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わたしの異世界食配達物語  作者:
家族団欒には手作りの料理を
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「生霊?」


 鸚鵡返しに繰り返す私に幽霊さんは「そう」と頷く。

 先ほどの騒動がおさまりお互いに冷静になった私と幽霊さんは状況確認をしていた。

 ちなみに自己紹介したのだが幽霊さんはなんと記憶喪失で自分の名前を思い出せないそうでそのまま幽霊さんで通している。

 地面に立つより宙に浮んでいるほうが好きなのか空中で胡坐をかいて考えこんでいる。


『う~~ん。なんというのかな~~感覚的なものだから上手く言えないんだけどね……あたしはさぁ、なんというかもう“ない”んだよね~~命っていうか体に繋がる何かをなくして幽霊な自分がもう自分であることの必要な要素になっちゃっているんだよ。幽霊であることがあたしには“普通”。だからあたしは幽霊。だけど奈津ちゃんはさぁ~~違うんだよなぁ。この状態が“異常”だって感じているでしょ?それは君にはまだ体に繋がる何かが“ある”からなんだ。“それ”は見えないし触れもしないけどあたしには有るなしが感じられるんだ』

 

 だから君は生きている。

 

 そう締め括った幽霊さんの話は前置き通り感覚的なもので理解しずらい話だった。それでもどうにか無理矢理自分なりにまとめてみる。


「え~~っと何か詳しいことはよくわかりませんが私には生きるために必要な“何か”がまだあって幽霊から生身に戻れる可能性がある、と?」


『まぁ、ざっくり言えばそう』


「じゃあ、すぐに生身に戻りたいんですけど!」


『ごめん。あたし気付いたら幽霊だったから生身に戻る方法しらない!』


 あうっ!


 力いっぱい知らんと言い切られたぁ~~~~!


 望みはあるといき込んだ私の言葉は幽霊さんの笑顔の暴投により粉砕された。

 あまりにも絶望的な顔をしていたのだろう幽霊さんがちょっとおろおろして慰めるように肩を叩いた。


『えっと……ファイト!生きてりゃ人生なんとかなる!それに死んでもわりとどうにかなったりするし!あたしみたいに死んで目が覚めたら異世界ふぁんたじぃ~~にいてもどうにかなっているし!ね!ね!』


「そ、そうですよね!私、生きていますし!異世界ファンタジー世界で目覚めてもなんとか……え?」


 聞き逃せない単語にマジマジと幽霊さんの顔を見てしまう。


『?』


 異世界ファンタジー?

 え?

 なに?

 それってまるで……。


「あの……幽霊さん。お聞きしたいことがあるのですが?」


『どうしたの?いきなり神妙な顔で人の顔を見て』


 首を傾げる幽霊さんは無視して、私はその言葉を紡ぐ。


「ここは……日本、いや、地球上のどこか、ですよね?」


 そうであって欲しいという希望を込めた私に幽霊さんはあっさりと首を横に振る。


『うんにゃ、違うよ~~。あたしもさぁ~~日本か、もしくは知っている外国かと最初は思ったんだけどね。色々見て回って人の話しを聞いたりしたらさ、どうも違う見たいなんだよね~~いや~~まいったまいった』


 あははははっと軽く笑っているけどこちらは笑いことじゃない!


「い、異世界って!ま、またぁ~~!」


 本当になんて年なんだ今年は。

 異世界に召喚されて異世界に食配達を始めて、挙げ句幽霊になってまた異世界トリップって!

 人生でなんだってこんなに異世界トリップを体験しなきゃいけないのぉ!

 頭を抱えた私に気付かずにのほほんと幽霊さんは話しを続ける。


『なんかさ~~この世界ってリシュルって名前みたい。で、ここはその中でもけっこう大きな国の外れだよ。ほら、遠くに城壁と街とお城が見える』


 聞き覚えのある名前に顔を上げるてみると彼女の言う通り確かに遠くに城壁に囲まれたお城が見えた。


「うあっ……」


 ふっとこの世界の知識が湧き上がってあれがリカルドくん達の住む国だということがわかった。


「うあ~~~~~~~~~~~~~!」


 解った途端に知らない場所じゃなくて安心したやらどうしようと思うやらやっぱり生き返りたいやら様々気持ちが湧き上がってきて、それらを発散するために取り合えず私は、叫んだ。


「いらっしゃい!今日の野菜も新鮮おいしいよ~~!」


「東の国の珍しい衣が充実しているよ~~!」


「只今当店のパンが焼きたてです~~どうぞご来店ください~~」


 あっちこっちの露店や商店から売り子さんの呼び込みが響いている。

 活気が溢れた街をふよふよと居心地悪く彷徨う幽霊が……。


『うぉ~~!瑞々しいお野菜!農家の努力と愛を感じるね!』


 一人と、テンション高くあっちこっちを宙に浮んで見て回る幽霊が一人。

 あれから少し時間が過ぎて私は幽霊さんの案内の元、城下町を彷徨っていた。

 いや、あの原っぱにいても仕方がないしここなら私達のことを見える人がいるかもしれないし元に戻る方法が見つかるかもしれないし。

 などと私にしては色々考えていたのだけど……蓋を開けてみればテンションが異様に高い幽霊さんにお店(主に食べ物関係)を連れまわされる破目におちいった。

 なんとなく成行きで城下町まで案内してくれた幽霊さんだったけど私の目的は忘れてるよね?これ。

 相手のテンションが高くなるほどにこちらのテンションは下がっていく。


『おっちゃん!この野菜!どんな調理方法があるの?どんな味?旬の時期は?ね、ね、ね!』


 幽霊だからもちろん生きている人に私達の姿や声は届かない。

 それをわかっているはずなのに幽霊さんは山盛り積まれた野菜に目を煌かせて届かない言葉で反応のない店主のおじさんに色々と質問している。

 先ほどから見ているけど彼女が興味を示すのは野菜やお肉などの食材、あとは料理包丁など。


「幽霊さんって料理が好きなの?」


『うん!大好き!……あれ?』


 満面の笑顔で答えた幽霊さんだったけど自分の答えに今、気付いたように首を傾げた。


『料理?あたし、料理を大好きって言った?』


「はい」


『……そっ、か……うん。あたし、料理、大好きだ!』


 私が頷くと本当に嬉しそうに幽霊さんは笑った。

 それはまるで無くなったお気に入りのおもちゃを不意に見つけたかのような無邪気で晴れやかな笑顔にわたしには見えた。


 嬉しそうに頷いて触れない手で野菜を撫でた幽霊さん。その手は野菜に触れることはなかったが幽霊さんは気にすることなくぶつぶつと呟いていた。


『この野菜はどんな味がするんだろう。甘いのかな?それとも酸っぱい?煮付けがいいかな?炒め物?う~~ん楽しいなぁ~~!』


 見知らぬ異世界の野菜を前に味を想像し、どんな調理法がいいかなとうきうきしている幽霊さん。

 朗らかに呟いている調理方法は私でも知っているメジャーなものからものすごく専門的な知識まであって幽霊さんの料理に対する知識の深さが窺えた。

 因みに私がその単語が専門的なものだと判断できたのはご近所に世界中を渡り歩いたことがあるという料理人のおじいちゃんがご町内に住んでいたからだ。

そのおじいちゃんは小さな料理屋を営んでいるのだが結婚したばかりの母がその味にほれ込み、また、料理が全然駄目だった母が土下座をしそうな勢いで頼み込み料理の手ほどきを受けた。私も母についていって子供ながらに料理に興味をもったので一緒に習い、母を亡くして台所を預かるようになってからは積極的に教わったいわば我ら高梁家の食の師匠とでも言えるお方なのだ。

 この人がいなかったらわが家の食生活は悲惨なことになっていたね、とは我が父の言葉だ。


「幽霊さんは料理に関係したお仕事か勉強をしていたのかもしれませんね」


 ちょっとした考えが私の口から漏れて幽霊さんが振り返った。


『へ?』


「だって調理方法とか詳しいですしなによりもそこまで料理好きな人が料理と無関係な仕事につくとは思えませんから」


 幽霊さんの外見は二十歳を一つ、二つ過ぎた辺り。専門学校に行っているかもしれないし高校卒業してすぐに料理の世界に飛びこんでいても可笑しくない年齢だ。

 ぷかぷかと宙に浮んだ幽霊さんが「う~~ん」と腕を組んで唸る。


『駄目だ!なにも思い出せない!』


 どうやら自分のことを思い出そうとしていたようだが思い出せなかったようで宙であぐらをかいたまま頭を掻き毟る。


『料理が好きだってことは確かなのよ!記憶を失う前のあたしも絶対料理好きなの!だけどそれ以外が想い出せない~~~~!』


 あ~~すっきりしない~~!

 喉に小骨が刺さったかのような顔でうがうが唸る幽霊さんだったけど数十秒そうやって唸ったかと思うとけろっとした顔で『まぁ、悩んでも仕方がないか!』とあっさり立直って次ぎの食材を楽しげに見に行ってしまった。

 その背中には記憶を失った悲壮感も悩みも何も漂っていない。ただただ楽しげな好奇心のみが彼女の周りを取り巻いていた。

 そしてそれを呆然と見送るしかない私。

 本当に幽霊らしくない明るい人(?)であった。

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