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葉力体人間

仕事に疲れた。

月に残業が60時間を超えてくると、無気力になってくる。基本的に、何もしたくない。食事さえ億劫になってしまうほどに。

休みの日だって、外にすら出たくない。じっと、布団の中で一日を消費する。冬眠中の動物か。あるいは発芽の機会を待つ植物か。



『ピンポーン』



その日も布団でぼうっと寝ていると、家のインターホンが鳴った。

しかし、出るのすら面倒くさい。




『ピンポーン』




2回目。




『ピンポーン』



3回目。



『ピンポーン』



4回目。

さすがにしつこいと思い、重い体を起こして玄関に向かう。

おそるおそるドアスコープを覗き込むと、そこにはオレンジ色のワンピースを着た、美しい女性がいた。



(誰だろう?会社の関係者かな。)



ゆっくりとドアを開けると、爽やかな金木犀の香りが風に乗って漂ってきた。



「お休みのところ、すみません。私、こういうものです。」


女性は名刺を渡してきた。


〈働くみんなを応援し隊 代表 目堂里美(めどうさとみ)〉


「目堂(めどう)さん。・・・すみません。存じ上げないのですが。」


「ええ。こうしてお話しするのは初めてです。しかし、私はあなたの頑張りを知っています。

朝早く家をでて、帰ってくるのは日が沈んだ後。残業が当たり前の毎日。休みの日だって外に出る気力すらない。」


「ええ、まさしくその通りで。」


「そのような方を応援したくて、私はとあるサプリを開発しました。その名も、『葉力体(ようりょくたい)』です。」


「ヨウリョクタイ?」


「はい。これを一日一錠服用し、簡単な約束を守るだけでモリモリとやる気が漲って来ます。」


「あー、うん。せっかくのところ申し訳ないけど。俺そういうの興味ないから。」


「そうとは言わず、是非、ひと箱だけでも、無料で差し上げますから。」


「まあ、無料なら。一応もらっておくけど。」


「ありがとうございます。一ヶ月分あります。あと、簡単な約束ですが、これは簡単なだけに絶対に守ってください。守れば絶大な効果を発揮しますので。

まず第一に、こちらのサプリは必ず水と一緒に飲んでください。水道水でも大丈夫です。他の飲み物と一緒に飲んでも悪いことは無いのですが、必ずその後は水を飲んで下さい。」


「要は、サプリを服用した後に、なるべく早く水を飲めばいいわけね。」


「はい。忘れる方が多いので、一緒に飲むことを強くお勧めします。そして第二に、服用した後は、なるべく長い時間、日光に当たってください。寝てても構いません。外を歩いても構いません。長時間当たれば当たるほど効果が出ますので。」


「寝ててもいいってのは、気が楽だな。」


「そう思っていただければ幸いです。一番大事なのは3つ目。一日一錠より、多く服用しないでください。これが、本当に大事です。先程の2つの注意事項は破っても効果が薄くなるだけなので大事には至りません。しかし、3つ目の約束。これは、絶対です。」


「・・・なんか怖いなあ。」


「これだけ推しといて何なのですが、あくまで自己責任です。嫌だったらそちらで処分してもらっても大丈夫ですので。」


「そう・・・でも、だったらコレいらないからって・・・え!?!?どこに行ったあの人???」


少し目を離した隙に、あのオレンジ色の人は居なくなっていた。


(怖っ・・・怖っ。絶対に怪しいやつじゃん。コレ。)


改めて箱を見る。

裏側には注意書きが。


①服用の際は水を一緒に飲むこと。

②服用後は日光に当たること。

③一日一錠。


箱を開けてみる。小さなカプセル錠剤だ。


(抹茶色というか、深緑というか・・・変な色。)


頭の中にふと浮かぶ。あの、よく広告であるやつ。なんだっけか。あの、健康食品のお茶みたいな。


(まあ、せっかくだし。試してみるか。)


実際にやる気はない。この状態から活力が湧き、エネルギッシュになるのであれば、それは大いに助かる。


一錠を、水と一緒に、飲む・・・と。


特に苦さとかはない。喉にイガイガを少々感じるくらい。


それで、日に当たる・・・と。


窓際に行き、座る。

日の光が体にフィットする感覚。心地よい。

うつらうつらと船を漕ぎ、いつの間にか座ったまま寝てしまった。


ーーーーー


目覚めは、最高だった。

疲れが取れ、倦怠感がない。美味しいものを食べた後みたいな満足度。しかし、食後の眠気もない。


(これは・・・素晴らしい!!!!)


洗濯物、自炊、部屋の掃除・・・普段億劫になり、やりたくない事なのに、それが全く嫌にならない。

時計を見て逆算する。サプリを服用してから、日向ぼっこして、たったの一時間だった。それだけで、この充実感。革命である。

その日は溜まっていた全ての家事を終わらせ、自炊したご飯を食べ、寝る時間まで勿体なく、夜に映画を観に行き、帰宅した。

今までなら考えられない充実した日だった。


それから私はこのサプリを愛用した。

毎朝必ず一錠を服用。残業が苦痛にならない。通勤時に日光に当たるだけで、仕事中にお腹が空かない。眠くならない。ずっと集中できる。一日が、あっという間。

休みなしで一生働ける気がした。

しかし、曇りの日や雨の日は効果が薄くなることも分かった。そんな日は、お昼に一錠服用した。

一日一錠と注意書きにはあったが、2錠飲んでも体に異変は無かった。

むしろ、一錠だと効果が薄くなる日が多くなった。だから、いつの間にか朝に一錠、昼に一錠、夜に一錠服用し、丸一日を充実させるように過ごしていた。


体に異変を感じたのは、サプリがちょうど無くなる頃であった。


ーーーーー


朝。



体が起きない。



おかしい。



いや、起きている。



でも、動かない。



なぜだ。



目は、かろうじて。



足が・・・根っこに!?!?



手が・・・枝に!?!?



やばい。



どうしよう。




「注意はしましたよね。私は責任を負えませんからね。」




声がする。



前に、オレンジ色のワンピース。


キンモクセイのカオリガ・・・。

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