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こうして、私は成仏したのです

Act.7


あの騒動が嘘のように、図書室は静かになった。本はばらまかれてぐちゃぐちゃになっているが、静けさはいつも通りだった。たまたま目に着いた恋愛小説を読んでいた。何度も読み返した本なので頭に内容が入ってこない。パラ、パラとページのめくれる音が響いていた。


「デス、居るかい?」


突然響いた声。入口を見れば、お兄様がお義姉様の肩を抱きながら立っていた。お義姉様が不釣り合いな水差しを持って……。つまり、これ使って話したいってことでいいのかしら?


『居りますわ』


文字を水で表せば、月明かりに反射した文字が綺麗に浮かぶ。文字、もっと練習して美文字で書きたかったと思ったがそこはもう気にしてはいけない。

私の文字に、お兄様とお義姉様は嬉しそうに笑った。


「デス、死んでしまったお前がここに居るのは嬉しい気もするが、長くいたらお前が『堕ちて』しまう。本をよく読んだお前なら分かるよな?」


どうやら、お兄様は私が長くここに居ることを心配したようだ。それもそうだ『堕ちた幽霊』、もとい『悪霊』は自我を失い、やがて多くを傷つけだす。しかも、現世に長くとどまり続ければ、それだけ力も増していく。私が本を投げつけられたのだって、力が増している証拠なのだ。


『分かっているわ。でもね、お兄様とお義姉様の結婚式までと決めていたの。』


「デス……。」


お義姉様は泣き出していた。水差しにお義姉様の涙が落ちていく。


『お義姉様のヴェール持ちは私がやりたかったわ。せめて、二人の門出を見てから逝きたかった。』


「ああ……ありがとう。あと、オセロ殿下も守ってくれてありがとう。」


お兄様は言葉にならないようだった。でも安心して、私は今晩、ここを離れることを決めていた。何故だか分かっていた、もう未練がないのだ。


『オセロ様は賢いでしょ?私が教え込んだのですよ』


「やっぱりお前の仕業か!あまりに賢くて、逆に不安になったぞ!!」


「私もですわ!どうやったらあんなに賢くなるのかと思っていたら、デスの仕業でしたのね!」


他愛のない会話だった。それが無性に楽しかった。でも、そろそろタイムリミットが近くなってきた。私がここに居るのは日が差す前までだと、漠然と分かっていた。


『お兄様、お義姉様、そろそろお別れですわ。』


その言葉に、二人の目から涙が流れた。だけど、止めることはしない。止めても私が私でなくなることを知っているからだ。


「デス、また、いつか会おう。」


『そうですわね、出来ればお二人の子供に生まれたいですわ!』


冗談めかしてそんなことを書いた。その言葉に二人は笑ってくれた。


『さようなら、お兄様、お義姉様。最後にオセロ様に会いに行きますわ。』


そう言って図書室を出た。二人の顔を最後に見たが、幸せそうだった。一番の未練はここで無くなった。最期は、未練になりそうな気持を絶ちにいかないとなのだ。


ふわり、ふわりと飛んでいけば、いつも、オセロ様が眠っている部屋に着いた。そのまま中に入って、ベッドで眠るオセロ様を見つけた。浮きながらその寝顔を見れば、目元が赤く腫れてしまっていた。可哀想に。そう思って触れないはずのその頬を触れたら、何故か触れた。


すると、オセロ様の紫の瞳がゆっくりと開かれた。


「デー?」


寝起きのかすれ声でオセロ様は私の名を呼んだ。それが可愛くて、『おはようございます、ちょっと早いですけれどもね』と言った。


「デー!!」


一気に意識が覚醒したのか、がばっと起き上がったオセロ様は私の手を小さな手で握った。


『オセロ様、お別れを言いに来ました。』


察してはいたのだろう。オセロ様はぎゅっと私の手に力を籠める。多分、私の手は冷たいのだろう。オセロ様の熱を奪っているように感じた。


「行かないで。まだ一いっぱい教えて欲しい、いっぱい話をしたい。置いて行かないで。」


『オセロ様に意図的に教えなかったことがあるのです。』


そう言いながら図書室から拝借した本を見せた。幽霊についてだった。白んできた空のおかげでタイトルだけは読めそうになっていた。


『簡単に言いますと、これ以上この世にとどまりますと、私は『悪霊』になってしまいます。そうならない為にもそろそろ逝かねばなりません。』


そう言って本を手渡した。オセロ様はその本を受け取った。そして『詳しくはこれを読んでください』と伝えた。


『教えて欲しいことはお兄様に聞いてください。私の知識はお兄様からいただいたものです。』


「わかった。」


不服そうではあるが、オセロ様はそう言った。本を枕元に置いて、オセロ様は覚悟を決めたように真っ直ぐ私を見つめてきます。子供ながら凄い眼力!!


「デー、大好きだよ。」


触れるようになった手をしっかりと握りながら放たれた言葉に、思わずドキッとしました。この子は二歳、この子は二歳と頭に中で呟き続けないと本気で堕ちそうでした。


『ありがとうございます、オセロ様。私もオセロ様が好きですわ!』


「うん、だからもっと色んなことを学んで、いっぱい知識を付けて、デーが生まれ変わっても必ず見つけるから。だから、またね。」


そう言いながら私の手の甲に口づけを落したオセロ様。流石王子です!!とても綺麗ですが、あと15年後ぐらいにその言葉を頂きたいです!!


『ふふふ、それは楽しそうですね!では、またお会いしましょう、オセロ様。』


「デー、『僕のデー』。絶対見つけるから、待っているからね。」


その言葉に笑いかけた。同時に窓から光が差し込んでくる。どうやら私は未練もどきを見事に断ち切れたらしい。太陽の光に包まれながら、私は成仏したようだった。



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