表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神と小説家  作者: おとなり かな
4/22

3話 憧れ

○横浜行きの電車内にて○


 すっきりと晴れた天候の中、電車に乗り込む。

 外は暖かいのに、少し強めに設定された

 冷房のせいで少し寒く感じる。


「上着持ってくればよかったかな?」


 結構な寒さに思わず言葉が漏れた。


「冷房きいてるからな。ほら、これ着てな。」


 北斗が着ていた上着を手渡す。


「あ、ありがとう、ございます。

 ……服着替えたんですね」


「まあ、あの服じゃ結構目立つし、

  軽装にしてみた。」


 北斗は先程の燕尾服から

 Tシャツとロングカーディガンに着替えている。

 玲は、少し躊躇いつつ上着を受け取って袖を通す。

 やはり大きくて袖が余った。


(結構大きいな。北斗さんの上着。

 背も高いし当たり前か。)


 上着に残るかすかな北斗の体温に

 気恥ずかしくなって、余った袖の部分を握った。


(あれ?よくよく考えたら今って

 デートみたいなものなのかな?

 って、何考えてるの私ったら、

 そんなわけないじゃん!

 ただ危ないからついて来てくれてるだけだもん。

 全然そんなことないから!絶対ないからっ!

 北斗さんは女の敵、女の敵っ!)


 と思いつつも身だしなみが気になって

 鏡を取り出す玲。乙女である。


「え?」


 鏡には電車の外側から窓に張り付く悪霊が

 映っていた。悪霊は玲を見つめている。

  彼女は自覚した。

 いつも自分はこんな世界に怯えながら

 生きていたと思い出した。


 少し周りを見てみれば、少し離れてはいるが

 車内にも数匹いる。

 先程まで平気だったのに

 急に恐怖が押し寄せてくる。

 背筋が凍る。呼吸が浅くなる。

 心臓が煩いくらいに早鐘を打っている。

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い助けて怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ来ないで怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い近寄らないで怖い怖い怖い助けて助けて嫌だ来ないで嫌だ怖い怖い気持ち悪い怖い怖い怖い来ないで助けて嫌い嫌い来ないで怖い怖い怖い助けて怖い怖い。


 終わりのない恐怖が玲を襲う。

 耐え難くて自分で自分を抱きしめた。


 すっと手が伸びてきて誰かが肩に触れる。


「っ。」


 声が出なかった。


「俺だ。しっかりしろ。」


 玲の恐怖を終わらせたのは北斗だった。


「ほっ……くと……さん。」


「そうだ。」


 宥めるような、納得させるような声に安心した。


「今は俺がいるし、

 その服には魔除け効果もあるから、

 あいつらはお前に手を出せない。安心して良い。

 電車に乗るとき、ある程度は払ったが、

 窓の外にいる奴は電車が走ってる時に

 くっついてきたから払えなかったんだ。


 一応見えないようにはしてたんだが、

 鏡は嘘をつかないからな。

 それに映り込んで一回自覚したら

 見えるようになる。

 怖い思いさせて悪いな。

 俺がいながら、申し訳なかった。」


「い、いえ、だって北斗さんはちゃんと

 私が襲われないようにしてくれてて、

 今までずっと見えてなかったから油断してて、

 いきなり見えてびっくりして、それで………。」


 急に話したせいで言葉がまとまらない。

 歯がゆくてもどかしい。


「良いよ、無理に話さなくて。

 目的地まではまだ少しあるから、少し眠ってろ。

 向こう着いてから楽しめないぞ。

 ほらパネルにお前の大好きな黒崎ユウトが映ってるぞ。

 ユウト様に会いに行くんだろ?」


 車内のパネルには新しいシングルのCMが流れている。

 ユウトの姿を見たら少しだけ元気になった。


「………そうですね。少し休みます。」


「よし、いい子だ。」


「子供みたい。」


 玲の笑顔に少し疲れが見える。


「俺からしたらまだまだ子供。ほら、お休み。」


 よほど疲れていたのか、すっと睡魔が訪れて

 眠りに落ちた。


 夢を見た。小さいころの夢。

 体の弱い私は病院で過ごすことが多くて、

 いつも白い病室から見える窓の景色を眺めるだけの

 日々だった。


 そんなとき、テレビCMを通して

 黒崎ユウトに出会った。

 その頃はまだデビューしたばかりだったけど、

 彼は輝いてた。


 とても素敵だった。


 それから家族に頼んでCDを買ってもらって。

 毎日聴いてた。

 彼の歌を聴いてるときは、悪霊にも出会わないし、

 怖い夢も見ない。

 素敵な夢を見られるようになった。

 彼に出会ってからは、

 とても落ち着いて過ごせた気がする。

 だから、彼は私にとって神様みたいな人。

 やっと会える。ずっと会いたかった彼に。

 私を助けてくれたヒーローに。



 玲が目を覚ますと降りる駅の一つ手前の駅だった。


「おはよう。健やかに眠れたようで何より。」


「おはようございます。」


 とても穏やかに眠れていた気がする。

 姿勢を戻して座りなおすと

 横浜到着のアナウンスが流れた。


「よし、行くか。」


「はい。」


「足元、気を付けて。」


「ありがとう、ございます。」


 電車を降りる玲の手を引いて北斗が助ける。


(ドキドキなんてしてない、ちょっと、

 ほんのちょっと、びっくりしただけだから!!)


 玲は自分にそう言い聞かせつつ、

 駅の改札を出てホテルに向かう。

 まずはこのスーツケースをどうにかしたい。


「晴れて良かった。」


「はい。暖かくて何よりです。」


「そうだな。電車の中より外の方が暖かい。」


 すっきりと晴れた空の下を人並みに進む。


「あ。上着ありがとうございます。

 電車の中では助かりました。」


 駅を出たところで上着を借りていたことを思い出した。


「嗚呼、それ着てても良いけど。サイズ的に微妙だな。

 せっかくおしゃれもしてるんだし。」


「っ。おしゃれ……。」


 またしても玲の顔が赤く染まる。

 慣れてないだけ、ちょっと、びっくりしただけ

 だと、またしても自分に言い聞かせている玲に、

 北斗の言葉が続く。


「中々似合ってると思うぜ?それ。

 流石は今日のライブの為に二時間迷って

 決めただけのことはある。

 前日の分まで気合入ってるな。」


「なっ、なんでそれ知って………。」


 確かに気合は入っている。

 憧れのユウトのライブに行くのに服装を悩むのは

 乙女のたしなみ、女のたしなみ、

 ファンのたしなみ。

 だが服を決めたのは北斗に会う前のこと。

 彼が知っているはずはない。

 ……と、そこまで思って気が付いた。


「あっ!」


「そりゃ、神様だからねっ。俺は。」


 身辺調査の時に見ていたに違いない。


「こんのぉ、ストーカー!」


 玲は今脱いだ借り物の上着で北斗を攻撃。

 北斗はさらりとかわして上着ごと玲を引っ張ると

 自分の帽子を玲にかぶせる。


「上着の代わりに今度は帽子な。

 さっきも言ったが、俺がつけてるものは

 魔除けになるから持ってて損はない。

 それなら今日の服にも似合うと思うし。

 悪くないんじゃない?」


「……えっと。」


 急なことに少し驚きつつ、鏡で確認しようとして、

 やめた。電車の中でのことが脳裏をよぎる。


「嗚呼、そうだ。

 身だしなみが気になるお嬢さんには、これな。」


 北斗が鏡を差し出した。


「でも。」


「大丈夫。これ特別なやつ。

 あいつらの姿が見えないように加工してある

 安心設計。試しに覗いてみますか?お嬢様?」


「で、では。お言葉に甘えて………。」


 少し躊躇いながらも鏡を受け取り、

 そっと覗き込む。

 自分の姿以外は何も映っていない。

 鏡の中の玲の顔がほっとして緩む。

 北斗の帽子はグレーのキャップだ。

 シンプルなホワイトワンピースに

 違和感なくなじんでいる。


「中々いいかも。」


「それは何より。」


 妙に紳士的な北斗が面白くて思わず玲が笑う。



○宿泊先ホテルにて○


「さて、着いたな。」


「荷物、ありがとうございます。」


 駅から少し歩くと宿泊先に到着した。

 ライブ会場が駅の徒歩圏内にあり、

 玲の予約したホテルはその会場に併設された

 場所だ。


「どういたしましてっと。」


「すみません、410号室のシングルを予約した

 青木です。」


 フロントに声をかけ、玲がカードキーを

 受け取ると、今度は北斗が前に出る。


(何かあるのかな?)


「すみません。本日一泊できる部屋が欲しいのです

 が、空いてる部屋はありますか?」


 どうやら北斗もここに泊まるらしい。


「えっ、北斗さんもここに泊まるんですか?」


(聞いてないんですけどっ!)


 男性耐性ゼロの玲は

 慌てふためかずにはいられない。


「同じ部屋には泊まらない。

 だけど流石に野宿する気もないからな。

 同じ建物にいるくらい許せ。」


「うっ……そうですね。」


 てっきり死神は寝なくても平気みたいな

 ご都合設定で一晩中どこかを散歩して

 過ごしたりすると思っていた。

 死神も人間とあまり変わらないのかもしれない。


 それに、ここまでしっかり助けてもらっている。

 近くにいるなら安心こそすれど、

 怯える必要なんてない。

 そう、いくら女の敵の北斗でも部屋が違うなら、

 何も気にすることなんてないはずだ。

 と、そう思っていないと、どうしようもない。

 が、まず問題なのはそこではなかった。


「申し訳ありません、お客様。

 本日は一般客室が満室でございまして、

 現在空いているのは

 最上階のスイートルームだけなのですが、

 如何でしょうか?」


 フロントの回答は玲の予想通りだった。

 今日のような大きなイベントが開催される際は、

 遠方から参加する人達も多いので

 会場近隣のホテルはすぐに埋まってしまう。

 まして会場のすぐ隣に併設されたホテルなら、

 なおさら競争率は高いのだ。

 玲はこの現象をイベントホテル戦争と呼んでいる。


 フロントからの答えに玲は少しホッとした。

 いくら言い聞かせても、やはり同じ建物に

 泊まるのは何となく緊張するのだ。


「じゃあ、その部屋で。」


 北斗の答えは玲を震撼させるものだった。


「え?」


 驚く玲を横目に話は進む。


「畏まりました。ご用意致します。

 お支払いは如何致しますか?」


「これで一括で。」


 北斗が財布から出したのは重厚感のある

 黒いカード。

 そう、ブラックカードだ。

 いつか一度は使ってみたいと誰もが思う

 一枚である。


「畏まりました。ご一括で承ります。」


 さらっと会計を済ませる北斗。

 こうして玲の驚き冷めやらぬまま、

 二人はホテルを後にするのだった。



 ホテルを出てからも、

 玲はぽかんとしながら北斗を見つめていた。


「どうした?また、なんか見えるのか?」


「お金持ちの死神が見えます。」


「さっきのあれか。俺らは結構高給取りなの。

 こっちのレートが結構高いってのもあるけどさ。

 なんたって新しく人が生まれるための

 仕事だからな。人命は尊いってことよ。」


「給料あるんですか?

 ていうかお金の概念あるんですか!?」


「勿論あるさ。ただ働きなわけじゃない。」


「人命を生み出す神秘がお金で動いてるんですか?

 ボランティアみたいなものじゃないんですか!?」


 思わず玲の声が上擦る。


「なんだ?その理想裏切られたみたいな叫びは。

 確かに死神は亡くなった人間だけど、上に行けば、

 この世界の人間と同じように生活してる。

 だから言ったろ?

 死神は社会を形成してるって。

 上にあるか下にあるかの違いなだけで、

 あとはそんなに変わらない。分かった?」


「はい、まあ………なんとなく。」


 驚きつつも、

 向こうに行ってもある程度こちらと変わらない

 暮らしが出来ると思うと少し安心した。


「じゃあ、上の世界にも、こっちと同じ

 お金があるってことですか?」


「いや、厳密にいうと同じじゃない。

 上の世界のお金はポイント制だ。」


「おお。近代的ですね。」


「まあ、そうだな。

 で、こっちに降りてくるときに

 降りる場所に適した通貨に変換して持ってくる。

 この国だと一ポイントが百円だな。」


「百倍………。」


 なんてチート設定だろうか。


「勿論こっちで買ったものを向こうで

 使うこともできる。

 だからお前の荷物も運べる。

 降りる場所の金銭のレートによっては

 結構良いものを安く買えたりする。

 勉強になったか?」


「死神貴族。」


「まあね。」


 とんだ死神の経済事情だ。

 金銭感覚が狂いそうである。


「さて、次はどうするんだ?」


 時計を確認すると十四時を過ぎたあたりだった。


「うーん。お腹すきました。ご飯食べませんか?」


「お、いいねぇ。何食べる?」


「横浜と言ったら、中華街でしょ。絶対。」


「中華料理か。オーケーそれで良いよ。

 ルートは任せていいのか?」


「はい!せっかくだからバスに乗りましょう。

 小さい循環型のバスがあって、

 それが凄くかわいいんです。」


「了解。」


 彼女は、あの赤くて小さなバスに乗るのを

 楽しみにしていたのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ