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海龍の安寧

ロンガード大陸の北に浮かぶキロス島。

かつては天界の住人であった天使たちが住まい、その主である知恵の女神を祀る神殿が創られし場所。

島の周囲は天使たちの結界のおかげで穏やかな気候に保たれている。海も荒れることを知らず、辺りがどれだけ時化ようとも島の周囲は静かだった。


そのお陰でロンガード大陸の北の果てに位置しながら、一年を通して住みやすい環境になっている。


その島の周りを囲む海には、最近海龍と呼ばれる者たちが住み着いた。


海龍とは胴周りは数十メートルもあり、大きい者では長さ数百メートルにも及ぶ巨大な東洋龍である。海に住まう彼らはその数五十にも及ばないが、群れを成して島の周囲に暮らしていた。


その海龍たちは一定の齢を越えると、変化の術により人の姿になることが出来るようになる。また、変化できない若年の者であっても変化できる者の力を借りれば人型に変わることが出来る。


海龍リヴァイアサンはそんな人型に変化できる個体の一人であった。




「う~ん、ここはいつ来てものどかでいいねぇ。」


浜辺から穏やかな青い海を眺めていたリヴァイアサンが、燦燦と降り注ぐ陽の光を浴びながら隣にいる息子のラウルに視線を向ける。


「本当にこの島は穏やかで住みやすいよね。こんないいところを紹介してもらって、シンジ兄ちゃんには感謝だね。」


母親の視線が自分に向いたことを感じながらラウルがそう言うと、リヴァイアサンも


「まったくだね。」


と、ニコニコしながら相づちを打つ。


この世界では、あらゆる生物に恩恵を齎すだけでなく世界の環境を整えていたマナが乱れ薄くなってきていた。

それはマナを世界に供給し整えるハズの世界樹が失われ、長い時間を経てきたことにより顕在化し、一部の力ある者たちが肌身に感じるようになってきていた。


事態を憂慮した創造神は適性の高い人間を媒介にすべく一人の青年、シンジを遣わした。

その遣わされたシンジが、邪神の封印まで浄化したことは望外のことであった。


封印が浄化されたことにより知恵の女神シシュリアーネが解放され、キロス島にいた天使ともども天上界へと帰ることになったので、天使たちはシンジにキロス島を託していった。


女神と共に世界樹も解放されたが、マナを世界に行き渡らせるには相当な時間がかかる。

なので世界樹の恩恵がかつてのごとく戻るまで、シンジは薄くなったマナを補填し、世界中に行き渡らせるための旅を続けている。


その間島を放っておくわけにもいかないので、シンジはその管理も込みでキロス島をリヴァイアサンに預けた。


それから十年の月日が流れたが、その間にリヴァイアサンは仲間たちを連れて、竜王国からキロス島の海へと移ってきた。

穏やかで住み心地のいい環境に、自分たち親子だけで住むのは申し訳ないような気がしたからである。



そのリヴァイアサン親子が砂浜から穏やかな海を眺めていると、何の前触れもなく二体の小さな海龍が大きな水の玉と共に姿を現し、あっという間に水の玉を炎の塊で覆っていく。


ラウルが「ヤバイ」と思ったときには、「ドドォォーン」と耳を劈く音が響き渡った。そして大きな波が浜に寄せてくる。


「な、何ごとだい!」


リヴァイアサンは驚きの声を漏らしたが、隣にいる息子は悪戯が見つかった子供のように、


「あちゃ~。あいつら魔力込めすぎだよ。」


そう言って額に手を当てる。


「ラウル!今のは何なんだい!」


「いや、あれはその、何て言うか、……魔法のお遊びだよ。」


ラウルはリヴァイアサンの剣幕に圧されながらしどろもどろに答える。


「………ラウル、正直にお言い。どういうことなんだい。」


リヴァイアサンが静かに聞いてくるが、そのこめかみには血管が浮き出ているようだ。


「いや、大したことはないんだよ。あいつらが何か面白い魔法ないかって言うからさ、この間レミ姉ちゃんやサクヤ姉ちゃんに聞いてた魔法を教えたんだよ。サクヤ姉ちゃんはシンジ兄ちゃんに聞いたって言ってたけど、水蒸気が爆発するとかなんとか………。」


「いったいどんな魔法なんだい?」


怪訝な顔をして、リヴァイアサンは更に息子を問い詰める。

そんな母親の様子を見て、仕方なしにラウルが答える。


「水の玉を作って、その周りを火で覆うだけなんだけど、水の玉を大きくしたり魔力を込めて火を熱くしたりするとトンでもないことになるって言ってた。」


どうやらその話を聞いたラウルの遊び仲間は、海の上でそれをやったらしい。


「まったく、レミたちから聞いたことをそのままあの子たちに教えるんじゃないよ。ロクなことになりゃしない。」


そう言うリヴァイアサンの視線の先では、さきほど魔法を使っていた海龍の子供たちが、波の上を滑るように移動している。


「今度は何だい?飛んでいるわけじゃなさそうだけど。」


「ああ、あれはたぶん氷の板を作って波に乗っているんだと思うよ。さ~ふぃんとかってシンジ兄ちゃんが言ってた。」


「ふぅん。さっきの魔法に比べりゃおとなしいね。ああいう危なくない遊びを教えてやりな。」


そう言ってリヴァイアサンは波の上で遊んでいる海龍の子供たちを眺める。


リヴァイアサンの視線などお構いなしに、さっきまで波の上にいた海龍が海の中から飛び上がると、海上にあった水の輪を潜り抜けて海に着水した。


「あいつらいつの間にあんな芸まで覚えたんだ?」


リヴァイアサンと一緒に眺めていたラウルが、楽しそうに遊ぶ海龍たちを眺めながら呟く。


「子供ってのは遊びの天才なのさ。大人が考えもつかないことをいきなりやりだすからね。あの子たちを遊ばすときは十分注意するんだよ。」


「わかった、気を付けるよ。」


「まぁ、レミやニナたちほどはっちゃけることはないと思うけどね。」


「………あの二人は特別だと思う。」


母親の言葉に思い当たることでもあるのか、ラウルは俯きながらボソボソと答えていた。



そうこうして島近くの海で海龍の子供たちが遊んでいるのをのんびりと眺めていたリヴァイアサンが、急に頭を巡らし辺りを気にし始める。


「母さん、どうかしたの?」


母親の様子を訝しんだラウルが尋ねると、あたりを探るようにしていたリヴァイアサンが息子を見て声を掛ける。


「ラウル、おいで。精霊たちが騒いでいるようだ。サフィーネの子が生まれたんじゃないかねぇ。」


精霊たちの騒めきが齎すあたりの気の動きを敏感に感じ取ったのか、リヴァイアサンがそう呟く。


「そうなの? それはお目出たいね。それじゃあすぐに大森林に行くの?」


ラウルが母親の呟きに嬉しそうに尋ねた。


「ああ、早いとこ顔出してこようかね。神殿の転移装置でパパッと行くよ。」


「ちょっと待ってよ、母さん。お祝いを用意して行かないと。」


「あたしゃ先に行ってるよ。あんたもすぐに来るんだよ。」


ラウルに声だけかけると、付いてくるかも確認せずにリヴァイアサンはさっさと丘の上にある神殿へと向かい始めた。


「ああぁ、母さん。……まったくせっかちなんだから。……それにしてもサフィ姉の子かぁ。お祝いは何がいいかな。お守りに海龍の鱗でも持って行こうか。」


ラウルは心なしかウキウキしながら浜に上がり、リヴァイアサンを追いかけて神殿を目指すのだった。


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