嫁、ハイドランジアについて語る
結婚当初はハイドランジア様のことを、高圧的で自尊心が無駄に高く、いけ好かない高慢ちき野郎だと思っていた。
恵まれた容姿に、恵まれたお家柄、恵まれた環境に、恵まれた才能。
何もかも持っている人特有の、他人を見下し、信用せず、冷たく当たる。
そんな人だと決めつけていたのだ。
けれど、実際のハイドランジア様は、最初の印象とまったく逆だった。
まず、自分の容姿が整っているという自覚が、まったくない。
道行く人達の「美しい……」という言葉を、すべてわたくしに向けたものだと勘違いしているのだ。
発言した人を睨みつけ、「ヴィーに不躾な視線を向けてからに!」と毎度のごとく怒る。だが、わたくしなんて、ハイドランジア様の隣にいたら、かすんでしまう。存在すら、周囲から認識されていないだろう。
世の安寧のために、ご自身の美貌について自覚していてほしい。
性格については美貌も相まって、冷たく、人を見下しているような印象がある。
実際は恥ずかしがり屋さんで、口下手なだけであった。
そういう人だとわかっていたら、もっと早い段階で打ち解けたのに……。
おまけに人見知りもするようで、五歳児かと突っ込んだのは一度や二度ではなかった。
才能については、生まれ持ったものではないという。
その言葉のとおり、ハイドランジア様は相当な努力家であった。
それなのに、エルフだからなんでもできると思われているようで。口下手だから「違う」とも言えず、苦しんでいたらしい。
だからわたくしは、努力するハイドランジア様を見かけたら「偉い!」と褒めるようにしている。
すると、小さな男の子のような、無邪気な笑顔を見せてくれるのだ。
意外な面はそれだけではない。
ハイドランジア様はこの世のものに興味などない、という顔をしていながら、たいそうな猫好きなのだ。
魔力の高さから猫に好かれず、悲しい人生を送ってきたよう。
そんな状況で、猫化の呪いがあるわたくしが嫁入りしてきた。
人生は薔薇色だと、初めて思ったらしい。
何もかも手に入れているような男が、猫化の呪い付きの嫁を娶っただけで人生が薔薇色になるなんて……。
わたくしから言わせてもらえば、公爵家に生まれた瞬間から、ハイドランジア様は薔薇色の人生を送っているのだが。
さらに、その猫好きを隠しているものだから、わたくしとの関係もこじれるわけで。
すれ違いで、わたくしがどれだけ悩んだものか。
ハイドランジア様に関して、もっとも意外だったのは、愛情深い人物であったこと。
淡泊な人だと思っていたのに、わたくしを深く愛してくれた。
それが、どれだけ嬉しかったか。言葉では、表しきれない。
わたくしも同じだけの気持ちを返すために、今日も、ハイドランジア様の帰りを待つ。
おかえりなさい。その一言に、愛を込めて。




