灯す
「僕らも前澤さんに託してる。」
久瀬の言葉に敵の1人が返す。
「高円寺さんと戦ってるあの人、前澤というんですか。ずいぶんと信頼されているようですが、高円寺さんには敵わないでしょう。高円寺さんは我々萌芽隊の更に上、果核隊に属されるお方だ。」
「神田というのは?」
久瀬が言う。
「神田…?彼はこのAdamTerraceの創始者ですよ。我々はあの方の理想に共感し、そして彼の目指す世界へ向けて力添えしている。彼の作る世界こそが、我々が求む真に平和な世界だ」
「なるほど。あなた達の理想は聞く気もありませんが、ともかく最初の目測が外れましたね。ということはこの組織の創始者、つまりトップがわざわざ出張って権藤所長の略取に関わっているということだ」
久瀬の言葉に森田が返す。
「久瀬くん、どこでそれを?」
「柳当主…柳教官から聞きました。詳しくはここを終えてから。」
「そうだね」
「彼の理想はまもなく完成する。半端な覚悟で邪魔はやめて頂きたい…!」
敵はまとまって武尊たちに飛びかかる。郷原が鉄筋を持って前に出ようとする。
「よし!俺に任せ…」
「みなさん、一旦下がってください!」
久瀬に言われるままに、驚く郷原と武尊、森田は数歩後ろへ下がった。
「水洗禍!!」
久瀬の前を大量の水が覆う。その水は一瞬にして久瀬の前方の廊下を覆い尽くし、敵を飲み込んだ。
「水…!?」
大量の水の奔流に全ての敵は押し流される。水は勢いを増して狭い廊下を敵を押しながら進み、奥の扉をも壊し、大きな部屋に押し込んだ。
「どこからこんな物量…!!」
敵のうち1人がふと気付く。
「濡れていない…?これは…本物の水ではない!」
敵の1人がそう叫んだ時、その水はフッと消えた。敵が問う。
「なんの能力ですか…?」
部屋に入った4人の先陣を切っていた久瀬が答える。
「恐怖ですよ、水は怖いですね」
「答えになってませんよ…!!」
その男は腕を振るった。
ビュゥウウ!!!
突風が武尊たちを襲う。強風に殴られたように武尊たちは後ろの壁へ激突する。
「ぐぁっ…!」
「風…!」
風が止み、壁に打ち付けられた武尊たちは床に落ちる。同時に敵が答える。
「そうです、私の能力は風。」
「それでさっき…!」
武尊は鉄骨が寸前で止まった瞬間を思い出す。
「破迅闘風!!」
そう言った敵の後ろの三人はその男が作る風に乗り武尊たちに襲いかかる。
「浮筋浮筋!!!」
「怨霊調節」
「現示物語…!」
「生命判断!!」
それぞれが能力を発動すると、敵が驚く。
「な!?全員能力を…!?あなたたち一体…」
「あんたらが攫った人の教え子だよ!!」
武尊が答えた。
武尊以外の森田、久瀬、郷原は立ち直り、風に乗った三人をそれぞれ抑える。久瀬が風の男に言う。
「逆にそちらはあなた以外能力者じゃないんですね」
「だったらなんだ!」
敵の三人は懐からそれぞれ凶器を取り出す。メリケンサック、ヌンチャク、刃物。
「子供相手に大人げないですね」
「全員能力者なら話が別でしょう…!」
「武尊くん!」
敵を見ながら久瀬が声をかける。
「…?」
「キミが何をしていたかは知らないけど、それを多少は扱えるようになったんでしょう!相手は風です!よく考えてください!!」
その言葉に武尊は手に持ったライターを見つめた。
「風…」
武尊は脳内で反芻した。前澤との特訓と、そして今まで色々な場面で目にしてきた『火』について。ライターに火がつく。そのライターの火を足元の焚き木に移した。火は微かに揺れるがすぐに消える。またライターで火をつける。風が吹いた。火は消えずに他の木へと火を移し、そして大きくなる。風が吹く度、火は大きくなる。武尊の頭の中で、明らかなイメージが湧いてくる。火は大きく、風に揺られながら強くなっていく。
「彼が穴ですか…!まずはあなた…!!」
風の男の能力によって刃物を持った男がフワッと風に浮く。その風は武尊に向かい吹き付ける。
「武尊!!」
郷原が間に入ろうとするが、別の男が立ち塞がる。
「どけ!!」
郷原の攻撃をヌンチャクの男がかわし、郷原にヌンチャクを打ち付ける。
「ぐっ…!武尊!!!!」
「生命判断…」
武尊はふぅ…と息を吐く。風に乗った刃物の男が武尊の寸前に到達した、その時。武尊は刃物の男にライターを持つ手を向ける。その握った拳から炎が立ち上がる。
「!?」
炎は大きな火柱となり目の前の刃物の男をまっすぐ飲み込んだ。
「がっ……!!」
刃物の男は膝をついてから天を仰いでその場に倒れた。久瀬がニヤリと笑いながら言う。
「武尊くん…!」
「生命判断…焔舞蝸…!」




