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Luck TesT  作者: まきろん
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3rd Stageー7

病院の独特の臭い、それと、全身に鈍く走る痛みと気だるさを感じて、彼の意識が少しずつ覚醒し、ゆっくりと重い瞼を持ち上げた。


(……ここは、どこだ?)


見慣れない真っ白な天井。意識はまだぼんやりとしているが、ここが自宅ではないことだけは、なんとなく結斗は理解した。

ピッピッ、という定期的な電子音が聞こえていることに気付いた彼は、ゆっくりと頭を音のする方へと動かす。隣には、酸素マスクが取り付けられた状態の彼の母がベッドに横たわっていた。


(なん、だ……?何が、どうなって……)


「母さ…………っつ!」


母を呼び、思わず体を起こそうとするが、頭にずきりと鈍い痛みが走り、その痛みに耐えきれず、ベッドにまた倒れ込む。

その時、電子音が一瞬、少しだけ早く鳴った。と同時に、自分の体にもいろんなものが取り付けられていることに気づく。


「んだよ……これ……」


体に取り付けられた電極装置の右手でそっと触ってみる。ふと、右手首には点滴の針と思われるものが取り付けられていることに気づき、反対の手でその部分をそっと触る。

どうやら点滴は終わっているようで、すでに液体のパックの中身はなくなっていて、少し、針の部分から血が逆流しているのが見えた。


(何がどうなって……いや、そもそも俺、何してたんだっけ……?)


そっと目を閉じて、彼は記憶を辿る。


(確か、家であのことを調べてて……そしたら母さんが帰ってきたんだよな?)


自室で調べ物をしていると、母が「ただいま」といった声が聞こえた。

その声に自分も「おかえり」と返したのは覚えている


(それからその後……

―――そうだ、何か、音がしたんだ)


ごとん!と何か大きな音を聞いたような気がした。

最初は母が、何かを床に落としてしまったとかなの思ったのだが、それにしては特に母の声は何も聞こえなかったことを思い出す。


(だから、少し、おかしいと思ったんだっけ)


ふと、嫌な予感がした結斗は、あのとき、スマホを手に握り締め、部屋を出て、母を呼んだ。


『母さん?どうかした?』


だが、返事はなかった。

早くなる鼓動を必死で落ち着かせ、深呼吸をしながら、リビングのへ通じる扉のドアノブに手をかけ、ゆっくりと開ける。


『……母さん?』


結斗の記憶は、そこで途絶えていた。

何か、最後に衝撃があったような気がするが、はっきりと覚えていない。

そして気づいたのが今で、病院と思われる場所のベッドに寝ていたらしい。


(もしかしたら……あの時、誰かに殴られたのかもしれない)


そっと手で頭を触ると、また少し、鈍い痛みがズキリと走った。


(何があったのかわからない……けど)


視線を横に移して、横たわる母の姿を見る。

決して無事だとはいえない状態の母の姿ではあったが、彼女から伸びたケーブルがつながった機械が、定期的に鳴らす電子音に、結斗は少しだけ安堵した。


(……大丈夫。母さんは生きてる)


そう、その電子音は、母が生きているという証明であることは、理解できていた。


(きっと……自分みたいに、すぐ目を覚ますはずだ)


そう信じて、結斗は深く息を吐いた。


「そうだ、葵……!」


自分がここにいるということは、もしかしたら葵の身にも、何かあった可能性があることに結斗は思い至る。


「葵に連絡しないと……って、俺のスマホどこにあんだ?ってか、俺の荷物そもそもどこにあるんだ?」


ズキズキと怪我を主張してくる痛みをこらえながら、結斗は体を起こした。


(点滴ももう終わってるし、必要ないだろ)


そう思って、結斗は勝手に針を抜いた。

針が刺さっていた場所に一緒に取り付けられていたアルコールを含んでいると思われる綿を当てたまま、グッと指圧する。


(……これも邪魔だな)


そう思い、体に取り付けられていた電極もピッピッと外していく。

するとそれらがつながっていた心電図モニタが、ピーっとけたたましい音を発した。


「うわ、やべ!」


突然なりだしたまるで警告のようなその音を何とか止めようと、彼は慌ててモニタの電源ケーブルを探して、コンセントから外し、電源を強制的に落とした。

部屋には、母につながれた心電図モニタからの音だけがピッピッと無機質に鳴り響く。


「はぁ……とにかく、まずは葵と連絡を何とかしてとらないと」


だが、スマホは今手元にどうやらないらしく、ベッドのそばの棚や机の上にも、自分や母の私物と思われるものは何も置かれていなかった。


(……あ、そうだ。病院なら、公衆電話とか、あるんじゃないのか?)


今までの人生で、公衆電話など一度も使ったことはなく、普段なら気にも留めないものであったが。

昔、親戚のお見舞いに両親と一緒に病院に行ったときに、公衆電話(それ)が設置されているのを目撃した記憶がよみがえる。


そのことに気づいた結斗は、公衆電話を探すため、そっと病室から抜け出した。

ナースステーションからも離れた場所にある病室なのか、病室から出た廊下は薄暗かった。


(夜の病院とか、マジで怖ぇな……)


ゴクリと喉が鳴る。壁伝いにゆっくりと廊下を歩いていると、少し歩いた先にあった角を曲がったすぐのところに、公衆電話を発見した。


「お、ラッキー」


案外あっさり見つかったことに喜んだのもつかの間、すぐに次の問題にぶち当たった。


(……俺、金も持ってねー)


葵の携帯番号は、彼女が初めて携帯を持った時から変わっていないので覚えている。

だから、10円あれば、彼女に連絡することができる。


なのに。


「マジかよー……」


思わずその場にへたり込む結斗。

普段、電話をかけようと思えば、スマホですぐに連絡ができる状況な為、公衆電話を使うのにお金がかかることをうっかり失念してしまっていたのだった。


「あー……くそ、どうしたらいいんだよー……」


頭を抱えながら、ひとしきりため息をついた後、いつまでもこんなところで座り込んでいても仕方がない、と自分に言い聞かせて、どうするかを病室に戻って考えようと廊下の角を曲がろうとしたその時だった。

結斗が出てきた病室に、白衣を着た医者と思われる男が、中に入っていくのが見えた。


(あ、やべぇ!もしかして見回りの先生か!?)


勝手に部屋を抜け出したので怒られる!と、慌てて部屋に戻ろうとしたその時だった。


「クソ!居ねぇじゃねぇか!どこに行った!?」


突然大声で叫ぶ声が聞こえてきた。


「…………え?」


明らかに病室にいるはずの人間がいなくなったことを心配して出た言葉ではなかった。


思わず結斗は、病室から離れて、廊下の角に身を隠した。


「おい、病室には母親しかいない。部屋を間違ってるんじゃないのか?」


ガン!と勢いよく病室の扉を開けて、スマホで誰かと通話しながら、さっき入っていった白衣の男が病室から出てきた。


「……あぁ、病室は間違いない。部屋番号は合ってる」


部屋を出て、病室の番号が書かれたプレートを確認し、男は答える。


「クソが……どこ行きやがったんだ……これで賞金が手に入るはずだったってのに……!」


男はそう言うと、思いきり壁をドン!と蹴った。

その音に、思わず結斗は体をびくりと震わせた。

イライラした様子の男はスマホでまだ誰かと何かを話しているようだったので、結斗は音を立てないようにそっとその場から離れて、すぐそばのトイレの中に駆け込んだ。


(絶対、あれ、医者じゃねーだろ……!)


白衣を着てはいたが、あの様子はどう見ても見回りに来た医者というわけではないことは明白だった。

そして、彼に自分の居場所がバレるのはまずいと言うことも、結斗は直感的に悟った。


「わかってる……病院からは出てないはずだ。お前も反対側から探してくれ」


バタバタと走り去る足音と小さく遠くなっていく男の声。

完全に何の音も聞こえなくなったことを確認して、結斗はトイレからそっと廊下へと顔を出す。

近くにあの男がいないかを確かめると、震える足を必死で動かしながら、急いで病室へと戻っていった。


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