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第十九話 怒れる竜 ①

 アスク村より西北西。依然として続くサバンナ風景の中、ポツンと張られた天幕の下、ふとフランが目を覚ます。

 揺れる焚火と満点の星空、三日ほど見続けて来た変り映えの無い景色に少し退屈を感じながら、再度閉じようとした視界の際に、不気味な紅が飛び込む。


 異様さは夢の中に居る二人を呼ぶに相応しく、フランは間髪入れずに呼び掛けた。

 状況の把握までは届かぬもの、二人も遠くに広がる異様に気付く。


「なぁにアレ?」


「方角は火山の方ですが、噴火の警鐘も鳴っていませんし」


「だが、どう見てもありゃあ“そう”としか思えないだろ?」


 一先ずの退避、順路の変更、様々な意見が飛び交うも至った判断は一つ。


「周辺の村が心配です。見過ごす訳にはいきません!」


「だよね!」


「しゃあねぇな……天幕は片付けておくから他は頼むぞ」


 十分(じゅっぷん)と経過しない内に三人は怪しく揺れる紅の方へ歩き出して直ぐの事。枯草を搔き、埃を舞い上げながら迫る魔動力車(マドウリキシャ)一台が三人の傍らで速度を緩める。。掲げる大旗はグリマーニの団旗。


「お嬢さん方、火山の方へ向かうのなら引き返し下さい。我々衛兵団も未だ対応にあたれていませんので」


「心配いらないぜ。俺達は旅隊(パーティー)だ。気は進まないが火山(向こう)で助力するつもりでな」


 少々本音が漏れた様だがトゥリオの一言に衛兵達は頷き合い、三人へ一言。

 後ろへ乗れ、と。


「状態が分からない以上、人手は沢山欲しい。魔術師のパーティーであれば願ったり叶ったりです」


「ではお言葉に甘えさせて頂きましょう」


 足ならば一時間程の道程。善心への返礼か、一行は労する事無く火山の麓へと辿り着いた。

 麓を取り囲む様に広がる村、人だかりは点在するものの、大きな被害や混乱は見えない。


「我々は後に続く部隊の指揮を行いますので、ココで。何かありましたらまたご助力願います」


「衛兵さん、ありがとね!じゃあセシィたちも行こっか!」


 一見、これと言って援助が入用な状況は無さそうではあるが、三人の目に一際騒がしい一団が映る。

 避難?はたまた野次馬?乱れ飛ぶ言葉に耳を澄ませば罵詈雑言、揉みあう人々に目を凝らせば衛兵の紋章。


「ブルーナ師団?一足先に到着してたのか」


「只事じゃなさそうだね?」


「フラン、話を聞いて来てくれるか?」


「私が?」


「元衛兵と幼い少女……分かるだろ?」


 納得と少しばかりの不満。フランは揉み合いから外れた一人の衛兵へ尋ねる。

 しかし返答ではなく、返って来たのは更なる質問。


「何者かって?……」


 素性を迫られたフランが徽章を掲げると、ようやっと現状の説明を、とはいかなかった。


「ココじゃあ巻き込まれるかも分からんからな」


「でしたら向こうで――」


 衛兵を連れ二人の元へ戻りようやく情報共有にありついた。

 深刻、と言うより事態は厄介な様だ。としてるのも、今回起こった噴火の原因が炎爆の竜(フィアジオーネドラゴ)の仕業らしく、対処にあたろうとした所〈竜崇教団〉からの妨害を受けているとの事だ。


「それで揉み合っていたんですね」


「あぁ、俺達は衛兵と言う立場上、人々を傷付ける手荒な対応が出来ないからな」


 厄介、まさにその言葉通りの状況。

 既に魔術協会に【禁解】以上の魔術師を派遣するよう依頼をしたとの事だが、被害がこの状態で留まる保証は何処にもない。しかし、状況の悪化に拍車をかけんとする団体の制圧は“立場上”困難。


「――確かあの徽章【禁解】だったな?」


 衛兵がフランへ交渉を持ち掛ける。実質最上位の格を持つフランへ交渉に出向いてもらう為の交渉を。


「確かに要請した魔術師の到着を待つのだったら……術躁格も変わりませんし」


「俺も付いて行くか?」


「いえ、今回こそ私一人の方が都合が良いでしょう」


 一人、フランは群衆の中へ歩き出した。

 未だ幼さを残しながらも、凛とした態度に自然と信者達への道が開ける。


「たとえ魔術師であろうと御竜の怒りを妨げる事は許されないぞ!」


 怒声が叩き付けられるもフランは姿勢が揺らす事無く、冷ややかに平坦に怒りを突き返した。


「アナタ方の思想に口を挟むつもりはありませんが、仰心(ぎょうしん)無き者を巻き込む教えなど無益そのもの。何れその身すら滅ぼしますよ」


 改心、寧ろその逆だった。

 竜を崇める者達の怒りは更に熱を増した。


 愚か、の言葉がフランの頭を埋め尽くし、次の策を按ずるべく明後日を遠望した時だった。

 セシィの叫びがフランの身体を口を身体を動かした。


「「輝々鏡壁(ドレッキオ・)万物ヲ反射セン(リフレット)」」

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