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わたしの異世界食配達物語  作者:
家族団欒には手作りの料理を
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 取り合えず一件落着(してないけどそういうことで!)した所で私は魔術師さんに言った。

 視界の隅で幽霊さんがふらふらしながら私達から離れていく姿が見えるのはきっと気のせい!

 ちょっと離れた廊下の端とかでこちらに背中を見せつつ膝を抱えて暗雲を背負っているのも幻覚!

 なんか放置し過ぎるとそのまま性質の悪い悪霊になりそうな気がしないでもないけど今は気にしない!

 様々なことを流し(スルー)して私は魔術師さんを必死に見る。


「あ、あの!私をあっちに帰してください!」


 そう、結局の所私の願いはそれだけ。

 ぶっ倒れた私をきっと心配しているであろう人々の所に無事に帰ること。

 っていうか何の前触れもなく倒れちゃったから早く身体に帰らないとあの子達を無駄に心配させちゃうよ!

 特にあの現場に居合わせたハルと篠は付き合いが長い分、私の入院騒ぎやら寝込んでいた姿を多く見ているため他の誰よりも私の体調の変化に敏感なのだ。

 そんな二人の目の前で倒れたのだ絶対に死ぬほど心配する。泣きそうになる。昔なら絶対に泣いているに違いない状況だよ。

 二人のそんな姿が容易く私の脳裏に思い浮かんでしまう。

 私は必死だった。

 帰りたかった。帰るつもりだった。

 なのに……。


「……う~~ん」


 何故、腕組して悩み出すの! 


 魔術師さん、ただ私を身体に帰してくれればいいんですよ?


 さぁ、早く!


 さぁさぁと急かす私を軽く無視しながら魔術師さんはしばらく自分の考えに耽るように黙っていたけど不意に視線を上げてこちらを見た。

 その視線が思いの外強くて私は一瞬だけ気圧されてしまった。


「ねぇ、ナツ。聞きたいことがあるんだけど」


「帰してくれるなら一つでも二つでも答えますけど!」


 勢い込んで身を乗り出した私に魔術師さんは穏やかに笑いながら何でもない風に言葉を続けた。


「うん。ありがとう。それでね、君が連れていっちゃったリカルド王子のことなんだけど」


 一瞬、頭が真っ白になった。


「あ……」


 言葉が出てこなかった。

 リカルド君を私の世界に連れ去ったこと……こちらで問題にならないはずがない。

 幽霊になるという非常識極まりない経験の所為で頭の中から丸々飛んでいた。

 リカルド君に「夏休み」をあげたい。

 ただの子供でいられる時間を過ごして欲しい。

 そう結論に達して、そしてこちら側にその旨を伝えねばと思っていた。だけど……結局のところ、未だに私は連絡が取れていなかった。

 向こうから何もコンタクトがないことを理由にして自分からは連絡しなかった。

 何を言われるのかと心が少し、魔術師さんに対して身構えてしまう。

 何を言われても言い訳なんかしないしできない。

 それだけのことはしたのだという自覚ぐらい、ある。

 逃げない。

 そう決めてはいたけど……実際に王宮の関係者である魔術師さんに何を言われるのかとビクビクしてしまう弱い自分がいたことは…………否定できない。

 弱いな、私。

 …………情けなくなる。

 そんな私の心の動きを読んだのか魔術師さんの声色が少しだけ柔らかくなった。


「僕はさ、君がリカルド王子を攫ったことを責めたり罰したりだなんて言う気はないよ?ただ、リカルド王子をこれからどうするつもりなのかそれを知りたいんだよ」


 真っ直ぐ私を見る魔術師さんは彼自身が言う通り責める様子はない。

 だけど、なら何を……。


「君も知っているだろうけどあの親子の関係は複雑でね。膠着状態がもうずっと続いていたんだ。誰にもどうしようもなかった……心の問題だけに迂闊に手を出して壊すことを恐れたんだよ」


 魔術師さんが声の若さよりもずっとずっと長生きなのは知っていたけど今までは実感はおぼろげにしかなかった。

 だけど、今は確かに目の前の存在が私よりもずっと永い生を生きているのだと理屈ではなく納得できた。

 まるで天上から全てを見渡しているかのような万能性を今の魔術師さんからは感じられる。


「それを君が横から風穴を開けてみせた。王子の心も王の心もよくも悪くも動かした。もう、元通りの停滞

には誰にも戻せない……徹底的に壊れるかそれとも別のものに生まれ変わるのか……その切っ掛けを」


 そこで言葉が途切れる。


「君が作った」


 魔術師さんが言った。声には笑い声すら混じっていた。

 愉悦を堪えきれないと言わんばかりにくくっと肩を震わす。最初は徐々にだけど次第に隠しきれないほどの哄笑へと変わる。


「凄い、凄いよ、ナツ!誰もが腫れ物を触るかの如く手を出しかねて放置していたあの二人の関係に王子の異世界への拉致という荒業を使って容赦なく風穴を開けて見せたんだからね!」


 ばっと手を広げた魔術師さんは心底楽しげだ。

 その姿は一見面白い玩具を見つけた子供のように無邪気だ。

 なのに恐ろしく酷薄な空気を感じ取るのはどうして?


「なにを……笑っているんですか?リカルド君と王様の……親子の間のものすごく重い問題をなんで笑って話すことが出来るんですか?」


 信じられなかった。出逢ったばかりの私でもあの二人の関係の異常さを感じ取れたのに付き合いの長い魔術師さんの方がずっとずっとあの二人のことを知っているのに……なのに、どうして笑えるの?

 自分の目が険しくなるのが分かる。

 睨み付けてくる私の様子すら彼を楽しませる要素にしかならないのか魔術師さんは肩を震わせたままだ。


「笑うのが気に入らない?…………突発的で幼稚で何一つ考えがある行動じゃない!でもそれがあの長年硬直していたあの二人に風穴を開けたんだ!何一つ関係のない異世界人の女の子の衝動的な行動がさ!笑いの一つも出てくるよ!」


「魔術師さん……」


 この人は……いったい何を面白がっているんだろう?

 私が配達した料理を美味しそうに食べて、リカルドくんやザクロちゃんと取り合っていた魔術師さんとちっぽけな女の子が硬直した親子関係を動かしたことを面白そうに笑う魔術師さんがどうしても一致しない。


 本当に同一人物?


 フードの中身が丸々入れ代わっているんじゃないかという懸念すら浮んでくるほど普段の魔術師さんとの落差があった。


 くつくつと未だに喉の奥で笑うこの人は……だれ?

 本当に、私の知っている魔術師さんなの?


 言いようのない不気味さを胸の中に感じてしまい言葉を失う私に魔術師さんが手を伸ばす。

 フードから出たやけに白い指先はきっと凍えるほど冷たいのだろう。

 じっと魅入られたように私に伸ばされた指を見る。

 避けることも出来ない。ううん。考えもしなかった。


「ねぇ、ナツ……」


 聞きなれた少年のような声が今は酷く老成したそれに聞こえてくる。


「答えて欲しい……君は……」


 惑わすようなその声に強制力なんてないはずなのに体中の自由を奪われたかのような錯覚を起こした。

 指先がそっと私の頬に触れた。

 そして掛けられた言葉に私は静かに目を閉じ、思案する。


「君は……何を望む?」


 触れられた指先は想像に反して温かい人の手の温もりを持っていた。


 その言葉は一体どういう意図で発せられたのか私にはわからない。

 

 何を望む?


 そう聞かれても私の願いは沢山有る。

 緊急性を要するものならば早く幽霊から生者に戻りたいしそうでないのなら家族の無病息災やらリカルド君や王様が和解して欲しいとかもっと俗な話しならば美味しい食材欲しいとか高性能フライパン(お高いの)の入手とか……とにかく沢山。

 願いなんて山ほど抱えている。

 くだらない願いも……絶対に譲れない願いも等しく私の中に、ある。


「ねぇ?ナツ?君の願いはなぁに?」


 毒のような声で魔術師さんが再び問いかけてくる。

 まるで本当に彼に願いを叶える力があるかのように……悪魔の囁きとはこんな風に人を誘うのかと思わせる声。

 生きているからこそ抱える様々な「欲」「願い」。

 叶えてくれるのなら、本当にそんなことが許されるのなら……私は……私が願うのは……。


「…………」


 私は俯いた。


「ナツ?」


「………………ない……」


「?聞こえない……」


 勢い良く顔を上げた私に驚いた魔術師さんの手が頬から離れる。


「願いなんて沢山ありすぎて選べないわよ!」


「……へ?」


「魔術師さんが一体どういうつもりで私の願いなんて聞いてきたのかわからないけどね!だけど人間生きていれば願いの一つや二つや十や二十ぼこぼこ生まれてくるもんよ!何を望む?何て聞かれて即答できるわけないわ!」


「え?なに?なんで逆に僕が怒鳴られているのかな?」


 不思議そうに言い返してくる魔術師さんを私はしっかりと睨み返してふんぞり返る。

 なんか色々考えるのが馬鹿らしくなってきた。

 悩んで吹っ切れて……そして私はきっとまた悩んでまた吹っ切れていく。

 それでいいじゃないって気がしてきた。

 正解じゃないかもしれないし、時間が経てばまた違う考えになるんだろうけど……今の私はそう思えたんだからそれでいい。


「訳のわからないことを言っていないであなたはさっさと私を身体に戻せばいいの!」


 今回の私の吹っ切れには仁王立ちでそんなことを魔術師さんに言い放てるぐらいには威力があったんだから。


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