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帝国の鬼門

かつてこの地に暮らした人々は、あらゆる魔道具や魔法技術を駆使して高度な文明を築いていました。

その技術は神の奇跡を起こせるほどだったと言われています。

魔道具によって空を飛び天にも昇れる乗り物を作り、人の生き死にも変えられたほどだと聞き及びます。

技術の進化に伴い、人心は驕り神を見下すようになっていきました。我こそは神と思っていたのかもしれません。



我がイシュベルク神聖帝国は、その古代文明が栄えた地に興った国です。

この国の先人たちが古代文明を駆逐したわけではなく、古代文明が滅んだ後に自然発生的に成立しました。

飛ぶ鳥落とす勢いであった古代文明は、神の怒りに触れ粛清されて滅びたのです。


古代文明が滅んだ時、この地には何も残りませんでした。

今でこそ遺跡があちこちに見つけられていますが、これらのほとんどは地下施設です。

地上の建造物は、ほとんど残っていません。


一万年もの昔のことですから、当然と言えばそうかもしれませんが、地下施設が割ときれいに残っていることと比べると疑問に思うこともあります。

神の怒りはこの地を覆い、あらゆるものを薙ぎ払い破壊し尽くしたそうですが、残された今の遺跡を見ているとそれも頷けます。


現在の帝都であるイシュタークの北西に大きな湖がありますが、当時はそこが都であったようです。

神の怒りが都を襲い、その衝撃は周囲を吹き飛ばしてしまいました。


都を襲った神の怒りは凄まじい物で、辺り一面窪地になるほどであり、その後六日間続いた雨により今のイスアル湖ができました。


東のベスビオス山に火の精霊王様、南東の森に風の精霊王様が住み暮らし、人々や土地に加護を与えていたようですが、ベスビオス山の上部を除いたすべてが飲み込まれてしまいました。

伝聞では風の神殿がイシュルの森の南にあったらしいのですが、今では見つけることができません。東のベスビオス山に火の精霊王様が残るのみです。その火の精霊王様も私たちの前に現れることは稀になってしまいました。

風の精霊王様はこの地が神の怒りに染まったとき、風の防壁で周囲の人々を守ったと聞き及びますが、今はどこにいらっしゃるのかわかりません。


噂では、風の精霊王様はエルフの元にいるらしいですが定かではありません。この地からは遠すぎて確認のしようがないのです。

大過なく過ごされていればいいのですが。


過去の文献や識者の話を見聞きするたびに、どれほどの衝撃が古代文明を襲ったのかその規模に身震いを覚えました。

皇帝たる者恐れを抱くのは許されぬことと思いますが、常軌を逸した力に恐怖するのを止められません。


それが故にこの地には神を恐れる者が数多くおります。

この国の民たちは、神への冒涜が我が身を滅ぼすと骨の髄まで理解しているのです。


されど暮らしが楽になること、裕福になることは止められません。

苦しみや辛さが道具一つで楽になるなら、手に取りたいと思うでしょう。


魔道具技術はほとんど遺失してしまったと言われていますが、遺跡より出土する魔道具を使えるようにするくらいは、今の技術者でも何とかできます。

ですが、同じ物を一から作ることはまだまだ叶いません。そもそも解析すら覚束ないのですから。


ですが、出土した魔道具を使うことすらも、心に刺さったトゲが痛みと共に警告してきます。

使ってもいい物なのか、世に出しても構わない物なのか。

道具一つの去就に恐怖がつき纏います。



我らが前に進み伸長していくことは、神の怒りに触れはしまいか。

この想いは常に我らを苛みます。


ですが立ち止まっているわけにはいかないのです。

誰しも貧しく苦しい生活を望んではいません。

少しずつ、少しずつ前へ進み、昨日より今日、今日より明日の幸せを希うのです。


民たちが信じて進んでいける世を作らねばならないでしょう。

それが私の務め。

イシュベルク神聖帝国皇帝の責務なのです。


永い時の中で、変えていかなければならないこともあります。

恐れずに手を取り、成さねばならないこともあります。

躊躇ってはいけない。

我が良心に従い、道を開いて行かねばならないのです。



古代文明が滅んだ後、先人たちは己が良心に従い、奴隷を廃し種族の垣根を壊そうとしました。

しかし、東へ移った者たちを呼び戻すには至らなかったようです。

それもまたひとつの結果ではありましょう。

すべてが思うままになるはずもないのですから。


ひたすらに信じて己が道を行かねばなりません。

この胸に去来する想いを込めて、私は礎となります。


戒めはそれとして、神を敬することを忘れずにいかねばなりません。

我らは神に生かされた者の末裔なのです。


そのことを忘れずに、己が良心に従い国を導いていきましょう。

皇帝といえど出来ることは少ないのです。

私の力の及ぶ限り、国を前へと進ませねばなりません。


天に唾棄し我が世の春と勘違いした愚か者。傲慢さ故に滅びた先人たち。

人とは忘れる生き物です。

だからこそ我らは心に刻まなければならないのです。

神の御業に近づくこと、驕り高ぶることを戒めなければなりません。

それは我が帝国の鬼門となるでしょう。


ですが必ず道は開けます。

我らにも明るい未来は訪れるはずです。


この国の隅から隅まで、民が信じついて行ける国を私は望みます。

遍く者たちに幸多からんことを願いましょう。


そのためにも自らを律し、強い心で道具を見極めなければなりません。

これらを使うことは正しいことなのか?

神を冒涜することになりはすまいか?


そこに目指す指標はなく、ひたすら良心に問いかけるのみです。

我が心持も行いも、天上のお方はご存じでしょう。


我らは神に、二心なきことを見せ続けなければならないのです。

個人であれば容易いこと。そもそも神に対して二心などあろうはずもないのですから。

しかし為政者としてはどうでしょうか。


民の暮らしが楽になる、民が豊かになるのであればこの手に掴みたい。

この気持ちがすぐに堕落するとは思いません。

しかし、時と共に堕ちていくのではないか、また繰り返すことにならないか心配なのです。

豊かな暮らしを免罪符にするような事はあってはならないのです。



見つけられた過去の遺物を、ひとつ許せば際限がなくなり何かを喪失する哀しさに襲われます。


先日も研究所の者が対なる魔道具を持ってきました。

その道具は、私の声を遠くまで届かせることができるものです。


馬で幾日もかかるような所に、一瞬にして声が飛ぶ。

災害が起きてもすぐに状況がわかるでしょう。

それほど数はないようですが、使うことを許しました。


それ以外にもまだまだ使い道の不明な道具が残っているとのこと。

これからも見極め続けねばなりません。

過去の愚行を繰り返さないために。


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