第九話 叱られる資格
目を覚ますと、白い天井があった。
体が痛い。
「知らない天井だ……」
「あっ、やっと起きた」
寝台の脇にリネットが座っていた。
ここはベルク村の診療所だった。左腕は肩から指先まで固定され、肋骨にも布が巻かれている。
「村の人たちは?」
「全員無事。怪我人はいるけど、死者はいないよ」
敬由は息を吐いた。
リネットは笑わなかった。
「....何で一人で行ったの」
「俺も役に立てるって……」
敬由の声は小さく、弱かった。
「誰に証明したかった?」
リネットは真っ直ぐに敬由を見据える。
答えられなかった。
「私たち? ギルド? それとも、他の――」
「自分に....」
ようやく口にすると、ひどく情けない答えに聞こえた。
「俺、何にもなかったから。仕事も普通で、強くも賢くもなくて。それでも異世界に来たら、特別になれると思った。百面鬼があれば、今度こそって」
リネットは静かに答える。
「それで死んだら、何にもならない」
「はい」
「村の子まで危険にさらした」
「はい」
「....私たちも心配した」
「……はい」
リネットの拳が敬由の頭へ落ちた。怪我人への配慮か、いつもより優しく感じた。
「叱られてるうちは、まだ仲間だから」
「えっ...」
敬由が顔を上げると、リネットは横を向いた。犬耳だけが細かく震えていた。
「他のみんなに目を覚ましたこと伝えてくる」
入れ替わるようにエリシアが入ってきた。
「目が覚めたなら、検査します」
魔力回路には軽い損傷があり、しばらく百面鬼の使用は禁止された。
「あのとき、あなたはリネットの身体強化を模倣しました」
「はい」
「あなたには火属性への適性がありません。百面鬼は不足する属性を、無理に無属性の魔力で代用したのでしょう。次も同じ程度で済む保証はありません」
「それでも、使うときは来ると思います」
「そうでしょうね」
エリシアは溜息をついた。それから厳しい顔になる。
「ですから私が管理します。使用時間、模倣対象、身体への負荷。すべて教えてください」
「師匠……!」
「師匠ではなく、監視役です」
エリシアは呆れたように返す。
最後にボルガが来た。
無言で椅子へ座り、無言で敬由の額を小突いた。
「すみませんでした」
「何が悪かった」
「勝手に一人で行ったこと。三人の技を、自分の力みたいに言ったこと」
「それだけか」
敬由は考えた。
「技の形だけ真似して、その人が何のために使ってるかを見てなかった」
ボルガは鼻を鳴らした。
「及第点だ」
「槌、勝手に使ってすみません」
「あれはいい。道具は使ってなんぼだ」
「はい」
「それと、お前の振り方は槌術じゃねえ」
「やっぱり駄目でした?」
「逆だ。俺の技だけなら、あの亀裂は割れなかった。お前は槌をスコップみてえに使った」
ボルガは僅かに口元を緩めた。
「借り物の力へ、自分の持ってるもんを足せ。それなら八割が、別の十になることもある」
敬由はその言葉を、忘れないよう何度も心の中で繰り返した。




