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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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105/122

元嫁は、妖精姫のメンタルコントロールについて話し合う

 カナリア姫は危険だ。薄く繊細に作られたガラス細工のように、脆く壊れやすい精神状態でいる。

 なるべく刺激をしないほうがいい。


「ヴィー、彼女の監視を任せていいだろうか?」

「わかりましたわ」

「一応、ポメラニアンも付けておく」

「よろしいの?」

「ああ。妖精に好かれる女が発狂すれば、厄災レベルの騒ぎが起きる可能性があるからな。ポメラニアン、話は聞いていただろう?」

『ふ。バレていたとはな』


 何もないところから、急にポメラニアンが出てきた。今まで、姿を消して話を聞いていたようだ。


「お前はまた、そんなところにいて」

『先にいたのは我だ。お主らがあとからやってきて、不穏な話をしながらイチャイチャし始めたものだから、気を遣って姿を消してやっていたのだ』


 ポメラニアンはヴィオレットの膝に飛び乗ったが、すかさずハイドランジアが首筋を掴んで持ち上げる。


『おい、大精霊をそのように持つな』

「うるさい、自称大精霊」

『なんだと!?』


 ヴィオレットが間に入り、話を元に戻した。

 一緒にカナリア姫の監視を務めてくれるのかと質問すると、深々と頷いた。


『我に任せるぞよ。危険な思考に陥りそうであれば、我をもふもふさせておくといい』


 何か精神安定の魔法でも施すのかと思いきや、物理的なもふもふが解決策だったのでヴィオレットは笑ってしまう。


「なんだ、もふもふとは?」

『知らぬのか? 遅れているな。女性を中心に、人はもふもふすると、心が安らぐのだ』

「初めて聞いたな」

『ふっ。まだ、大々的に発表されておらぬからな』

「どこの学者の研究結果なのだ?」

『我だ』

「……」

「なんだ、インチキか」

『失礼な! これは我が長年、実際にもふもふされているときに調べたもので、データは五百年前まで遡れるぞ!』

「お前は、よほど暇なのだな」

『なんだと!?』


 ポメラニアン曰く、人はなめらかな毛並みや柔らかいものに触れると心が癒やされるらしい。


「でしたら、スノウワイトと竜の子も連れて行きましょう。妖精が心許す姫君なので、きっと仲良くなれるかと」

「一応、私も妖精エルフ族の血筋なのだがな」

『自称エルフが何かを言っておるぞよ』

「私は正真正銘、エルフだ」


 ハイドランジアに持ち上げられたポメラニアンが、にやりと笑う。ハイドランジアは「ぐぬぬ」と声を漏らし、悔しそうにしていた。


 このままでは、魔力にも悪影響を及ぼすだろう。

 ヴィオレットはハイドランジアに、ある提案をする。


「ハイドランジア様、わたくしを、もふもふしません?」

「な、なんだと!?」


 ハイドランジアは目をくわっと見開きながら、ヴィオレットを見る。


「ヴィーを、もふもふ、してもいいのか?」

「ええ。特別に、許します」

「そ、そうか」


 ハイドランジアはポメラニアンを下ろし、じっとヴィオレットを見つめる。

 視線が、だんだんと下がっていく。


「その、もふもふというのは、具体的にはどこの部位を?」

「今、ハイドランジア様が見ているところは、絶対にダメですわ!」


 視線は胸にあった。ヴィオレットはハイドランジアの耳をぎゅっと掴み、顔を上げさせる。


「ヴィー! 耳は止めろ! エルフの耳は敏感なのだ!」

「ハイドランジア様が変なところを見ていたからですわ!」

「すまない、すまないから、手を放せ」


 耳の先まで真っ赤にさせていたので、可哀想に思って手を放してやる。


「もふもふというのは、頭を撫でることですので」

「はい」

「では、どうぞ」


 ヴィオレットは首を傾げ、触りやすいようにしてやる。

 ハイドランジアは遠慮気味に、ヴィオレットの髪に触れた。


「ヴィーの髪は、手触りがよい」

「ありがとうございます」


 それから無言で、髪を触り続ける。頭を撫でるだけでなく、髪飾りを解いて髪を下ろした。長い髪をハイドランジアは長い指先に絡ませ、唇を寄せる。


「ふむ。もふもふとやらは、確かに癒やされるな」

『そうであろう!?』

「悔しいが、認めてやる」


 そんなわけで、カナリア姫に何かあった場合、ハイドランジア公認で『もふもふ療法』を行うことになった。

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