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わたしの異世界食配達物語  作者:
お菓子と神話
18/58

16

土日祝日を除く三時のオヤツ時が基本的に私が異世界へ食を配達する時間。

異世界とこちらの世界の食料のすり合わせも大まかな所は済み、異世界への配達も数回済ませ、私もリカルド君たちも慣れてきた頃、事件は起きたのだ。


「ちわ~~~す!高梁デリバリーで~~~~す!」

いつものようにざくろちゃんと共に異世界に配達にきた私をいつものメンバーが出迎えてくれた。


「やっほ~~~ナツ。こんにちは」

 

「来たか」


ひらひら~と手を振ってくる魔術師さんとその向かいで軽くこちらに視線を向けるリカルド君。

出逢った頃から変わらない二人である。

 

「今日の配達はミートパイだよ~~~~~」

 

こちらの世界のお肉(肉質は牛に似ているけど外見は全然違う何か。ここでの描写は控えさせてもらいます)とトマトに似た植物を使って作ったミートパイの乗ったお皿をテーブルの上に置く。

 

「「「おお~~~」」」

 

二人と一匹の感嘆の声が重なる。

きらきらした目(一人は目、見えないけど)で見つめられるのを苦笑しつつ手早く切り分けリカルド君・魔術師さん・ざくろちゃんと順に皿にサーブして渡していく。

それぞれ食材に感謝を捧げるとすぐさまミートパイを平らげにかかった。


真っ先に口をつけたのはリカルド君。


パクリと大きな口でかぶりつく。本日のミートパイに入れたチーズがトマトで作ったソースと一緒にとろりと溶け出す。


「~~~~~~~~~~っうぅぅぅぅまぃ!」


口の周りをソースとチーズ塗れにしつつ夢中で食べるリカルド君。


「あははは。がっつかなくてもみーとぱいは逃げないのに」


そんなことを言いつつ、スゴイ勢いで手を伸ばしミートパイを平らげていく魔術師さん。言葉に説得力ないです。


「うにゃ!お肉がじゅわっとしてソースとチーズが絡まって周りのパイ?というのもさくさくとしてとても美味しいです!」


よほど美味しいと思ってくれているのかハムハムとミートパイを食べているザクロちゃんの尻尾が機嫌よさげに揺れていた。

大きなホールで二つ焼いたミートパイが見る見ると減っていく。

毎度毎度思うけど子供一人大人一人猫一人なのにどんなに大量に作ってもペロリと平らげた挙げ句おかわりはないかとまで聞いてくるんだからすごい食欲よね。

そんなことを考えている内にミートパイはあと残り一切れ。


「むっ!」


「おや~~」


「うにゃ!」


二人と一匹の手と前足が同時にその一切れに伸ばされ、触れる直前で止まる。

窺うように交わされる視線に場の雰囲気が鋭くなる。

気のせいでなければ静電気にも似た殺気が部屋を充満しているような。


「怪我とか器物破損はだめだよ~~」


なんだか慣れてしまった私は紅茶を啜りながら成行きを見守る。

もう、この展開何度も何度もあったから止めることすら放棄しました。静観が一番です。

私の声を合図に壮絶なる取り合いが始まる。


リカルド君やザクロちゃんならわかるけど魔術師さんこの中の誰よりも年長者なくせに一度だった譲るという選択肢をしたことがないよね。


「魔術師!てめぇ魔術で早く動くのは卑怯だぞ!」


「そうですそうです!」


「…………っ………よく…………みえ………ぜ、………よ!」


「あははははっ!悔しかったら僕よりも早く動きたまえ!」


ん?


リカルド君たちの騒ぎの合間に外から何か別の声が聞こえたような?

振り返って後ろの窓を見ると上の方で何かがチラチラなびいている。


あれって………人の服?


気になって窓に近づく。


「させるかぁ!ザクロ!協定結ぶぞ!まずは魔術師の野郎を倒す!」


「はいです!」


「………ちょ、ロープ………みじ………」


近づいたらはっきりと聞こえた。人の声だ。それも子供?

そろりと窓を開け、顔を外に出す。今日は風が強いらしく吹き付けてくる風に髪を乱され一瞬目を閉じてしまう。


「………よく、見えないなぁ……。………あっ………」


目を開ける。


「…………へ?」


窓のすぐ側の壁にロープで吊るされた十歳ぐらいの男の子と目が合う。


「………黒い髪、緑色の目の異国風の服装の女………間違いない!食の女神さまだぁ!」


その子は私をマジマジと見詰め、容姿を確認するとぱぁと顔を輝かせ指を指して叫んだ。


「食の女神?」


それは魔術師さんに聞いた神話に出てくる女神さまのことだ。

え?なんで私、食の女神様って呼ばれているの?

こちらの戸惑いなんて知ったことないとばかりに男の子は私に向かって手を伸ばそうとして………バランスを崩してヒックリ返る。


「うぁぁぁぁ!」


「ちょっ!だ、だれかぁ!」


どうやら握っていたロープから両手を離してしまい、バランスを崩してしまったようだ。

突然の出来事にじたばたと男の子が暴れるたびに彼の腰から伸びたロープがギジギジといやな音を上げる。

予想外の展開にすっかり混乱してしまった私に気付いたリカルド君たちが慌てた様子で窓に近づいてきた。


「………どうした!」


「ご主人様!」


「お、男の子が外で逆さづりになっちゃった!」


真実をそのまま告げれば一人と一匹は目を丸くして、窓の外を確認して更に驚いた。


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