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気だるさに熱さに気持ち悪さ……凡そ同時期に味わいたくない感覚が目覚めと同時に襲ってきて私は思わず口に手を当てこみ上げてくる吐き気を堪えた。
と、トイレ、トイレに行かないと……で、でも起き上がるのも辛い!
どうやら立ち上がってトイレに行くほどの元気は今の私にはないようだと判断した私は涙目で代用品を必死になって探す。
ビニールでもなんでもいいから何かないの!
「奈津姉!」
「奈津!」
「あ……にゃあ!」
どうやら傍に居てくれたらしいハルと篠とザクロちゃんが目覚めるなり吐き気を訴えた私に仰天した声をあげた。
若干一名(匹?)ウッカリ人語を話しかけて慌てて猫の振りしている。
それを突っ込む暇もないぐらい私の吐き気は結構やばい。
どうやら用意してくれていたらしい中に新聞紙を敷いたバケツをハルが透かさず私の口元に差し出してくれる。
待ちに待ったバケツの登場に私は震える手で受け取るとそのまま二人と一匹から最大限顔を背けた。
しばし、描写できない(したくない)光景と音声が繰り広げられました。
「……大丈夫か?」
「あ~~どうにか……?」
吐くものを吐きつくして水で口を濯いでやっと気持ち悪さがおさまってきた私はぐったりと布団に横たわりながら心配そうなハルにどうにかそう答えていた。
薄れたとはいえまだ気持ち悪いし身体はだるい。
……幽霊から生身に返ってきた途端に肉体を持っているが故の苦しみを味合わされる破目になるとは……。
生きているということを嫌というほど実感させられたわ。
よ、喜びたいのに素直に喜べないわ。この状況……。
ぜえぜえと整えられない息をしながら私は天井とこちらを心配そうに覗きこんでくる弟と幼馴染をぼんやりと見上げつつ枕元で心配そうにお座りしてこちらを窺っているザクロちゃんを安心させる為に笑ってみせた。
「私……倒れてからどうなった?」
どうにか荒い息の間にそれだけ聞いてみるとハルと篠は顔を見合わせ同時に「ばか!」と怒鳴りつけてきた。
「炎天下の中で馬鹿みたいな喧嘩していたオレ等も悪かったけどなぁ!奈津姉も体調が悪かったんならそう言え!」
「馬鹿ぁ!奈津の馬鹿馬鹿ばかぁ!」
きちんと正座をしたハルは怒った顔で懇々と私に説教を続け篠は完全に泣き顔で延々と私に「馬鹿」って言い続けた。
えっと……私、体調不良なんですけど?
倒れちゃったりしたばかりなんだよ?
手加減してもらえませんか?と言いたいところだけど言ったら更に悪化しそうだしこの二人は説教と「馬鹿」発言を続けながらも長年培った看病スキルを遺憾なく発揮しているため文句も言いづらかった。
もう本当に「ごめん」と「気をつけます」を繰り返すしかなかった。
「あ、そうだ……二人とも部活と夏期講習は?」
言ったら二人ともぐあっと目を見開いた。
こ、怖い……。
あまりの迫力に生まれたての小鹿のように震えてしまう私を誰も責められないだろう。
ザクロちゃん、助けてと目線で助けを求めても「こればっかりは主様が悪いですにゃー」と猫の身であるくせに実に器用に肩を竦めてみせた。
ね、猫の身体で器用ね。そして助けてくれないのね。え?自業自得?叱られろってこと?
弟と幼馴染は敵を前にした獰猛な獣の咆哮のように同時に怒鳴りつけてきて思わず悲鳴が喉の奥で絡まったような声が出てしまった。
「奈津姉を放って部活に行けるか!」
「倒れた幼馴染を放置できるわけないでしょうが!」
「ご、ごめんなさい……」
どうやら二人ともそれぞれの用事を止めてまで看病してくれていたようだ。
枕元に散乱する薬やら水差しやら氷嚢やらが二人がどれほど真剣に私を心配して看病してくれていたのかを私に伝えてくる。
顔を動かせば見えるそれらに胸が熱くなった。
もう本当に申し訳ないやらありがたいやらだ。
「私……どれだけ寝ていた?」
リカルド君たちが帰ってきてないってことはそこまで時間は経ってないとは思うけど。
私の疑問に温くなった氷嚢を私の額から取り上げながら篠が答えてくれた。
「一時間ぐらいよ。一応おじいちゃん先生に診てもらったら疲れが出たんだろうってさ」
「疲れ……」
おじいちゃん先生というのは私が昔からお世話になっている先生のことだ。白い髭の仙人みたいな外見のせいでご近所さんは皆「おじいちゃん先生」と呼んで親しんでいる。
もう結構な高齢のはずだけどバリバリの現役お医者さんだ。
ハルが眉間に皺を寄せて重々しくおじいちゃん先生の言葉を言う。
「おじいちゃん先生怒っていたぞ。倒れるまで頑張るだなんて体調管理がなってない、ってな」
「言い返す言葉もございません……」
「……ゆっくり休みなさいよ」
「うん……あ、お昼ごはんと夕飯と掃除と洗濯がまだ……」
諸々のやるべきことを思い出し、身体を起き上がらせようとした私に振り返った二人の目はどこまでも冷たかった。
「「ゆっくり休め?(なに寝言言ってんだ?ああん?)」
聞こえてはいけない彼らの心の副音声までバッチリ聞こえてくるのはどうしてでしょうか……。震え上がる私を見下ろす二つの目。
「はい……」
弟と幼馴染の(怖い)笑顔のお言葉に私は大人しく頷く以外の選択肢を与えられませんでした。




