紅葉狩り
今年も早いものだなあ、と窓の外を眺める。
10階建てのビルから眺める景色は綺麗ではあるのだが、周りにあるのもビルばかり。色に鮮やかさがない。
「おい。ここの周りには緑がない。せめてベランダで眺めたいから、何か鮮やかな植物を買ってきなさい。」
「はい、かしこまりました。」
秘書が戻ってきたのは、それから数分後であった。
「こちらなんていかがでしょう?こちらなのですが、こんなにきれいなのに、このビルの横に生えていたのですよ。」
「このビルの横って・・・お墓だろ。」
「はい。あまりにも綺麗だから、これは社長が求めるものに相応しいと思いまして、いかがでしょう。お気に召されましたか。」
「バカヤロウ。それは彼岸花というんだ。家で育てるものではないし、それに勝手に人様のお墓から取ってくるやつがあるか!」
「勝手にではありません。ちょうどお墓参りしている方々がいて許可は取りました。」
「ベランダで育てたいって言ったのか?」
「はい。」
「そう言ったら、物珍しそうな顔をしていただろ?」
「はい。」
「そういうものだ。彼岸花も可哀想だから、すぐに元の場所に植え直しに行きなさい。」
「はい、かしこまりました。」
秘書が戻ってきたのはそれから数分後であった。
「植え戻して参りました。」
「うん。それで、ベランダで育てる植物は?」
「・・・忘れていました。」
「バカヤロウ!何のために外に出たのだ。植え戻すついでに、探してきなさい!」
「すみません。すぐに探して参ります。」
それから数分の後、秘書は戻ってきた。
「買ってまいりました。」
「何だそれは、種か?」
「はい。今度はしっかり、店員さんに確認しました。ベランダで育てるのに適したものです。それに、これなんて20日あれば収穫できるんですよ。」
「知ってるよ!それはハツカダイコンだろ!」
「社長物知りですね。そうです、ハツカダイコンの種を!」
「バカヤロウ!俺はベランダで植物を観賞したいんだ!」
「はい。ベランダで眺めることができますよ。20日で。」
「そんなことを言っているのではない。観賞用の見て楽しむ植物ってのがあるだろ。ハツカダイコンはどちらといえば、食すものだろ!」
「すみません。間違えました。お店に返してきます。」
「もういい。せっかくだからそれを育てる。それで、それを育てるプランターや土は?」
「忘れました。」
「バカヤロウ!」
「今すぐ買ってきます!」
「もういい。ここで育てるのは諦めよう。私たちが出向う。紅葉狩りだ。」
「かしこまりました。紅葉狩り。準備いたします。」
「30分後には出発するからな。下でタクシーを手配しておくように。」
「かしこまりました。」
30分が経ったが、秘書が来ない。一足先にタクシーに乗って待っていると、大きな荷物を持った秘書がやってきた。
「遅いじゃないか。30分後と言っただろ。」
「すみません。準備に手間取ってしまって。」
「30分で、簡単なご飯と飲み物を用意しろと言ったのだ。」
「え!?ご飯と飲み物の用意ですか!?」
「用意していないのか!?それじゃあ、その大きな荷物は?」
「紅葉狩りとのことでしたので、少し遠くまで探して、こちら・・・チェーンソーを。」
「バカヤロウ!!!・・・フッ。運転手さん。待たせてすみません。出発してください。」
空は雲ひとつない青空。暑すぎず、寒すぎず。絶好の天気であった。




