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死神と小説家  作者: おとなり かな
5/22

4話 僕らの生態系

○中華街入り口○


バスを降りてから、ハイテンションな声が響く。


「おおおおおー。凄い。

 ほんとに中華料理店ばっかり。

 私、実際来るのは初めてなんです!」


「なんだ、初めてなのか?

 バスのこととか知ってるから

 詳しいのかと思ったら。」


「バスは前に一回、

 友達と来た時に乗ったことがあって。

 でも、その時は中華街にまで行ける時間は

 なかったので、中華街初上陸です。」


 バスを降りた玲はいつもよりテンションが高い。


「さて、まずはどうする?

 食べ歩きの露店が多いようだが。」


「うーん。食べ歩きも素敵ですが、

 なんか落ち着かないので、

 座って食べれるお店にしませんか?」


「そうだな。」


 少し中華街を散策して店に入る。

 北斗は麻婆豆腐の定食。

 玲は油淋鶏の定食と春巻きだ。


「そう言えば、死神って基本的に

 人には見えないんですよね?

 今は北斗さん私も含め周りにも思いっきり

 見えてますけど。」


 北斗には、

 周りの女性達からの多くの視線が集められている。

 一緒にいる玲としては正直、視線が痛い。


「基本は見えないようにしてる。

 今はお前と一緒に行動する為に

 見えるようにしてるだけ。

 ひとりで会話してたら変だろ?」


「それは不審者ですね。」


 捕まりかねない。


「他にも普通に見えるようにしてる奴らはいる。

 こっちで長く過ごしてる奴とかな。」


「こっちで生活してる死神もいるんですか?」


「そういう仕事についてる奴はな。

 期待させないように言っておくが、

 最初からその仕事には就けない。


 お前がこっち側で死神として生きるときは、

 少なくてもお前が生きてた頃の

 人間がいなくなってからだから。


 どんなに早くても百二十年はかかる。」


「百二十年………。」


 途方もなく長い。


「でも、死神ってそんなに長生きするんですか?」


「俺たちは神だから死ねない。

 何百年か後には人間やりたいって

 志願もできるけど。」


「成程。じゃあ、人間界に降りられるのは、

 人間の世界で働いてる死神だけなんですね……。」


 死神としては生きていても、

 人間としての人生は終わるのだ。

 この世界に別れを告げることは当然だろう。


「いや、最初の数年は誕生日の日だけ

 会いに行ける。」


「最初の数年?」


「死神は、ある程度の年齢まで行くと

 成長が急激に遅くなる。

 人間界の奴らから見たら、

 成長が止まってるように見えるから、

 不自然に映るんだ。」


「それは、確かに怪しいですね。」


 何十年も見た目が変わらなかったら不自然だ。


「で、そこまで来たら、親族には

 亡くなったって連絡が行く。

 ずっと音信不通にはできないからな。

 ちなみに、亡くなったことになる前までは、

 手紙は出せる。

 人間界の端末は当然だが天界じゃ使えない。」


「不便ですね。」


 玲が不服そうに言う。


「なんだかんだ言っても、俺たちは死者だ。

 それなのに、死神だけが、

 生きてる気分で世界を楽しめたら、

 他の魂たちに申し訳ないだろ。


 逆に今、人間界で働いてる死神は、

 人間としてふるまってるから

 天界には滅多に来れない。


 死んでるくせに、ちょっと手紙出せて、

 誕生日に会いに行ける。

 これだけで十分だろう。」


「そう、ですよね。

 生者でないなら、本来は会うことも、

 話すことも許されないんですよね。」


 それが当たり前。

 それが死者というものだ。


「そういうこと。

 まあ、親族に会えなくなってからも、

 誕生日だけは降りて良いから、

 生前に縁遠かった場所に行って

 楽しむってのもアリ。


 あとは、さっき言ったこっちで人間と一緒に

 仕事してる死神が生活しているエリアが

 世界中にある。


 こっちは普通の日でも行けるから、

 そこで情報交換したり遊んだりする

 っていうのもできる。

 まあ、頻繁にいけるものじゃないんだが。」


「色々あるんですね。」


「見えないところで共存してるんだよ。皆。

 あとは、そう。自分の家族を迎えに行くとき。

 これは俺たちの特権だ。」


「最期の時………。」


 玲の瞳が揺れる。


「そう。迎えに来られた側としては、

 早くに会えなくなった家族に、最期の瞬間になって

 会うことが出来る。本当の最期のチャンス。

 ある程度、成長した姿でにはなるけどな。

 そうやって自分を産み育ててくれた人を

 迎えに行って、また送り出すことが出来る。

 俺たちは、とても幸福な者だと思うよ。」


 確かにそれは死神だけが出来ること。

 ある意味で世界中で一番の幸せ者かもしれない。


「やっぱり。死神って凄いんですね。」


「まあね。誤解のないように言っておくが、

 死神の世界にも普通に生活を楽しむ場所は

 あるから。」


「そうなんですか?

 なんか、ちょっと楽しみになってきました。

 天界に行くの。」


 命日が楽しみなんて少し不謹慎かもしれない。


「その方が良い。

 向こうに行くことを怖がっているより

 ずっと気が楽だからな。

 さて、美味しく料理も頂いたし、

 そろそろ出るか。」


「じゃあ、もう少し、散策してから行きましょう。

 まだ時間ありますよね?」


「そうだな、行くか。」


 店の会計を済ませ、再び外へ繰り出す二人。

 途中で玲がパンダの着ぐるみを見つけた。


「パンダだー!」


 青木玲、十八歳。

 パンダの着ぐるみに大はしゃぎである。

 まるで幼稚園児のようだ。


「良かったら、お写真一枚いかがですか?」


 店前で着ぐるみと一緒に立っていたお兄さんが

 写真を撮ってくれるようだ。


「横浜中華街初上陸記念ですね!

 北斗さんも入りますよね?」


「俺もか?」


「はい!一緒に!」


 ハイテンションな玲に引っ張られて

 二人で写真を撮って貰った。


「楽しそうだな。」


「はい!もふもふでした。………でも……。」


「でも?」


「着ぐるみの目の所から肌色が見えました………。」


「やめろ……それ以上は言うな。」


 大人の事情である。

 スタッフさんも頑張っているのだ。


「あ。パンダグッズのお店!」


 店の窓からパンダのぬいぐるみが見える。


「すっかりパンダがお気に入りだな。入るか?」


「是非!」


 玲のパンダブームは終わらない。

 店の中には所狭しとパンダグッズが置かれている。

 そして玲のハイテンションはまだまだ加速する。


「いっぱいありますね!被り物もありますよ!

 北斗さんつけてみてください。」


「なんで俺が。」


「良いから、良いから。」


 玲が強引にパンダフードをかぶせる。

 そして彼女はシャッターチャンスを逃さない。

 かぶせた瞬間にスマフォのシャッターを切った。


「凄い、かわいい!」


「俺は良いから、ほら何か買うのか?」


「うーん。迷いますね。………あ、これにします。」


 玲が手に取ったのは

 小さなパンダのぬいぐるみマスコットだ。


「よし、じゃあ会計したら、そろそろ戻るか。

 十七時半には戻るんだろ?」


「はい!次は会場の方に戻って

 ライブグッズの受け取りです。」


「ライブグッズ?」


「ユウトのポスターとかCDとかパンフレットとか、

 その他諸々、素敵なものがたくさんあります!」


 玲のテンションはマックスである。

 彼女の愛は止まらない。


「ほんとに好きだなあ。でも今日は前日だろ?

 前の日なのにもう売ってるのか?」


「はい。混雑が予想されるので、

 前の日から物販がオープンしてるんです。

 と言っても私の場合は先行プレミアチケットだった

 ので、予め欲しいものを注文してあって、

 それを受け取りに行くだけなんですが。」


「じゃあ、俺たちは長時間並ぶ必要はないんだな?」


「はい。そこは大丈夫です。」


「それは何より。」


 北斗は、ほっと胸を撫で下ろす。

 これから長時間並んでグッズを手に入れると

 言い出したらおいて帰るところだった。

 しかし実際のところは、悪霊たちが狙ってるため、

 おいて帰ることはできないのだが。


 二人は会計を済ませて再びバスに乗り込む。




○ライブ会場前 物販エリア○


 物販エリアに着くとたくさんの人で

 ごった返していた。

 この物販はチケットに当選しなかった人も

 立ち入ることが出来るため、

 たくさんの人が詰めかけている。


「人がゴミのようだ。」


 北斗がげんなりと呟いた。


「まあ、仕方ないですよ。

 黒崎ユウトは国民的アイドルですからねっ。」


 玲は嬉しそうだ。


「国民的アイドルねぇ……。」


「北斗さんにはやっぱりユウトの魅力を

 しっかりと………」


「いや、いいから。それはいいから。

 もう、この人の数とお前のテンションで

 察してるから十分だから。」


 再び布教モードに入った玲をすかさず止める。

 このスイッチを入れてはいけないような気がした。


「なんか怯えられてる気がする。」


 玲が北斗をジト目で見る。


「いやいや、そんな事はない。

 ほら、俺たちはどこに並ぶんだ?」


 北斗は少したじろぎつつ、

 話題を切り替えるために先を促す。


「こっちです。時間も割り当てられているので、

 待たずにもらえます。」


「それは良いことだ。」


 ほどなくして順番が回ってきた。

 グッズの入った大きなショッパーを受け取る。

 結構な重さだ。

 勿論ショッパーもライブの特別デザインである。


「お前、これ買いすぎじゃないのか?」


 グッズが大量に入ったショッパーを見て、

 北斗が驚愕していた。


「買いすぎじゃないです。

 袋にちゃんと余裕があるでしょ?

 これでも抑えた方なんですから。

 推しへの愛に限りなどありません。

 愛は無限です!」


 少し周りを見ると、玲と同じ特大サイズの

 ショッパーを二つ持っている人もいる。


「そうですか。」

「そうです。」


 自信満々に答える玲であった。


 こうして二人は来た時よりも

 荷物を増やしてホテルに戻る。

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