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9話 段取りは重要 

もう、いいかな。


宝箱というロマンの塊について、中身の予想や分配方法などアレコレと語る大人たちの気持ちも理解できないとは言わないが、正直飽きた。


故に「いい加減にしろ」と言わせていただく。


「はい、探索の時間がなくなるので、そろそろ話を纏めましょうか」


「お、おう」

「せやな。うん」

「揉めてはいなかったよ? ほんまに」


やかましい。


そもそもの話として、今回の探索の目的はレアアイテムがどうこうではなく、ダンジョン四〇階層の攻略だ。


移動やらなにやらに結構な時間を費やすことが決まっている中、ダンジョンに入る前からうだうだとやっている時間を惜しむのは当然のことではなかろうか。


ん? 彼らが揉める原因を作ったのは俺? 

知らんな。

探索者たるもの、過去のことよりも、未来のことに意識を向けるべきだろう。


と言うわけで、未来を見据えている俺が強制的に話を進めることにする。


いやまぁ、強制的に話を終わらせはしたものの、あまり社交的とは言えない生活を送っていた俺とてそれなりに世間と言うモノは理解してるのだ。

よって、彼らがウダウダやっていた件についても、全く以て理解できないとは言わない。


なにせ彼らは元が同業他社(それもライバル関係)の集まり。


今は利害が一致しているからこそ纏まっているが、少し間違えば敵対関係になってもおかしくはない程度の仲なのだから。


まして、戦闘における立ち位置やドロップアイテムの分配に関しては普通のパーティーでも揉めることがあるのだから、今回だけの混成パーティーである彼らが事前に調整すべき点が多々あるのもまた事実。


誰だって危険な場所に立たされたくないし、貴重なアイテムは欲しいだろうよ。


よって、本来であればこの調整に結構な手間をかけるのは間違ったことではない。

実のところ、俺も少し前まではそう思っていたしな。


だが、同格の三人に任せても埒が明きそうになかったので、今回は敢えて、彼らを物理的に押さえつけることが可能な俺が半ば無理やり話を纏めることにしたのである。


もちろん、この方法が最善のやり方だなんて思っていない。

誰だって力で押さえつけられれば反発したくなるものだから。


ましてそれが彼らのような暴力を生業としているタイプの人ならば、尚更だ。

今回こうして彼らを押さえつけたことが、後に尾を引くことになる可能性だってあることだってちゃんと理解している。


なので、異論があるなら耳を貸すのも吝かではない。


ただし、俺が反論を受け付けるとは限らないし、箸にも棒にも掛からないようなことをグダグダと垂れ流すようなら利き腕を消し炭にするくらいのことはさせてもらうが、反論そのものは否定するつもりはないぞ。


そういったモノを完全に封殺してしまうと、俺自身がミスを犯したときにリカバリーが利かなくなるというのもあるしな。


リーダーの思い込みを否定できず、自分たちから最悪の状態に嵌りに行った阿呆はいくらでもいた。


愚か者の末路を知る俺は、連中と同じ轍を踏まないよう万事に細心の注意を払うと決めているのである。


感情論は受け付けない。

自分たちが有利になるよう画策することも赦さない。

俺を利用しようとするのは、まぁ認める。


だが、俺を騙すことは赦さない。

“俺を騙そうとしている”という誤解を招くような行動も慎んでもらう。


李下に冠を正さず。

つまりは、怪しまれるような行動をとるなって話だな。


「というわけで、意見や反論があればその都度受け付けます。ただし、嘘や大げさな表現、紛らわしい言い回しはナシで。意見を口にする際は、しっかり考えた上で、はっきりと、そしてそれなりの覚悟を決めてからにしてくださいね」


「……了解した」


代表して但馬さんが返事をしてくれたが、他の2人にも異論はなさそうなので、この話はここまで。


次は、もう少し建設的な話をしようと思う。


「基本的な流れを提案させていただきます。意見はその都度聞きますので、ナニカあったらどうぞ」


「「「……」」」


「まず、今回の探索で得るであろうドロップアイテムの分配についてですが、これは一旦全部俺が貰います」


「「「全部!?」」」


「えぇ、全部です。何か問題はありますか?」


「問題っちゅーか……なぁ?」


真正面から「何か問題でも?」と言いきられて、思わず言いよどむ西川さん。


確かに、ドロップアイテムの独占は横暴極まりない暴挙に映るかもしれない。

だが俺としてはそれほど無理を言っている心算はない。


なにせ今回俺は、レアアイテムの貸し出しと情報の開示、宝箱を発見した際に彼らの目の前で回収の実演をすること、さらには奥野や切岸さんを含む全員の護衛とレベル上げの手伝い、その他探索全体の監修など、多忙という言葉では言い表せないほどの仕事を受け持つこととなるのだ。


しかも、ここまでやって、彼らからナニカを貰っているわけではない――そもそも彼らに支払えるモノがない――のである。


ならば、対価としてドロップアイテムを独占することくらい求めてもいいじゃないか。


「それともまさか“同盟相手に対する先行投資”という名目だけで、レアアイテムや貴重な情報を貰えるとでも?」


もしもそう思っていたのであれば、甘いと言わざるを得ない。

彼らは今日中にでも『タダより高いモノは無い』という言葉の意味を知ることになるだろう。


「……俺は別に構わねぇ」


ちょっと押してみたところ、真っ先に折れたのは但馬さんであった。

尤も、彼の場合は他の二人とは少し事情が異なるのだが。


「そら、但馬ちゃんは文句ないやろな。兄さんがそっちに所属してる以上、最終的に自分らのところにくるんやからのぉ」


そうなのだ。

基本的に俺はギルドに回す心算はないので、最終的に龍星会の利益になるのだ。

俺を経由することで手数料的なモノは発生することになるが、それとてそもそも俺がいなければ四〇階層に挑むことも、アイテムを持ち帰ることもできないので、どう転んでも龍星会にとってマイナスにはならないのである。


これに関しては、公正とも公平とも言えないが、この辺は早くから俺の我儘を聞き入れてくれた彼らに対するリターンだと思って貰えばいい。


ただし、龍星会を特別扱いするのと、彼らに損をさせるのは同義ではないわけで。


「……むぅ」

「あっ」


あからさまに納得していない表情のまま、どう反論すかを考える西川さんに対し、筧さんはナニカに気付いたような表情を浮かべ、確認してきた。


「……聞くけど、あくまで“一旦”なんよね?」


さすが筧さん。

気付くのが早い。


「えぇ。その予定です」


「……なるほど。そんならまぁ、僕もえぇわ」


かつての上司に鍛えられたのだろう、筧さんは無駄なことは言わずに納得してくれた。

こういう時、パワハラ上司に鍛えられた人って話が早くて助かるよな。


「あぁん? なんで一番揉めそうなところがさっさと納得しとんのや? 俺にもわかるように話してくれ!」


勝手にわかり合った俺たちに不信感を抱いたのか、ストレートに問いただしてくる西川さん。


うん。

こういう感じで、裏表なく来てくれるのも助かるのだが、相手によっては騙される可能性もあるので、注意をして欲しいところではある。


まぁその辺の雑魚に西川さんが騙されるとは思っていないし、騙されたとしても報復をするのは目に見えているのだが。


それはそれとして、変に焦らすと面倒になりそうなので、さっさと説明させていただこう。


「つまりですね。『ドロップアイテムの中で欲しいモノがあったら俺から買え』ってことですよ。値段は勉強しますので、ね」


「は?」


「ようするに、僕らは欲しいモノがあったら松尾クンに【アイテムボックス】の使用料と素材の値段を支払って買い取る。このとき、お互いの出した条件が合えば取引完了。条件が合わなければ全部松尾クンが持っていく。“一旦全部もっていく予定”ってのはそういうことなんやろ?」


「正解です。一〇〇点満点の回答ありがとうございます」


素晴らしい、完璧だ。

付け足すところが何もないくらい完璧な答えである。


「……なんでそないな面倒なことすんねん。均等に分けるなりなんなりすりゃえぇやろ」


「いやいや、こういう形にしないと彼に利益がないでしょう?」


それな。


「利益がないって、そんなクランの……あぁ、なるほど。兄さんは但馬ちゃんのところに所属してはいるものの、もっと、こう、なんや、自由な存在やもんな」


「ご理解いただけたようで」


そうなのだ。

普通のパーティーやクランであれば、メンバーが回収したモノはクラン内で分配される。

そこに実行メンバーも支援メンバーもない、全員が作ったクランが得たモノなのだから、みんなで分けるのが当然だし、そうして分配されたモノが各々の利益となる。


しかし俺と但馬さんの関係はその“当然”の枠には収まっていない。


なぜなら、俺が持つ様々な“力”、具体的には彼らが持ちえないレアアイテムも特殊な情報も、それらを活用して鍛え上げた“力”も、龍星会という組織の力を使って得たモノではないからだ。


立場を補強するために龍星会の看板を使わせてもらっているし、但馬さんを上司として指示に従うことに異論はない。

もちろん、龍星会にレアアイテムを回すのもいい。

しかし、そこに強制力のようなモノはない。

なんなら、不満が溜まればいつでも出ていける程度でしかない。

言ってしまえば、龍星会と俺の関係とは、大手企業と提携を結んでいる個人事業主に近いのである。


で、自由が利くタイプの個人事業主だからこそ、彼らに条件を突きつけることができるし、全員に同じような条件を突きつけることができるからこそ、ある意味で平等な交渉ができるのである。


全員欲しいモノは俺から買う。

売れ残ったモノは但馬さんが捌く。

被ったらジャンケンか何かで決めてもらえばいい。

この緩さこそ、争いのない平和な世界というものだ。


多少強引と思わなくもないが、立場が異なる人間を纏める際にはこのくらいの強引さが必要なのだ。


尤も、さすがの俺とて毎回こんな形で纏めようとは思っていない。

こんなのはあくまで今回に限った話で、次回以降は大人同士で事前に話し合いをしてもらう所存である。


……彼らがどんな話し合いをしようとも、タダ働きだけは絶対にしないがな!



次回からやっとダンジョンに挑めるぞい!  


閲覧ありがとうございました。

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