12話
シンはアモンから渡された紙を確認しながら、指定された試験会場へと向かっていた。
辿り着いたのは、古びた石造りの建物に四方を囲まれた中庭だった。中央には大きな樹木がそびえ立ち、四方へ伸びた枝葉が中庭を覆うように生い茂っている。ひび割れた石畳には所々に草が生え、葉の隙間から差し込む陽光が柔らかな木漏れ日を落としていた。長い年月を感じさせる石壁と豊かな緑が調和した、どこか幻想的で美しい場所。
しかし、その静かな景色とは裏腹に、中庭にはすでに大勢の受験者が集まっていた。
「うわ……でも思ったよりは少ない?」
見渡した限りでも100人は優に超えている。まだ朝早くに来たつもりだったが、自分より先にこれほど多くの受験者が集まっているとは思わなかった。
試験開始を待つ人々の様子も様々だった。壁際で目を閉じ、静かに精神統一を図る者もいれば、分厚い魔導書を開き、必死に内容を確認している者もいる。数人で集まって談笑する者たちもいたが、その表情にはどこか緊張が滲んでいた。
シンも空いている場所を見つけ、周囲の様子を眺めながら試験開始を待つことにした。
しばらくすると、中央にそびえ立つ大樹の根元で、突然空間がぐにゃりと歪み始めた。
「……ん?」
ギュルギュルと奇妙な音を響かせながら、何もない空間が渦を巻くようにねじれていく。その異変に気づいた受験者たちが次々と顔を向ける中、歪みは一点へと収束し、やがてそこから2人の人影が現れた。
「はーい! ちゅうもーく! びっくりさせてごめんね、みんなー!」
元気いっぱいの声が中庭に響き渡る。そう言って笑顔で手を振ったのは、カリオンの制服と思われる衣服を身につけた少女だった。
艶やかな紺色の髪に、すらりと伸びた長い手足。背は高く、女性らしい豊満な体つきをしており、何よりその明るい表情と弾んだ声から、快活な性格であることが一目で伝わってくる。
「さあ! もうすぐカリオンの入学試験を始めるよー! 今回の司会は私、カリオン騎士魔導学園の2年生代表、レナ・リムトフィール……うわっ!?」
「先輩を差し置いて、何をしている……」
突然、背後に立っていた青年がレナの自己紹介へ割り込んだ。
青年は白い髪をしており、レナとは対照的に落ち着いた雰囲気を纏っている。カリオンの制服と思われるローブを羽織ってはいたが、その下にはシンの見たこともない形の衣服を着ていた。
さらに目を引いたのは、背中に背負った長大な武器だ。剣、と呼ぶにはあまりにも長い。独特な形状をしたその武器は、シンが普段目にする剣とは明らかに異なっていた。
「あの服……滝那人か?」
「それに背中のあれ、刀っていう武器に似てないか? 滝那の国でしか作られていないっていう……」
近くにいた受験者たちが小声で囁き合う。
青年は周囲の視線を気にする様子もなく、一歩前へ出た。
「僕はカリオン騎士魔導学園の3年生代表、鞍馬茅ノ介。今回の入学試験は、僕と彼女で執り行う」
その名前を聞き、一部の受験者たちは確信したようだった。
滝那の国。アースヴァロン王国から最も遠く、遥か南東の海に浮かぶ異色の島国。その独特な文化や武器は、他国でも広く知られているらしい。
会場がざわつき始めると、レナがパンパンと両手を打ち鳴らした。
「はいはい、静かに〜! まだ説明の途中だよ!」
その明るい声に、受験者たちは少しずつ口を閉じていく。
「それじゃあ、今年の試験内容を発表しまーす!」
レナはそう言うと、銀色の短杖を取り出し、正面の石壁へと向けた。
「個別開閉!」
杖の先端が一瞬だけ白く輝く。直後、ゴゴゴゴ……という重々しい音とともに石壁が左右へ分かれ、その奥に短い通路が現れた。
そして、通路の先にあったものを見た瞬間、シンは目を見開いた。
そこには、黒く円形に口を開いた穴があった。内部では青い魔力が渦を巻いており、周囲の景色とは明らかに異質な存在感を放っている。
「……ダンジョン」
思わず口から漏れた言葉に、周囲の受験者たちも反応した。どうやら見覚えのある者は少なくないらしい。
「今回の入学試験は! この、すでにほとんど攻略されている3級ダンジョンに入ってもらいまーす! そして明日の朝まで、無事に生き残ってくださーい!」
一瞬、会場が静まり返った。だが次の瞬間、受験者たちから一斉に声が上がる。
「はぁ!? なんだよそれ!」
「そんなの聞いてないぞ!」
「せっかく勉強してきたのに!」
不満や困惑の声が飛び交う中、レナはまったく動じることなく、笑顔で片手をひらひらと振った。
「はいはい、いい子だから落ち着いて。受験内容は毎年違うの。今回はたまたまダンジョンでのサバイバルだったってだけ! 運も時には大切なんだよ?」
そう言うと、レナは何かを思い出したように指を立てた。
「あ、ちなみに食料の持ち込みは禁止ね。持ち込めるのは杖とか剣とか、武器になるものだけ! でも大丈夫! ダンジョンの中には生き物も水もあるから、頑張れば飢える心配もないし、そもそも人間って1日くらい飲まず食わずでも一応なんとかなるでしょ?」
あまりにも軽い調子の説明に、受験者たちは顔を見合わせる。
「あと、万が一死んじゃっても自己責任だから、そこだけ気をつけてね!」
レナが満面の笑みで言い放った瞬間、会場の空気が一変した。
「し、死ぬって……冗談だろ!?」
「3級でも魔物はいるんだぞ!? そんな場所で一晩過ごせっていうのか!」
「おい、聞いてねぇぞ! こんなの試験じゃなくて命懸けじゃねぇか!」
「む、無理よ……私、まだまともに魔物と戦ったこともないのに……!」
恐怖と動揺が入り混じった声が中庭に響き、先ほどまで落ち着いていた受験者たちの間にも不安が広がっていく。
そんな様子を眺めながら、レナは「あはは」と笑った。
「あ、そうそう! その前に、みんなにこれを渡しておくね!」
そう言って示したのは、小さな丸いガラス瓶だった。ほどなくして全員に同じ瓶が配られる。
シンも手渡されたそれを持ち上げ、目の高さまで近づけてみた。
「……なんだ、これ?」
瓶の内部には、先ほど大樹の根元に現れた空間の歪みに似たものが閉じ込められていた。小さな渦のようなそれは、ガラスの内側で絶えず形を変えている。
「それを割るとね、強制的にダンジョンの外、つまりこの大きな木の下まで転移できるの。本当に危ないと思ったら、迷わず使ってね!」
レナはにっこりと微笑む。
「ただし、それを使った時点で不合格! また来年頑張ってねってことになるから、そこはよく考えて! それから、今回入学できるのは最大60人まで! もし60人以上が生き残った場合は、ダンジョン内での功績が高い順に選抜しまーす!」
つまり、ただ生き残るだけでは合格できない可能性があるということだ。
シンは小さな瓶を見つめながら、アモンとの修行を思い返していた。生き残ることはもちろん大切だ。けれど、それだけでは駄目かもしれない。
「それじゃあ、説明は以上! さあさあ、みんな順番にダンジョンへ入って入って!」
レナが両手を広げると、受験者たちは戸惑いながらも少しずつ動き始めた。やがて入口には列ができ、1人、また1人と青い渦の向こうへ姿を消していく。
シンも列に並び、順番を待った。そして、いよいよ自分の番が訪れる。
「……よし」
小さく息を吐き、シンはダンジョンへと足を踏み入れた。
次の瞬間、視界がぐにゃりと歪み、足元の感覚が一瞬だけ曖昧になる。そして再び景色が定まった時、シンの目の前には、想像を遥かに超える巨大な空間が広がっていた。
「……うわぁ」
そこは、まるで地下にもう1つの世界が存在しているかのような場所だった。
天井は遥か頭上にあり、薄暗い空間の向こうまで巨大な岩壁が続いている。地面は平坦ではなく、至る所に崖や岩棚が突き出し、場所によっては何十メートルもの高低差があった。遠くには切り立った岩山のような地形も見え、その下には底の見えないほど深い谷が口を開けている。
足を滑らせて落ちれば、命はないだろう。
「……これが3級ダンジョン?」
以前アモンと入ったダンジョンとは、まるで景色が違う。
そうしている間にも、周囲の受験者たちは次々と行動を始めていた。1人で崖沿いの道を進んでいく者もいれば、近くにいた者同士で声を掛け合い、数人の集団を作る者もいる。
「一緒に行かないか?」
「俺たち、あっちを調べようと思ってるんだけど」
「治癒術式を使える人いない?」
そんな声があちこちから聞こえてきた。
シンも周囲を見渡したが、どうにも声を掛けるきっかけが掴めない。そもそも、これまで友達らしい友達ができたことすらない。初対面の相手に突然「仲間に入れてくれ」と言うだけでも、妙に緊張してしまう。
「……どうしよう」
誰かに話しかけようとした時には、すでに近くの受験者たちはそれぞれの集団で移動を始めていた。気づけば、周囲に残っている人影はまばらになっている。
「……あー、やっちゃった」
シンは頭を掻いた。
アモンからは友達を作れと言われていたのに、試験が始まって早々、仲間作りという点では完全に出遅れてしまったらしい。
「……まあ、仕方ないか」
結局、シンは1人で行動することにした。
一方その頃、中庭では最後の受験者がダンジョンへと姿を消していた。
青い渦を眺めていた茅ノ介が、隣に立つレナへ声を掛ける。
「……何も、あそこまで怖がらせる必要はなかったんじゃないのか?」
「えー?」
「どうせ僕たちもすぐに入るんだろ。それに、他の生徒もすでにダンジョン内へ入っている。死ぬようなことはまずないはずだ」
茅ノ介は腕を組み、ため息交じりに続けた。
「瓶を割る暇もなく死にそうになったら、助けろってことだろ?」
「まあ、そうだけどさ」
レナは悪びれる様子もなく肩をすくめる。
「緊張感は大事でしょ?」
そう言って、楽しそうに笑った。
ーーーーー。
ダンジョンへ入ったシンは、崖沿いの道を慎重に下りながら、周囲に目を配っていた。
まずは食料になりそうな生き物を探すこと。それから、無理なく倒せそうな魔物がいれば討伐しておくことにした。
今回の試験では、60人以上が生き残った場合、ダンジョン内での功績によって合否が決まるという。ならば、ただ隠れて時間が過ぎるのを待つわけにはいかない。
「……できることは、やっておかないと」
シンは足元の岩を確かめながら、ゆっくりと崖を下りていく。
しばらく歩いていると、周囲の地面に小さなキノコが生え始めていることに気づいた。
「お、キノコか」
食べられる種類かどうかは分からないが、ひとまず確認してみようと足を止める。
しかし、その中に1つだけ、明らかに異様な大きさのキノコが混じっていた。人間の頭の何倍もありそうな巨大な傘が、地面から突き出している。
「……うえぇ、あれは明らかに食べられなさそう……」
シンが顔をしかめた、その時だった。
ボコッ、ボコボコッ!
「……え?」
巨大なキノコの根元が不気味に盛り上がり、突然そこから人間の腕のようなものが突き出した。さらに地面が割れ、何かが這い出してくる。
現れたのは、豊満巨乳な女性の身体に巨大なキノコの傘をそのまま頭として取りつけたような、異様な姿の魔物だった。
「ちょ、ちょちょちょっ!?」
シンは思わず後ずさった。だが、すぐに踏みとどまる。
こんなことで怖気づいていては、10か月も自分を鍛えてくれたアモンに合わせる顔がない。
「……よし、落ち着け」
シンは収納によって魔力へと変えていた黒剣を再び実体化させ、その柄をしっかりと握った。
「……やっぱり、見た目より軽いな。この剣」
剣を構え直した瞬間、周囲の地面が次々と盛り上がった。同じ姿の魔物が次々と現れ、シンを取り囲む。
その数、6体。
魔物たちは一斉に襲いかかってきた。
「そらぁっ!」
シンは身体強化を発動し、踏み込んできた前衛の2体へ黒剣を振るった。
スパンッ!
鋭い横薙ぎが2体の胴を捉え、その身体をまとめて真っ二つに断ち切る。
ーーよし! スティーラもちゃんと使えてる!」
手応えは悪くない。だが、まだ4体残っている。そのうちの1体が突然地面へ潜り込み、姿を消した。
「……ん?」
行方を探ろうとしたが、残る3体がすでにこちらへ走り出している。シンは一瞬考え、左手を前方へ突き出した。
「……やってみよう。今なら、いけるはず!」
掌へ魔力を集中させる。
「光星!」
その瞬間、シンの左手に青い炎のような光が集まり始めた。渦を巻く光は次第に勢いを増し、激しく唸りを上げる。
コォォォォッ!!
次の瞬間、流れ星のような青い光が掌から一直線に放たれた。
放たれたアモールの光は、正面から迫っていた3体の魔物をまとめて捉える。中央にいた1体はそのまま勢いよく吹き飛ばされ、左右にいた2体も衝撃で地面を転がった。青い炎に包まれた身体は大きく焼け、そのまま動かなくなる。
「……やった!」
シンは小さく拳を握った。だが、喜ぶにはまだ早い。
「あと1体……」
地面へ潜った最後の魔物が、まだ姿を見せていない。
シンは周囲を見渡しながら、慎重に黒剣を構え直した。
一応、魔力探知は使ってるけど……。
アモンから教わったことを思い出す。
魔力探知は、周囲に広げた自分の魔力に触れる別の魔力を感知する術式だ。そのため、魔力が関係しない攻撃や動きまでは捉えられない場合がある。つまり、魔力探知を使っているからといって、すべてを察知できるわけではない。
「……どこだ?」
シンは神経を研ぎ澄ませ、足元の地面にも注意を向けた。
その時だった。
ボコッ!
「っ!」
突然、すぐ近くの地面から巨大なキノコの頭が飛び出した。シンは反射的に踏み込み、黒剣を振り下ろそうとする。
しかし、それより一瞬早く魔物の口が大きく開いた。
ブシュッ!!
「うわっ!?」
口から放たれたのは、粘液のような粘り気を持つ液体だった。シンは咄嗟に身を捻ったものの、避けきれなかった粘液が身体へまとわりつき、その勢いのまま背後の木へ叩きつけられる。
「いっ……たぁ!」
気づけば両腕も身体も、粘液によって木の幹へ貼りつけられていた。
「な、なんだこれ!? 全然取れない!」
力任せに引き剥がそうとしても、粘液は伸びるばかりで離れない。
その間にも、魔物がゆっくりと近づいてくる。巨大なキノコの傘の下から、吸盤のような不気味な口が現れた。
「……っ!」
シンは必死に身体を動かそうとした。だが、粘液はびくともしない。
魔物が大きく口を開き、シンへ飛びかかろうとした、その瞬間――。
「聖穿!!」
鋭い声が響いた。
直後、真横から黄金に輝く太い槍のような光が凄まじい勢いで飛来する。
ドゴォッ!!
黄金の光は魔物の胴体を完全に抉り貫き、そのまま向こう側へ突き抜けた。
「……え?」
シンは呆気に取られたまま、力を失って崩れ落ちる魔物を見つめていた。
何が起きたのか理解するより先に、横から女性の声が聞こえてくる。
「命拾いしたわね。感謝しなさい!」
顔を向けると、そこには小柄な少女が立っていた。
何より目を引いたのは、その特徴的な髪色だった。頭の中央を境に、右と左で黒と白に綺麗に分かれている。
少女はシンを一瞥すると、それ以上何かを言うこともなく、さっさと歩き始めた。
「あっ! ちょっと……!」
呼び止めようとしたが、少女は振り返らない。そのまま崖を下り、あっという間に姿を消してしまった。
「……行っちゃった」
シンは木に貼りつけられたまま、ため息をついた。
できれば協力をお願いしたかったのだが、どうやらそんな暇もなかったらしい。
ーー……というか、まずこれをどうにかしないと。
シンは自分の身体にまとわりついた粘液へ目を向ける。引っ張っても取れない。無理に動けば、ますます身体へ絡みついてくる。
どうしたものかと考えた、その時だった。
「……あっ!」
ふと、アモンとの授業を思い出す。
アモールの光には、別名がある。浄化の光。
単に魔力干渉によって対象を攻撃するだけではなく、あらゆる効果を洗い流す性質を持っていると教わっていた。
「……そうだ、それなら!」
シンは動かせる範囲で指先へ魔力を集中させ、青い光を生み出した。そして、それを身体にまとわりついた粘液へと移していく。
シュアァッ!
「おおっ!」
青い光に触れた粘液が、まるで蒸発するように消えていく。腕を拘束していた粘液が剥がれ、続いて身体を貼りつけていたものも消え去った。
ようやく自由になったシンは木から離れると、大きく息を吐いた。
「……助かったぁ」
軽く身体を動かし、異常がないことを確認する。それから、少女が姿を消した崖の方へ目を向けた。
追いかけてみようかな
シンは黒剣を持ち直し、先ほどの少女を追うように崖を下り始めた。
しばらく進んだところで、道の脇に奇妙なものがあることに気づいた。
「……ん?」
そこには、巨大な騎士を模した石像が立っていた。
身長はシンの2倍ほどもありそうで、全身を重厚な石の鎧で覆っている。手には石で作られた大剣が握られ、まるで本物の騎士がその場で動きを止めたかのようだった。
「……なんか、嫌な予感がする」
シンは思わず足を止めた。
すると、まるでその言葉に応えるように、石像の身体がわずかに軋んだ。
ゴゴゴ……。
やっぱり!
石像がゆっくりと動き始める。重々しい音を立てながら大剣を持ち上げ、その切っ先をシンへ向けた。
まるで、本物の騎士のような構えだった。
シンは反射的に黒剣の柄を握る。
逃げるという選択肢もある。相手がどれほど強いのか分からない以上、無理に戦う必要はないはずだ。
それでも――。
ーー……この剣で、どこまでやれるんだろう。
そんな考えが頭をよぎった。
アモンと過ごした10か月間で、自分は確かに強くなった。けれど、それが実際の戦いでどこまで通用するのか、まだよく分かっていない。
目の前の石像騎士を見つめるうちに、シンの胸には恐怖よりも好奇心が膨らみ始めていた。
「……よし」
シンは黒剣を構え、石像騎士の動きを注意深く見据えた。
その時だった。
「やめとけよ」
突然、背後から少年の声が聞こえてきた。
「……え?」
シンは振り向こうとしたが、目の前の石像騎士から視線を外すわけにはいかなかった。いつ襲いかかってくるか分からない。
そのため、声の主を確認することもできず、構えたまま答えた。
「なんで・・・ですか?」
背後の少年は、そんなシンの様子を見て少し感心したようだった。
ーーへぇ、こっち向かないんだ。
「……まあ、いいや。頑張れー」
少年は気の抜けた声でそう言うと、そのまま立ち去ろうとした。
しかし――。
「……ん?」
ふと、少年の視線がシンの手にある黒剣へと向けられた。
その瞬間、少年の目が大きく見開かれる。
「……はぁ」
少年は足を止めると、片手を額へ当てた。
「……気になっちまった」
そう呟き、ゆっくりと踵を返す。そして、石像騎士の動きを警戒し続けているシンへ近づくと――。
「よし、こっち来いよ」
「……えっ!?」
突然、シンの手を掴んだ。
少年はにこっと笑い、そのまま強引にシンを引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと待って! 何!?」
状況を理解できないまま、シンは少年に手を引かれ、石像騎士の前から連れ去られてしまった。
ーーーーー。




