【吟遊詩人を追え! 特ダネ記者が見たものとは】
デイリーベレナ 朝刊 06/17
『クリストフ勇者団』が吟遊詩人 ジャンの追放を宣言した当日、隣国の『メティス王国』へ向かう馬車に乗り込んだという情報を掴んだ。デイリーベレナデスク。
昨日の今日で彼は何を思ったのか。彼が足繁く通うと噂されるパブ『カーディナル』へと突撃取材を敢行した。
「あらやだ、取材!?」と、我々を迎えるのは女将のマレナさん。何も話すことは無いわよと言いながらも、その表情はとても嬉しそうだ。
――『クリストフ勇者団』のジャン氏がよくこの酒場を訪れていたと耳にしましたが。
マレナさん(以下、マレナ):そうなのよ。クエストのない間はずっとここにいるみたいで。
――どういう人物だったのですか?
マレナ:うーん、一言でたとえるなら、生意気? 歳相応だけど、まあそこも可愛らしいところよね(笑)。
――王都を離れるにあたって、彼は何か遺していきましたか?
マレナ:そこはプライベートなところと言うか(笑)。きっと忘れたころにまたやってくるわよ。
そうこうしているうちに、『カーディナル』へ最初のお客さんがやってきた。
王都ベレナから世界へ無数の踊り子を輩出してきた、アーロン・マクレガー氏である。
今日もまた一番乗りではなかったと悔しそうにぼやいていたが、記者団の質問に対し、気さくに応じてくれた。
――ジャン氏の行く先に心当たりはありますか?
アーロン・マクレガー氏(以下、アーロン):は? あいつ、何処か行っちまったのか!
――ええ、ご存知無かったのですか?
アーロン:あたりめーよ! って、お前さんあれか? あいつのファンか?
――ファン、と言われれば『そうです』と答えるしか無いですね。
アーロン:じゃあ俺らはダチだな! あいつの弾く曲はいいぞ!
あれよあれよという間に、アーロン氏より酒を勧められる記者団。
――ジャン氏がいなくなって、寂しくなりますね。
アーロン:そうだな。でも、そのうち帰ってくるだろ。
マレナ:何処かで野垂れ死ななけりゃいいけれど。
アーロン:そいつぁ困った! そんならウチで雇うべきだったか!
マレナ:まあきっと、風が護ってくれるさ。
『風が護ってくれる』
旅人を勇気付けるフレーズとして、ベレナに立ち寄る旅人にかける合言葉ということは、読者もご存知だろう。
とても仲間に恵まれた生活だったことが、手に取るようにわかった。
【取材協力:パブ カーディナル 王都ベレナ 四番地】