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25話 開放するチート

考えることもやるべきことも山ほどあるが、野槌の討伐を終えた今、俺には何を差し置いてもやらなければならないことがある。


素材の鑑定?

違う。そんなのは後でもできる。

装備品の再点検?

違う。必要なことではあるが今すぐやる必要はない。

ボス以外の魔物の討伐?

近いが、違う。

それも後からやる予定だが、最優先事項ではない。


俺が今すぐやらねばならないこと。

それは、休息場所の構築だ。


元々は三五階層あたりで一泊する予定だったのだが、ここに来るまでに時間がかかったせいもあってか、他のメンバーの集中力が途切れているように見えるのだ。


もちろん、必要と判断すれば経験豊富な但馬さんらはきちんと切り替えることができるだろうし、奥野や切岸さんは多少油断しても負傷すらしないし、負傷したところで回復させるから問題にはならないが、シータさんとお嬢さんが危うい。


シータさんは疲労のせいか気が滅入っているように見えるし、お嬢さんに至ってはなんか微笑ましい目を向けてきているからな。

緊張感はどうした緊張感は。


経験上、甚大な事故はこういうときに発生するんだよ。

俺は詳しいんだ。


で、お嬢さんが重傷を負ったら、治療を施したとしても確実に西川さんが不満と不信を抱いてしまう。

これがマズい。


事故防止のために、あえて強めの言葉を使って注意したり、正論を叩きつけるような説教をして改善を図ることは可能だが、それをやるとほぼ確実に空気が悪くなる。


これも避けたい。


たかが空気と馬鹿にしてはいけない。

一定以上の信頼関係が築けていない状況で空気を悪くすると、そのまま仲違いして戦闘になったり、パーティーの解散に至ってしまう可能性が極めて高くなってしまうのだ。


もちろん、この場にいる全員が敵に回ったところで返り討ちにはできる。

できるが、それをやったところで俺になんの得があるというのか。

これまで頑張って向上させてきた社会的立場の価値を落とすだけではないか。


パーティーの解散も同じだ。


組織間の連携が霧散して龍星会の立場が弱体化するのは当然のこととして、それ以上に、鬼神会にも、河内連合にも、インドネシアにも、それなりの情報を与えてしまっている。

この状況で彼らと敵対関係になってしまうと、その情報を手土産にしてギルドや政府に与しかねない。

俺たちはギルドと手を組むことはできないが、他の人たちは違うのだから。


情報を得た連中は、必ず俺や奥野の持つアイテムや情報を欲するだろう。

そのために家族を人質に取ることも厭わないはず。


今の俺たちなら【ギルドナイト】や軍の特殊部隊がやってきても撃退することは可能だが、数の暴力には押し切られるし、なにより社会的圧力に晒され続ける家族が持たない。


情報を売られる前にここにいる全員を消して証拠そのものを隠滅することもできるが、それをやったら現在後ろ盾としている組織的な力を失うことなる。


組織の力がなくなれば、ギルドの連中の動きを掣肘することができなくなる。

畢竟、個人の力で護ることになるが、それは先述したとおり限界がある。

そもそも俺には家族を護るために労力を割き続ける余裕がない。


俺の目的は、現状の維持ではなく現状の打破である。

そのためには、まず俺がどんな理由と理屈で巻き戻ったのかを知らねばならない。

現時点でそのヒントがありそうな場所はダンジョンしかないため、俺はダンジョンの攻略を止めるわけにはいかないのだ。


ダンジョンの攻略に専念するためには、ギルドからの横やりを防がなければならず、ギルドからの横やりを防ぐためには、社会的な影響力を持った組織の力が必要で、組織の力を維持するためには、ここにいるメンバーと一定以上の信頼関係を築く必要があり、信頼関係を築くためには空気を悪くしてはならない。


自分でも迂遠で面倒くさい話だと思わなくもないが、基本的に世の中とは面倒なものなので、この程度の手間は割り切るしかない。


幸い、今のところ空気はやや弛緩しているものの、悪くはなっていないからな。


あとは、この空気感を壊さぬまま、各勢力と信頼を構築できるよう振る舞うだけだ。


ちなみに現時点における各勢力とギルドの関係性だが。

まず但馬さん率いる龍星会は、散々自分たちの昇格申請を阻み、ようやく許可を出したかと思ったら、裏で鬼神会や河内連合に襲撃させようとしていたギルドに対して悪感情を抱いている。

西川さんが率いる鬼神会も、危険人物の情報を隠して襲撃の”お願い”をしてきたギルドに対して不信感を抱いている。

筧さんが所属している河内連合は最初からギルドを仮想敵として認識していたし、シータさんが繋いでくれたインドネシアにとってギルドや日本は一種の競争相手だ。

以上のことから、いずれの勢力もギルドとの連携を取ること自体は不可能ではないが、それを成すにはそれなりの労力と時間が必要となるのは明白。


ならば、話は簡単だ。


彼らに、少なくない労力と時間を割いてまで俺と敵対するような理由を与えず、かつ彼らがギルドと距離を詰めるために必要な労力と時間を与えなければいい。


彼らが敵対する理由も見当がついている。


但馬さんと西川さんは、それぞれが大切にしているお嬢さんたちに対して不利になるようなことをしなければいい。

現時点でお嬢さんらを鍛える心算はあっても危害を加える心算はないので、この二人は問題ない。

筧さんとシータさんは、力の証明と俺たちの方がギルドや日本政府よりも良いモノを与えることができることを証明し続ければいい。

このまま予定通りに探索を進めていれば力は証明できるし、モノに関しても、俺たちと一緒にダンジョン探索の最先端を突っ走り続ければ、自然とギルドや政府の連中が用意できるモノよりも上質なモノが得られるのだから、問題ない。


つまるところ、予定通りに探索を続けていれば彼らが敵に回ることはないし、俺の立場も安定するということである。


よって、霧谷のお嬢さんに万が一のことが起こる前に急いで休息場所を構築するのは、俺の目的を叶えるために必要なことなのである。


「というわけで、今日の探索はここまでにしませんか?」


「……なにが『というわけ』なのかはわからねぇが、今日の探索をここで終えるってことには俺も賛成するぜ」


さすが、但馬さんは話が早い。

まぁ、どことなく投げやりな感じもしないではないが、日ごろの業務と探索の繰り返しで疲労が溜まっているのかもしれない。


休ませなければ。


「せやな。お嬢も一見すれば元気が有り余っとるように見えるけど、自覚がないだけで疲労は溜まっとるやろうしな。いったん休ませた方がえぇわ」


いや、お嬢さんは普通に元気が有り余っていると思います。

まぁそのせいで注意力が散漫になっている感じだし、油断してしょうもないミスをしそうだから休ませたいんですけど。


「僕もえぇと思うよ。ここは視野が開けとるから、警戒も楽やし」


筧さんが警戒しているのは魔物じゃなくて他の探索者ですよね?

まぁ探索者なら当然のことなので、文句はありませんが。


思うところは違うかもしれないが、大人組が休憩を承諾してくれたので、さっさと休息できる場を構築させていただく。


とはいっても、今までのように簡易トイレや簡易シャワー、休憩用のプレハブを出すだけなんてチャチな真似はしない。


「では始めます。【ルーム】」


宣言と共に【アイテムボックス】を使用するときに出てくるモノよりも、数倍大きな黒い渦のようなナニカが現れる。


これこそが、世界で俺だけが使えるレアスキルにして、世界中の探索者たちの常識を覆すチートスキルにして、俺がギルドに拘束されるきっかけとなったクソスキルこと【ルーム】の入口だ。


「ん? 【アイテムボックス】じゃねぇのか?」

「妙にでっかい入口やないの。なんや、人間も入れそうやな!」

「……人間が入れそうな大きさの入口で、スキルの名前が【ルーム】? もしかして、ほんまに入れるんちゃいますの?」


本人は冗談の心算で言ったのだろうが、正解だ。


「流石は筧さん。理解が早い」


「え? 本気で言うとる?」


「もちろんです。これから皆さんにも実際に入ってもらいますので、是非堪能してください」


「ほ、本当か? 本当にその中に入れるのか?」


「えぇ。スペース的には三階建てのビルくらいありますので、八人全員入っても余裕がありますよ」


「そんなスキル、聞いたことないでっ!」


「それはそうでしょう。【アイテムボックス】以上に危険で有用なスキルですからね。持っていると知られたら、確実に国やギルドに確保されていますよ」


なにせ俺という使い手が見つかってから一五年もの間、国を挙げて同じ職業や同じ名前のスキルを持った探索者がいないかどうか探しても該当者はおらず、焦れた連中が勝手に俺の遺伝子情報を使って造ったデザインチャイルドや、クローン生命体でさえ下位互換のスキルすら得られなかった、唯一無二のチートスキルだからな。


情報が拡散されるわけがない。


使い手に関しては、まぁ可能性として、どこかの研究所で再現に成功していたものの、国やギルドに報告しないまま研究素材として確保されている可能性は否定できないが、少なくとも俺が確認することができた範囲内でコレと同じことができる探索者は誰一人としていなかったのは確かだ。


他の使い手は当然探すが、今は但馬さんらに楔を打つのが先だ。


「今アナタたちの目の前にいるのは、ダンジョンを探索するにあたってギルドが用意できる最良の環境を軽く凌駕する快適な空間を用意できて、深層の素材を余すことなく回収、保管できる広大なスペースを有し、世界最強と謳われる【ギルドナイト】を超える暴力の持ち主です。どうです? 今以上に仲良くなりたくなったでしょう?」


「「「ハ、ハハハ」」」


笑うしかない、か。

まぁ、いきなりこんなモノを見せられた人間の反応としては妥当なところかもしれないな。


だが、これを見せた以上、裏切りは赦さない。


逃がさんよ。

アナタたちだけは、絶対に。

閲覧ありがとうございました

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