加え、から揚げの味を変えたりしながら次々に定食の中身を片付けていく。
「ふぅ…いやー美味しかった。鷹のから揚げって聞いたときはちょっとどうなんだと思ったけど…普通においしかったな。これはお酒が欲しくなるなぁ…やはりビールか…」
皿の上の物を全て平らげ終えた将一は、満足そうな顔で今食べたものについて考える。
結局ランスホークのランスの意味はわからなかったが、味的には満足だ。処理も丁寧にしてあるのか筋の部分もなく、中までしっかり火が通っており大変美味しかった。鷹の見方が変わった気がする。地上の鷹は手を出す気しないが、ダンジョンにいるこいつは将一の狩猟リストにランクインした。
「この量なら確かに食べごたえあるな。ごはんも進むしビールも杯が止まらなさそうだ。ゴクゴクいきたくなるなぁ…」
この後に魔法の訓練が控えてさえなければそうしたいと思うほど、このから揚げにビールを合わせたくなった。
「いつか…訓練が終わった時にでも1回やってやる…。今度は失敗しない程度だけど酒飲んでやるぅっ…」
口惜しいが、いつぞやの戒めが思いを止まらせる。今はこれで帰るがいつか来るからなっ! といった気持で、写真に載っているから揚げを睨む。しかしその写真の隣や、更に隣にある美味しそうな料理を見ると、こっちも食べたいという欲望に駆られてしまいそうになった。
これ以上ここにいたら今食べたばかりだというのにどんどん食欲が出てきそうな気がしてくる。今回は知り合いもおらず、管理部で済ます用事も無い為さっさと切り上げようと席を立つ。
食堂から出る際、入り口付近で酒を飲みながら盛り上がっていた探索者達の姿をどこか羨ましそうに感じつつも、その思いを断ち切るようにして食堂のドアを閉めた。
「さて…気持ちを切り替えるとするか。要は自分がさっさと11層に向かえばいいんだ。目標があるなら訓練にも身が入るってもんだ」
山の自宅に帰ってきた将一は、先ほどまでの思いを一旦忘れさせると訓練着に着替える。羨むのではなく自分で成せばいい。それだけの力を自分は持っているはずだと信じて、今は魔法の特訓に励む。
着替え終わって鉄壁の前まで来ると、とりあえず予定していた通り転送魔法、召喚魔法、時間魔法、重力変化魔法、氷、雷、樹魔法の特訓を開始する。
「まずは一番使ってそうな転送魔法からだな。
とは言っても…転送魔法って物を一時的に預けて後で引っ張りだしてくるって運用しかしてないしなぁ。転移は自分の思い描いたとこに行ったり来たりするので使ってるけど…これも攻撃用じゃないしなぁ。相手の真上に岩を落とすとか土魔法でいいし…攻撃用っていうとなんだ?」
転送魔法で攻撃というものがいまいち想像できず、最初から詰まってしまっていた。一応防御(回避?)としては相手の攻撃から逃げる、もしくは相手の攻撃を別の場所に飛ばすというやり方は思いついたのだが…。
その後唯一、他の属性魔法で出した攻撃を転送魔法で相手に飛ばすという方法も思いついたのだが、直接飛ばしゃいいじゃん…と思いなおすことになる。一応隠れながら飛ばせるという事で、これはやってみることにした。
「ん~…相手に隠れながら飛ばすのも出来るっちゃできるが…障壁張ってその裏から攻撃すれば自分がいるところと周囲を警戒しなきゃならんし、むしろ身をさらしていた方がモンスターにもプレッシャーになると思うんだよなぁ。この魔法は暗殺とか強襲用かな?
しかし転送魔法で攻撃といってもなかなか思いつかないもんだなぁ…。銃でも持ってれば弾切れ関係なく撃てるとかできるけど土魔法でそれ出来ちゃうからなぁ。やっぱ転送魔法って攻撃向きじゃない感じか?」
攻撃手段が今のところ1個しかないことに頭を悩ます。なんかないかなぁ…と、昔見たアニメを思い出していると唐突にできそうなことが頭に思い浮かんだ。
「わざわざ相手に向かって四方八方から魔法撃ち込まなくとも直接モンスターの部位に向かって転送するってのは出来ないのかな? 硫酸を相手の脳内に転送させる…とか? これができれば大きな攻撃なんていらなくなるよな。
それと攻撃かどうか怪しいけど、相手そのものをどこか別の場所に飛ばすとか? 要は戦闘回避だな。ほしい素材じゃないやつが出てきたらこれで解決しないか? もしくは相手の部位だけ飛ばすとかできたら強力そうなんだが…」
一つは相手の内部に魔法をそのまま転送させ倒す方法。もう一つは相手そのものを飛ばす、もしくは部位だけを飛ばす方法。どちらも出来ればかなり役に立ちそうだった。
将一は召喚魔法でビーチボールのような透明な物を呼び出すと、これの中身に水魔法で水を入れれるかの実験をしてみることにした。これができるなら相手の内部に硫酸が送り込めるという自信がつく。
「とりあえず空気を少なくして…ここに水が送り込めれば行けるはずなんだが…うまくいってくれよ」
空気が抜けたフニャフニャなボールを手に、水魔法をまずは使う。目の前で流れている水を認識して、それを転送魔法でボールの中に入るようイメージしてみる。うまくいけばこれでボールの中に水がどんどん入るはず…。
「おおっ!? 入ってる入ってるっ! どんどん膨らんで重くなってきてるじゃん!」
手に持ってるボールを見ていると、どこからともなく出てきた水がボールの中に溜まり始めた。透明なボールは水がどんどん入っていく様をしっかりと将一に見せた。
しばらく水を入れていると栓が持たなくなったのか外側に向かって弾き飛ばされた。水がどんどん入っていき、残っていた空気が圧縮されるとその圧が栓にかかってふっ飛んだみたいだ。しだいに水がボール全てを満たすと、栓があったところからピューッ! と勢いよく噴き出してきた。
「良いじゃん良いじゃん! これはいけるな! これをモンスターの頭にすれば水風船みたいになるぞ。硫酸ならすぐにでも倒せるし。水が行けるってことは他の魔法も送り込めるだろ? 相手の頭を認識できればモンスター側の損傷は頭部のみにできるし、素材もいい状態で卸せそうだ。良いじゃん転送魔法!」
かなり良好な手ごたえを感じ取り、喜びをあらわにする将一。これで正確な狙いをつけずとも狙ったところをどうにかできる手段が手に入った。
「じゃあもう一つの相手を転送する方はどうだ? ゲームとかだとしかし効果がなかったとか! とか言われること多いんだけど…」
いつも使っている案山子を目の前に出して、それを別の場所に転送するようイメージする。これはいつもやっていることでもあるし問題はなかった。
問題はモンスターが飛ばせるかだろう。失敗する要素は思いつかないが、モンスター自身が転送でダンジョン内に出されてることを考えればダンジョンが元に戻すかもしれないという不安要素はあった。
「じゃあ部分転送はどうだろう? 流石に飛ばした部分をまた元には戻さないとは思うんだが…」
目の前の案山子の頭部分だけを転送するとイメージして、魔法をかける。すると目の前の案山子から頭部が消え隣の地面に出てきた。これもイメージ通りに行ったことを喜ぶ。流石に頭部がなくなった時点でモンスターは絶命するだろう。そこにダンジョンが頭部をまた戻す…いくらなんでも無理じゃないかなぁと思った。
「これが行けるなら転送魔法だけでモンスターを倒すことも出来そうだな。倒し終わったら転送魔法で回収すれば素材は丸々手に入るしいいことだらけじゃないか。やっぱすげぇわ、転送魔法って…」
もしかしたらこれ一つで何とか出来るんじゃないか? という思いさえ今ならば転送魔法に対し抱いている。
転送魔法さえあれば、水や食料等いつでも取り出し放題、仕舞い放題。逃げるのも一瞬でいけるし、一本道の洞窟で向こうからモンスターが来たとしても更にその向こう側に移動して、先に向かって逃げ切る事すらできる。これで楽にダンジョンを移動出来るだろう。
しかし問題がないわけではない。あまりにも使い勝手が良すぎるのだ。便利すぎるがゆえに危険極まりない。
「他の探索者には見せられんよなぁ…これは流石に。それに軍にでも知られれば便利扱いされるかもしれん…物資が詰め込めるだけ詰め込めるって要は補給要員が自分1人で賄えるってことだろう?
流石にこれ知られたら自由に探索者生活なんてやってらんなさそうだぞ。使うのはいいが他人に知られるわけないはいかない力だな…」
他にも強力過ぎて見せられない力はあるが、それとはまた違った意味で知られるわけにはいかないのが転送魔法だろう。
この世界からダンジョンを1つ残らず無くそうとか考える人からしたら、間違いなく知られたらやばい力だと理解できた。
流石は世界すら超えることができた魔法。神様ほどの力はないだろうが、そう聞くとほんとすごい魔法をぽんぽん使っていたんだなぁ…と、少しは使用は控えるべきかと考え込んでしまうのだった。




