恋心
牛養はその日もずっと女のことばかりを考えていた。しかし、これは恋や愛などというものではない。あくまでそれに満たない一方的で自己中集的な感情であった。恋とか愛などはあくまで間主観性であり、相手から見た自分という存在と向き合いながら相手のことを考えるものではなかったか、それに即して言うなれば、牛養の感情は恋ではない。もはや相手が自分に対してどのように考えているかなどどうでもいいというものであった。彼女の名前は何か、好きな食べ物は何か、私が彼女にしてやれることは何か、そんなことばかりを考え、それを彼女が求めているか否かは一切考えなかった。これが牛養である。要は、結果の伴わない行動力だけ一人前な彼のパーソナリティの所以はここにあるのだ。
翌る日、牛養はいつも通り農作業に従事した後、彼女の後をつけた。もちろん同じ主人の領土内で生活しているので、追跡は容易であったが、見つかるリスクなどは比類もならないほどに大きかった。20分ほど歩いた後、彼女の住んでいる小屋が見つかった。血が湧き上がるような高揚感の背後に、何やら罪悪感のようなものを感じた。その罪悪感のような感情は、牛養に間主観性を植え付けた。つまり、彼女にとって自分の行動がどのように思われているのか、自分の存在はどのように受け取られているのか、考えるようになってしまった。
これについて考え始めるともう何もできない。我々現代を生きる人間と同じである。いつも通りぐだぐだ内容の伴わない空虚な思考を巡らせた後、牛養は彼女の小屋に向かおうとした。
「何をしている」
牛養は見つかった。彼女にではなく、看守にである。いつも通り拷問を受け、監禁されることになった。それも仕方あるまい、牛養の行動は客観的に見た場合において、犯罪者のそれであったからだ。
前回主人に締め上げられた痛みが消えていない。もう体が動かない程に負傷した。そんな中でも彼女のことを考えたが、誰よりも働いている牛養はこれほど刑罰を喰らい、彼女が拷問をくらっているところなど見たことがない。力も牛養の方が優れているはずである。
考えても仕方ない、、、結局いつも着地点はこうである。考えるのをやめて、不意に訪れた眠気に身を任せた。
翌朝、牛養は解放され、重たい体を引きずって農作業に向かった。この最中、彼女が寝ている小屋の前を通ることになったが、あえて近くは通らず遠回りした。それでもやはり気になるのは気になる。緩やかにぼやける横目で彼女の小屋の方を見た。すると、高貴な服装をした男が出てきたのだ。
牛養は何も考えられなくなった。その日はなんとなく農作業を開始したが、そこで彼女は遅れてやってきた。なるほど、いつも彼女の目は生きているかわからないような感じだった所以が分かったような気がした。
「天気がいいね」
牛養はそう言ったが、彼女は何も喋らない。牛養は字は書けないが喋ることならできる。彼女は喋ることすらできないのか、、、と思わざるを得なかった。
「いい天気ですね」
少し間が空いて、返事が来た。その日の会話はそれだけだった。やはりビビリである牛養に深い会話などする勇気がなかったのだ。間ができて内心焦る牛養を見て、口角をあげて
「あなたは、昨日私の小屋に来ましたか?」
彼女はこういった。




