表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/123

21話 大人たちの会話

切岸若葉から呼ばれた篤史がドロップアイテムの回収に向かう中、残された大人たちは顔を突き合わせながら、現状を把握しようとしていた。


「なぁ但馬ちゃんよぉ、一体全体、兄さんの基準はどないなっとんねん」

「ほんまですよ。【鍛冶師】のお嬢さんが三〇分もかからずに野槌を斃したのに『遅い』ってなんですの? 三〇分で遅いなら、僕はどう見られるんです?」

「せやせや。嫌やぞ俺は、あの兄さんから『思ったよりも弱くて役に立ちそうもないから、ここで死んでください』とか言われて襲撃されるのは」

「僕もです」


「いや、兄さんはそんなことしねぇ……と思う」


「断言できんのかい!」

「手綱を握る、のは無理だとしも、もう少しなんとかなりませんの?」

「……お前さんならなんとかできるか?」

「……無理です。無責任なこと言ってすみません」

「わかればいい」


少し想像しただけで胃に痛みを感じてしまい、素直に白旗を上げた筧と、それを見て「少しは俺の気持ちを理解できたか?」と言わんばかりに頷く但馬。


数日前に襲撃をした側と襲撃をされた側の人間が交わす言葉とは思えないほど仲良く見えるが、そこはお互い大人として割り切った結果だ。


決して言葉の裏では「アンタのところで雇い入れた子供やろ? 責任もって管理せなあかんで」とか「お前さんは個人的な付き合いがあるみてぇじゃねぇか。きちんと私生活まで面倒見てやれよ」とか、まるで強大な魔物を前にした新人探索者のように「地獄に落ちるならお前だけ落ちろ!」と蹴り落とし合っているわけではないはずだ。


大人の友情はある。

男同士の友情もある。

ならば但馬と筧の間に友情が芽生えたとて、なんの不思議が有ろうか。


「茶番はもぉえぇて」


水面下で繰り広げられていた醜い争いに終止符を打ったのは、やはりというかなんというか、一人残された西川であった。


「というかやな。あの【鍛冶師】のお嬢ちゃんがあんだけ強いって、普通に反則やろ。最近の若者はどないなっとんねん」


「確かに。あないな戦力隠し持ってるのはナシですわ。ウチも結構アレでしたけど、但馬さんのところはどこを目指してはるんです?」


奥野せらが強いのは、纏う雰囲気を見ればわかる。

松尾篤史が強いのも、片手間で放った魔法で瀬戸垣らを纏めて消滅させたのを見ているので、知っている。

だから、この二人が三〇分以内で野槌を討伐したとしても、そこまで驚きはしなかったはずだ。


しかし、”なんとなく強いのはわかる”程度にしか見えなかった切岸若葉まで隔絶した戦闘力を持っていたことは、強者を見抜く感覚に長けた西川にしても、情報収集に長けた筧にしても完全に想定外であった。


いや、もちろん高校一年生の夏にレベル三〇に到達して上級職を得た探索者が弱いはずがないことも、低レベルの頃から例の指輪を使ってレベリングをしてきたおかげで、ステータスが高いことも理解はしていた。


しかし、切岸若葉からは、なんというか、そう、強者が漂わせている雰囲気がまったく感じられなかったため、二人は『あぁこの娘さんは、ステータスは高くても戦闘が苦手でそれほど戦えないタイプなんやな』と勝手に思い込んでしまったのだ。


世間一般どころか、世界的に見ても上位の実力を持つ西川と筧から見ても圧倒的強者であるはずの若葉に強者の雰囲気が宿っていないのは、いくつか理由がある。


それは、彼女が戦闘職ではなかったこと、元々の性格が攻撃的ではなかったこと、彼女の上司にして指導役である篤史が彼女に戦闘要員としての働きを望んでいなかったため本格的な武術の指導を行っていなかったこと、そしてなにより、彼女より圧倒的に強い探索者が近くに二人もいたせいで、彼女自身が強者としての自覚を得る機会がなかったせいだ(ついでに言えば、奥野と篤史の放つ雰囲気が強すぎて、若葉の存在感が薄れていたのもある)。


「どこを目指してる? って聞かれてもなぁ……」


「わかってないです?」


「まぁな」


但馬からすれば『こっちが聞きてぇよ』案件である。

確かに、周囲から見れば、但馬がその慧眼を以て見つけた金の卵を、他のクランが手を出す前に懐に抱え込んだように見えるかもしれない。

だが実際のところは、たまたまダンジョンの近くに事務所を構えていたら、通りがかりの気まぐれな邪神が現れて「これからここを俺の拠点にする。家賃は払うし、加護もやる。お前らにとってもありがたいだろう? だから黙って住まわせろ」と言ってきたようなモノなのだ。


幸い、邪神には組織を乗っ取ろうとか、内側から崩壊させてやろうといった悪意がないことは確信しているものの、邪神の価値観なんてわからないし、わかろうとも思っていない。

当然、目的や目標だって確たることはわかっていない。


但馬が確信をもって断言できることなど、邪神がギルドを嫌っていることと、組織の運営に興味がないこと、そしてダンジョンには真摯に向き合っていることくらいしかない。


「まぁ、その辺はいずれ兄さんに聞けばえぇやろ。ただ、あんまりガッチリなんもアレやけど、あやふやすぎても困るってことは知っといてな?」


「あぁ」


この世界にも”全ての力は暴力の代替品”という物騒極まりない思想は存在する。


本来は企業間や国家間で使われるようなモノだが、個として圧倒的な暴力を有する探索者が珍しくなくなった昨今では、さほど珍しい思想ではなくなっていた。


曰く、どれだけの財力があろうとも、暴力が足りなければ奪われる。

曰く、どれだけの権力があろうとも、暴力が足りなければ潰される。

曰く、圧倒的な暴力の前には、金も、地位も意味をなさない。


物騒極まりない思想ではあるが、紛れもない事実なので、否定できる者はいない。


この物騒な思想が広まったせいで、転覆した国家は数知れず。


それが、一部の権力者だけが私腹を肥やしていた独裁国家なら非難もされなかっただろうが、普通に運営されていた国家まで混乱の渦に巻き込まれてしまったため、探索者の権利を掣肘しようとする国家もちらほらと存在している。


一応日本では『だからこそ、探索者は自制しなくてはならない』という論調があったことや、元々が大人しい国民性であったこと、さらには一部の行き過ぎた連中を【ギルドナイト】らが処分していたことなどから、社会を壊すレベルで暴れる探索者は生まれなかったが、それも過去のこと。


「マジな話、切岸の嬢ちゃんを『未熟』と言い切り、奥野の嬢ちゃんを顎で使える兄さんなら、それこそ一人で国家転覆できるんちゃうか?」

「……まぁ、できるだろうな」


「いやぁ、ほんならなおさら『後のこと』も考えてもらわな困りますわ」


【ギルドナイト】ですら現時点で国家転覆が可能とされているのだ。

彼らを上回る実力を持つであろう篤史に、同じことができないはずがない。


「あぁもちろん俺は、兄さんが好き勝手に暴れて既存の秩序を壊すのも有りやと思っとるで? 事前に連絡は欲しいけどな。そんで但馬ちゃんらが造る国に参加させてもらえるか、俺らに『あとは好きにやれ』って委任状をくれたら最高やな」


「それは僕らもそうですわ。事前に教えてもらえて、事後に『好きにやらせてくれる』なら、なんの問題もありませんよって」


既存の政治とて、財力や権力や社会そのものが生み出す力を利用して好き勝手にやっているのだ。

ならば、それを上回る力がある者が好き勝手にやってはいけない理由がどこにある。


圧倒的暴力を擁する龍星会が、飛びぬけた暴力を用いて既存の国家を転覆させてもいい。

その結果、この国が暴力に支配される世紀末染みた国になろうとも、止めようがないのだからしょうがない。新しい世界を面白おかしく生きるだけだ。


ただし、既存の国家を転覆させるなら、事前に伝えてくれ。

できたら、その後に新しい国を造ってくれ。

それが無理なら、せめて白紙委任状をくれ。

それを貰えたら、後は勝手に勢力を興して好きなようにやるから。

間違っても、某世紀末救世主のように、新たな秩序を構築しようとしている勢力を根こそぎ潰した上、勝手に姿を消したりするような真似はしないでくれ。

消えるなら、後継者なり新たな秩序を担う組織を指名するなりしてからにしてくれ。


西川と筧が言っているのはそういう話だ。


「……伝えておく」

「そうしてくれ、マジで」

「ほんま、たのんます」


個人が国家を覆す。

少し前までなら、漫画の中でしか存在しなった事案だが、彼らの目の前には実際にソレをやれる可能性が極めて高い人物がいて、世界にはすでにソレをやった国がある。

実績がある以上、警戒をするのは当然のこと。

むしろ目の前に存在しているモノを警戒をしないのは、馬鹿を通り越したナニカでしかない。


「「「……はぁ」」」


今後、大人たちの胃が休まる日が来るかどうかは、神のみぞ知るところである。


閲覧ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ