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「…………ならっ!この子はうちの子にします!」
大多数の怒りとほんのちょびっとの悲しさを全て怒声に変えて私はリカルド君を抱き寄せて宣言する。
突拍子もない宣言にリカルド君も王様もざくろちゃんも目を丸くした。全員の視線が私に集まっていたけどそんなこと気になんてならない。
「誘拐だと騒ぎたければ騒ぐといいですよ!ええ!不敬罪だろうが王族誘拐の罪にでもなんでも問えばいいですよ!私は謝りませんけどねっ!」
怒りでありとあらゆることがどうでもよくなった。
立場だとか権威だとか常識的に考えてここまで深入りすべきではないとか頭から飛んでいった。
ただただ感情のままいいたいことをマシンガンのように言い放つ。
「な、ナツ………」
腕の中でおどおどと見上げてくるリカルド君を問答無用で抱きしめる。
小さな身体。
守られてしかるべき年齢なのにたった一人の肉親にさえ甘えることを許されなかった男の子を守りたいと思った。
『母の命を縮めて生まれてきた………』
『リカルドさえ、生まなければ彼女は今もここにいた』
遠い昔に聞いた声とついさっき聞いた声が重なる。
どちらも暗く重い感情。
それらを小さな小さな子供に向けた、残酷な刃。
誰が、悪いんだろう。
何がいけないんだろう。
どうして、伝わらないんだろう。
どうして、どうして!
残した人の想いも残された者の想いもすれ違ってしまうの!
「どうして!誰かの命を奪って生まれたと思うの!この子のせいで死んだなんて言うのっ!違うでしょ!完全な八つ当たりでしょが!いい年下大人が子供に当たらないでください!」
爆発しそうなぐらい強い強い感情が胸の奥からわきあがってくる。目が熱い。押しつぶされそうなぐらいその感情を私はそのまま言葉にした。
「命をかけて、あなたに残したんでしょが!たった一人の自分と貴方を繋げる家族をっ!そんなことも判らず子供を遠ざけるぐらいなら王様なんてやめてしまえっ!」
感情のまま全てを吐き出す。
それは今、この場にいる人たちへのものだけじゃない。
五年前のあの日の感情も全てこめて吐き出している。
わかっている。八つ当たりしているのは私も同じ。
でも、どうしても、許せなかった。
容認なんかできない。
「どうして………向き合ってくれないの?否定してしまうの?」
涙でゆがむ視界。
「貴方達は家族なのに」
目を背けるその姿が私にはとても悲しいんだ。
ぽたぽたと絨毯に私の目から零れた涙が染み込んでいく。
「ご主人さま………」
ざくろちゃんが心配そうに見上げていた。
腕の中のリカルド君も。
王様は………何を考えているのか判らない顔で私を見ている。
王様の執務室にいる誰もが口を開かなかった。
私は乱暴に涙を拭うと王様を睨む。
何故か気おされたように王様の身体一瞬だけ震えた。
「今の貴方の側にいてリカルド君が幸せになれるとは思えない」
自分、勝手。
お節介。
そんな言葉が浮かぶ。
少なくとも私は今、二人の人間の心に土足で踏み入った。
リカルド君と王様、この二人の心の多分、一番踏み込んで欲しくない場所に。
だけど、どうしても、ほっとけない!
「答えが出ない貴方とリカルド君じゃ一緒にいたら絶対に幸せになれない。だから!」
ざくろちゃん!と私はこの場から逃げる唯一の手段を持つ子の名を呼んだ。
「私とリカルド君をあっちの世界に運んで!」
再び発せられたとんでもない発言に今度こそ全員の顔に驚愕の表情が浮かぶ。だけどさすが私のざくろちゃん!その中の誰よりも早く立ち直ってくれて魔術を発動させてくれる。
事態を漸く把握したリカルド君が私の腕の中で暴れだすので逃げ出さないようにしっかりと抱きしめる。
「王様!貴方がいらないというのなら私が引き取ります!貴方には返しません!」
「なっ!」
王様が立ち上がる。
だけどざくろちゃんの方が早い。
まばゆい光が私達を包んでいく。
「ま、て!………りかる………っ!」
光に包まれる寸前。
机越しにこちらに必死になって手を伸ばす王様の姿を見た気がした。




