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第一四話 ああ、癒しが欲しい。

執筆時間より執筆速度が欲しい今日この頃。

 ようやく三人が戻ってきた。いや戻るというのは不適切か。三人には専用の部屋があるし、綾女の結界のおかげで安全だから夜は自室で過ごしている。朋友はベッドが慣れなくて寝づらいとか。

「おかえり。どうだった?」

 戻ると言えるのか、なんて考えた癖に『おかえり』か。

 そんな事を考えていた俺に答えたのは朋友だ。

「おうただいま。んで今日はゴッドゥティが投獄された」

「それはどうでもいい」

 俺が聞きたいのは今の俺でも用意できそうな物を売りつけられる相手が見付かったかどうかだ。初日に問題を起こしていたとしてもおかしくない奴が投獄されたと聞かされたところで気にならない。


 ゴッドゥティ。神童という名字だが凡人。同じく名字に神の字を冠する神主とは違い凡人だからこそな主人公体質という事はなく普通にモブな奴だ。なのに妙な高校デビューでもしたのか自分を神童だ神だと自称したりする。いや確かに名字は神童だけど才能は平凡、むしろ中の下くらいだ。だから遅れてきた中二病なんて呼び名もあるとか。

 唯一神を信仰する異世界で神を自称する男……酷い未来しか想像できないのは俺の想像力不足でも俺の境遇による先入観でもないだろう。

 才能もなければ努力もせず、だから当然のように特技も何もないのに自分が特別だと信じて疑わないような態度。綾女に「俺に相応しい美しい女だ。俺の物になれよ」と頭がおかしい発言をした事もある過信どころではない思考。当然友人は一人もいない。中学時代の知り合いも一週間と持たずに離れていったとか。


 そう言えば前に気絶した時に見た夢のどれかでダンジョンの転移トラップにかかり皆を危険にさらした上に神主を奈落の底に落としたのもあいつか。牢屋に閉じ込めておいてくれるならその方が安心だ。

 仮にもクラスメイトが投獄されたというのにこの反応は普通なら人でなしなんだろうけど、朋友はもちろん女子二人もむしろ清々したと言いたげな表情だし、他のクラスメイト達も似たような反応だろう。そういう奴なのだ。だからゴッドゥティなんて呼ばれる訳だし。

 ちなみにゴッドゥティという呼び名の由来は本名からだ。神童(しんどう)という名字に貞君(さだきみ)という名前だからゴッドゥティ。確かにある意味神なのかもしれない。


「いやとりあえず聞いてくれよ。確かに経緯はどうでもいいけど」

「なら何を聞かせたいんだよ」

 過程はどうてもよくて結果も投獄なのに。

「処遇、かな?」

 いやだから処遇も何も投獄……あ、察したわ。


 詳細まで察せた訳ではないから所々で俺の予想を超えた有様みたいだけど、大筋は予想通りらしい。

 まずゴッドゥティが何をやらかしたか。相変わらず神を自称していたせいで自業自得ながら初日から危うい立場にいたらしい。

 俺は唯一神のせいで今なおアウトな立場を抜け出せていないのに。

 最初にゴッドゥティが騒いだのは初日に俺が気絶した後。ようやく自分のステータスを確認した時に最高値がMAGの二万な地属性魔法使いという地味さに憤慨したとか。

 俺は日常生活すら死と隣り合わせなステータスなのに。

 しばらく騒いで少し落ち着いたのか、隠れたチートや覚醒可な潜在能力があるに違いない、すぐにそれを知らしめてやると息巻いていたらしい。よく分からない過信だ。

 けど例の防御系スキルで兵士が吹き飛ばされた件で実践訓練がなくなったからまた不機嫌になり、ついに今日「俺の真の力を見せてやるぜ!」とか言いながら訓練場で兵士達を巻き込み魔法を発動した。当然重傷者が出た、というかゴッドゥティ不在に気付いた探知系スキル持ちのクラスメイトが綾女と天王寺以外のステータス値一〇〇〇万超えのグループに話して、そいつらが訓練場を見渡せる場所に移動していたから救助や治療が間に合っただけで、そうでなければ一〇〇人単位で訓練中だった兵士達の多くが死んでいただろう。

 ……勇者一行と言えど、これこそ処刑案件ではなかろうか。

 だが実際は「神童様は勇者様方の一人。処罰など以ての外である」と宗教関係のお偉いさんが()れて危うく無罪放免になりかけたとか。ただ天王寺を筆頭に他の召喚勇者達がここまでの騒ぎを起こしたんだから反省させるべきだと異を唱えたから投獄という形に落ち着いたそうだ。

 ちなみにゴッドゥティは俺が軟禁(綾女の結界に守られているから安全なだけで、よく暗殺者さんが門前払いにされています)程度なのに何故自分は投獄されないといけないのかと本気で文句を言っているらしい。なお有罪判決に異議申し立てがないのは罪悪感でも反省でもなく、まだ真の力を発揮できていない状態で勇者である天王寺を相手にするのは得策ではないとかそんな理由だ。

 発揮できない真の力をどう見せるつもりだったんだお前は。

 そしてゴッドゥティは現在VIP用の牢屋という、今俺がいる部屋はもちろん使用人の部屋より数段豪華な牢屋に閉じ込められている。対召喚勇者を想定した強度ではないので綾女の結界で補強されているから脱獄は不可能だ。

 ちなみに戦線投入時には出所となるとか。仮釈放ではなく。


 ……ん?


 いやいやさすがに聞き間違いだろうステータスで考えても二万なんて俺を除けば当代勇者内では最弱クラスな上にただの自己顕示欲だけで禁じられていた訓練場での魔法行使を無断で行い一〇〇人単位の兵士達を巻き込み殺しかけた馬鹿を一週間と経たずに出所させるだけでもおかしいのに参戦させるとか味方の命と士気に関わるだろうそれならまだ足手まといの俺を参戦させる方が理解できるいやそれも充分おかしな話だけど。

 残念ながら聞き間違いではないらしい。

 ……扱いの差が酷い。俺は何をしたわけでもないのに謎称号のせいで殺されかけるわ小汚い部屋で食料抜き(まあ朋友達が分けてくれるけど)だわ安眠妨害程度にしかなっていないけど暗殺者も来るわと散々なのに、紛う事なき犯罪者はVIP待遇な上に数日で出所とか滅べばいいこんな国。

 ああ、癒しが欲しい。




     *   *   *




 その頃、監視役兼世話係としてVIP用の牢屋の傍で待機している数人の衛兵達は、まだ数時間も経っていないにも関わらず一瞬でも早い交代を望んでいた。


「クソが! 何で俺がこんな目に!」

 勝手な真似をして罪を犯し、他の勇者様達の不評を買ったからでは?

「ここから出しやがれ! 俺を誰だと思ってやがる!」

 勇者(犯罪者)ですかね。

「慰謝料だ! 金といい女をよこせ!」

 むしろ我々の方こそ訓練場の修繕費を請求したい立場ですが。

「クソがっ! クソがっ! そうだ、これも全部反町のクソザコ野郎のせいに違いねえ! ぶっ殺してやる!」

 なるほど一理ある……いやけどそれならあの害悪を庇う不届き者達が先に何か起こしていないとおかしいような気が……?

「俺は神童だぞ! 俺こそが神なんだぞ! 望めば何でも叶って何をしても許されて当然なのが俺だ!」

 気が触れたかこの男?


 このような状況を想定していた訳ではないものの、これを相手に処刑ではなく投獄という措置を取るのであれば、気持ちの悪い言い分に監視の方こそ一週間と持たないため早期出所は避けられないものだったのかもしれない。


「クソっ! こんな不当な扱いを受けてんだぞ! 覚醒しろ俺の真の力! そんでここを出て俺をこんな目に遭わせた連中を皆殺しにしてやるんだ!」

「おい誰か上に連絡してこい! これ絶対に出所させたら拙いから!」

神童 貞君(ゴッドゥティ)

我ながら酷いセンスだ。

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