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転生調理令嬢は諦めることを知らない  作者: eggy
第1章 リュシドール子爵領

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 子爵家に知り合いが侍女で勤めているので詳しく知りたい、と頼むと、ロイクは現在分かっている大まかなところ、と話してくれた。

 子爵夫人と子息、料理人を除いて、全員魔獣に食われて死亡、と伝書鳩による報告が来ている。夫人は恐怖のため正気を失っていて、証言を聞けるのは料理人だけだった。

 そういう説明に、オリアーヌはただ呆然と絶句する他なかった。


「そういうわけで気の毒だが、侍女については諦めるしかないな」

「そうなんですか」

「この町にとっても、領主様が急死されるというとんでもない事態だからね。当分てんやわんやだろう。親戚筋の貴族が集まって後継を決めるなどするまでは、落ち着きようもない」

「……前子爵様のお子様がいる、と聞いていますが」

「どうも、少し前から行方不明になっているらしい。これも詳細は不明だ」

「……そうですか」


 自分の知っている人間が大勢死んだということになるが、たいした感慨を覚えない。この数年最も接触の多かった料理長が無事と聞いて、特に嬉しいとも思わない。

 自分はすっかり冷血漢になったらしい、とオリアーヌは苦笑してしまう。

 とにかく何よりも、この先のこと、ランベールを救出するという目標に向けて考えていかなければならない。

 少なくとも当面、オリアーヌを追ってきたり命を狙おうとする者がいそうにない、ということは朗報か。

 子爵家当主が死亡したということで後継を考えるに当たって捜索がかかるということはありそうだが、もうしばらく領都でのごたごたが続くだろうし、オリアーヌの行方を捜すのに真っ先に北方に目をつけるということはなさそうな気がする。誰もが思うように、成人前の子どもが護衛もなしにこの街道を踏破するなど、想像のしようもないのだ。

 と考えを整理し、ロイクに礼を言ってここを出ることにした。

 まずは魔狩人協会で手続きを済ませ、今夜の宿をとることだろう。

 そう告げると、兵士は気さくに腰を上げた。


「それなら、協会まで案内してやろう」

「領兵は忙しいのではないの?」

「領都からの情報で大騒ぎにはなっているが、今のところこちらの下っ端の兵士はすぐ何をするという所用が入っているわけじゃない。小隊長より上の人たちは大わらわだけどな」

「そういうものですか」


 厚意に甘えることにして、少ない荷物を整理する。

 金の入った袋などを身につけていると、注意された。


「分かっていると思うが、君のような子どもがそんな金を持って歩くのは危険だ。魔狩人協会に金を預かる部門があるから、そこを利用したらいいんじゃないか」

「そんなものがあるのですか」

「うん。預けて渡された証書を持参すれば、ここの子爵領と隣のミニョレー伯爵領の協会なら、何処でも出し入れすることができる」

「へええ、便利ですね。伯爵領のトゥーヴロンでも引き出せるなら、ありがたいです」

「そうだな。もともと魔の森から出てくる魔獣対策に、伯爵領と子爵領を移動して活動する魔狩人の便宜のために考えられたものだから」

「なるほど」

「あ、そうか。親の保証のない子どもは、利用できなかったかな」

「私十三歳なんですけど、駄目ですか」

「十三歳、そうなのか? 失礼、もっと幼いと思っていた」

「背が小さいので、あまりそう見られませんが」

「考えてみると受け答えはしっかりしているし、何よりあの小鬼猿を征伐したんだものな。よく覚えていないが、十三歳なら利用可能かもしれん。協会に行って訊いてみよう」

「はい」


 ロイクが駐留所にまつわる手続きをしてくれて、外に出ることができた。

 ギャルヴァンはそれほど大きい町ではないが、人通りは多い。ただ歩いているのは、ほとんど屈強な見た目の男ばかりだ。

 ここから北のトゥーヴロンにかけては、もちろん周辺に農業従事者はいるものの、ほとんど魔狩人たちの活動で成り立っていると言える。商店、宿屋、料理屋など、ほぼ魔狩人対象の商売ばかりなのだという。


「アルムはトゥーヴロンに行くのだと言ったな。今日はここに宿泊するのだろうが、明日すぐつつもりなのか」

「さすがにこの先は、護衛をつけるとか他に便乗するとか、方法を探そうと思います。少なくとも数日はその準備になるし、費用が足りないならここで働き口を探すことになります」

「そうか。また一人で街道に出るなど、無理をしてはいかんぞ。この先はさらに凶暴な魔獣がよく現れる地帯だ」

「はい」


 ロイクの忠告を聞きながら、杖をついて歩く。

 案内をしてくれることといい歩くに当たって歩調を合わせてくれることといい、何とも親切な兵士だ。

 魔狩人協会の建物に入って、職員への紹介も進んでしてくれる。

 小鬼猿の群れを征伐した娘だという紹介に、中年男の職員は目を丸くした。


「こんな小さな子どもが?」

「一応、十三歳だそうだ」


 一応、はよけいだ、とオリアーヌは思う。

 とりあえず口に出さないことにするが。

 魔獣征伐の報奨金、ということで金額が示された。平均的な平民なら、数ヶ月は生活できそうな額だ。

 現在の所持金と合わせて、預け入れを依頼する。

 成人前の十三歳ならこれを担保にした借り入れはできないが、預け入れと引き出しだけならできるということだ。

 あと、そのような相談に乗るのも業務のうちだということなので、この先トゥーヴロンまでの移動の手段や、ついでにさらに先、魔の森の詳細や伯爵領領都への行き方などについても尋ねる。


「トゥーヴロンまでの移動は徒歩で五日程度かかるが、個人で護衛を雇うか、商会などの移動に有料で加えてもらうか、というところが一般的だね」

「そう」

「ただあなたの場合商会の移動に加わっても、そちらに合わせて歩くのは難しいんじゃないかな」

「そうですね」


 オリアーヌの杖と脚を見ながらの付言に、素直に頷く。

 商会にこちらに合わせて歩いてくれと頼むのは、さすがに無理だろう。

 そうすると、個人で護衛を雇う一択ということになる。

 そちらの費用や詳細についてはこの後詰めることにして、先に伯爵領の現状を教えてもらった。

 それによると。

 魔の森からの魔獣の移動が、ここしばらく活発になっている。今回の領主邸襲撃も、その影響と考えられる。

 その関係で、トゥーヴロンには従来以上に魔狩人が集まっている。そのため宿屋や料理屋が好況で、人手不足の状態だ。

 魔の森はもともとかなり熟練の魔狩人でも、縦断するのは難しい。最近ではさらに魔獣の増加で、奥まで入るのは避けられている。

 ただミニョレー伯爵の関係者だけは、独自に開発した魔獣避けの薬品を使って森を縦断し、領都まで行き来している。この薬品を魔狩人協会でも入手したいのだが、現状ではとんでもない価格なのだそうだ。

 伯爵領領都までの経路は魔の森を迂回する街道もあるが、所要半月以上もかかる。商会などはこちらを使うが、領から補助がなければとても商売としてやっていけないというのが現実だ。

 そんな説明を受けて、当座の問題、トゥーヴロンまでの護衛費用について相談する。

 どうも、オリアーヌの所持金で何とか出せなくはないが、その後を考えると余裕がなくなるという金額になるようだ。


「この町でしばらく働いて費用を貯めたいのですが、料理屋などで働く先を紹介してもらうことはできますか」

「いいですよ。今も言ったようにこの町でも、宿屋と料理屋は人手不足が続いている」

「ありがたいです。あと一つ、お願いがあるのですが」

「何でしょう」

「この町に、化粧屋という商売をしている人がいると聞いたのですが、その所在が分かれば、教えてもらえますか?」



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