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死神と小説家  作者: おとなり かな
3/22

2話 残された時間で

 死神との契約を終えた玲は学生寮へと戻ってきた。

 扉を開けた一階は玄関ホールになっていて、

 正面に大きな階段が真っすぐ伸びている。

 玲は階段を上って自室の扉を開いた。

 開けたままの窓から心地よい風が入る。


「ここか。」


 なぜか死神北斗も一緒である。


「なんで北斗さんが一緒に来てるんですか?」


「まずはお前の荷造りとか手伝わないと

 いけないだろ?七日しかないんだから

 思い残すことがないようにしないとな。」


 さも当然だと言わんばかりだ。


「まあ、確かにそうですけど。

 女子寮に男性はちょっと………。」


 倫理的な問題である。


「大丈夫だ。俺の姿は必要な時以外、

 周りには見えないようにしてる。

 もし俺に見られちゃまずいものがあるなら、

 それだけ先にまとめてくるか?エロいのとか。」


「なっ、そんな物ありません!

 女の子に向かって失礼です。

 貴方それでも神様ですか?」


 ごもっともだ。


「おっと、失礼。交際経験のないお子ちゃまには、

 まだ早い話だったな。」


「なっ……そんなことまで……っ。」


(実は結構気にしてるのにっ!)


 玲の顔が真っ赤に染まる。


「神だからな。」


「………それで、全部済むと思ってませんか?」


「まあ、大抵は。」


 悪びれる素振りもない。


「最低ですね。」


「仕事なんでね、好きに言ってくれ。」


「そうですか………。」


 納得した訳ではないが、

 これ以上は話しても無駄だろう。

 諦めた方が良さそうだ。


「まあ、いいです。荷物は全部まとめました。

 そこは問題ないです。」


「そうか。じゃあちょっとだけ、お邪魔する。」


「ど、どうぞ。」


 他人に見えないとはいえ、

 少しだけ後ろめたい気持ちが顔を出した。


「にしても、人いないんだな。」


 閑散とした寮内に声が響く。


「たいていの人は、卒業式と同時に

 引っ越しも済ませてしまうことが多いので。」


 一昨日にはたくさん友達を見送った。

 春はそういう季節だけれど

 自分だけが取り残されているようで少し寂しい。


「成程。さて、じゃあまずは

 今後のスケジュールからだな。

 まず、この荷物たちは

 いつまで置いておけるんだ?」


「卒業生の退寮の期限は四月七日です。」


「結構余裕あるんだな。あとは大きな家具だけか。」


「はい。」


「それで、今後の予定は?」


「とりあえず、明日はライブがあるので

 今日はライブ会場近くのホテルに一泊予定です。

 翌日ライブから戻った後に、

 一日こっちでゆっくりして、

 荷物をまとめたら、家族が寮まで来てくれて

 荷物を運ぶ予定になってます。」


「成程。ホテルに出発する前に

 スーツケースに荷物まとめて、

 ふらっと外に行ったら俺に出会ったって訳か。」


「その通りです。」


「で、何のライブ行くんだよ?」


「よくぞ聞いてくださいました!

 黒崎ユウトのライブが当たったので

 それに参加します!」


 大事なチケットを高々とかかげ、

 意気揚々と見せる玲。

 いきなりのハイテンションである。


「……へえ……。」


 そんな彼女に北斗が深いため息を漏らす。


「なんですか、その返事は!

 ユウトの魅力に気づいてないとか

 全然まだまだですね!

 あ、でも死神だから、

 人間界のことはあんまり知らないですか?

 じゃあ私がこれから、じっくりと……。」


 勢いあまって玲が一歩前に近づく。


「いや、いいから。全部聞いてたら

 日が暮れそうだから遠慮しておく。」


 さらにテンションが上がった玲を、

 北斗は素早く止めに入る。


「そんなに遠慮しなくてもいいのに。」


 先ほどまでのテンションが嘘のように戻る。

 女の機嫌は空模様より変わりやすい。


「お前の元気なハイテンションで、

 どんだけ素敵なやつか分かったから。

 もう十分だよ。」


「あ、そうですか?それなら良かったです!」


 笑顔満点の玲である。

 食い止めることには成功した。


「さて、とりあえず。

 今日は今後のことを軽くまとめたら、

 ホテルに行って荷物を先に預けよう。

 あとはチェックインまで好きに遊んで、

 ホテルに戻ればいい。」


「ホテルまで来るんですか?」


 まさか同じ部屋に泊まる気なのだろうか。


「一緒に泊まったりしないから安心しろ。

 時間つぶしに付き合って、

 ホテルまで送っていくだけだ。

 まあ、お前がお望みなら襲っても良いけど?」


 北斗が一歩距離を詰める。


「っ………結構ですっ……女の敵ですっ。

 悪霊退散っ。」


 またしても叫ぶ玲の顔は真っ赤である。


「俺は神だってば。」


「絶対嘘。こんな聖職者なんて認めませんっ!」


「まあ、何でも良いけど。

 俺がいないと苦労するのはお前だぞ?」


「苦労するって、北斗さんがいると

 何か良いことあるんですか?」


 先ほどのやり取りで、

 玲にとって北斗は女の敵に認定されている。

 全くメリットが浮かばないようだ。


「お前、昔から悪霊に襲われたりすること

 あっただろ?

 人が多い所ではそういうのも多いから

 俺が追い払ってやる。

 必要ないなら俺は帰るが、どうする?」


「あ、確かに、そうです。

 高校に入って寮生活始めてからは

 全然そんなことなかったから忘れてました。」


 そう、そうだった。

 そこかしこに、いつも悪霊たちがいて。

 自分のことをつけ狙う視線が常にあって。

 怖くてろくに眠れなかったりする日もあった。

 確かにそんな毎日を送っていた。


「でも、なんで急に大丈夫になったんだろう……。」


「あいつらにも天敵がいる。もちろん死神もだが、

 他にも、霊能者って言われる人が守ったりしてると

 その場所には全く寄り付かない。

 この学校はちゃんと霊的なものにも精通した人間が

 守ってるのかもな。」


「ここに入るように勧めてくれたのは、

 おばあちゃんなんです。

 おばあちゃんも見える人だったから。

 いつも怖がってた私を宥めてくれました。

 高校を決めるときも、

 この学校は安全なところだからって。」


 祖母は、いつも優しく抱きしめてくれた。

 いつも隣で慰めてくれた。


「守ってもらったんだなあ、おばあちゃんに。」


 そんな姿を懐かしく思い出していたら、

 会いたくなってしまう。


「そうだな。大切にしてもらった命なんだから、

 途中で台無しにできないだろ。

 俺のことは気にしなくていいから、

 お前は楽しんで遊んでな。」


「はい、そうします。」


 玲は家族を思い出して、

 また少し泣きそうになりながら答えた。


「さて。じゃあここからが俺の話。まず注意点。

 さっきの話にもつながるが、

 お前はこれから命日を迎えるまでの間、

 今まで以上にあっち側の奴らに狙われやすくなる。


 寿命が近くなればなるほどに

 目に宿る力が大きくなるからだ。」


「そんなに凄いんですか?この目。」


「死者を生き返らせることが出来る代物だからな。

 第二の人生を歩みたい奴らは

 こぞって狙いに来る。」


「生き返らせるって、

 それ、凄い大変なものじゃないですか!」


「やっと自分の価値が分かったみたいだな。

 そういう訳で俺が近くでお前を守る。

 都合の悪い時にはお前にも見えないように

 しておくし、ずっと、すぐ隣で張り付いている

 わけじゃない。それでいいか?」


「分かりました。宜しくお願いします。」


「へえ、物分かりが良いんだな。

 文句の一言くらいあるかと思ったよ。」


「守ってもらった命だから。

 まだ実感が湧かないですけど、

 ほんとに死神になって私にやることがあるのなら、

 しっかり人間全うできるように、

 ちゃっかり守ってもらいます。」


 大切な人達がいつも守ってくれた大事な体。

 最期まで大事にしよう。


 玲の心に覚悟の火が灯り始めた。


「そうか。調子のいい奴。」


「北斗さんに言われたくありません。」


「そうかよ。………元気になって良かったな……。」


 北斗が小さくつぶやいた。


「え?」


 その声は玲に届かない。

 不思議そうに振り向いた玲に、何食わぬ顔をして

 話を続ける。


「……さて、次にライブ翌日以降の日程について

 だが、まずこの世界にいる残りの時間も考えて

 荷物を運ぶ先は静養先じゃなくて【天界】

 嗚呼、俺たちの世界のことな。

 にした方が良いと思うが、その辺りはどうだ?」


「それでも良いですけど。

 家族にはなんて話しましょう?」


「少し旅をしたくなったって言えばいい。

 俺もそうやって家族と別れたから。

 天界では職種によって色んな所に行ったりするのも

 あって、あながち間違っちゃいないし。」


「色々あるんですか?」


「あるさ。魂お迎えに行くだけが仕事じゃないの。

 ちゃんと社会が形成されてるんだから。」


 死神の世界も奥が深いようだ。


「で、お前、行きたいところとかないのか?

 ただ過ごしてると、あっという間だけど、

 明日から数えて残り六日間で予定入れようと

 思ったら、結構色んなことが出来るはずだ。」


「そうですね……お墓参りには行きたいです。」


「みんなの恒例行事だな。

 いいよ、行こう。他に思い当たるものは?」


「うーん、それがそんなに思い浮かばなくて。

 その時次第で考えようかなと。」


「行き当たりばったりね。良いんじゃない?

 嗚呼、あと一つだけ。


 二日間は体を天界になじませるために、

 天界に行かないといけない。

 見学も含めた感じで観光と考えてくれればいい。

 こっちでは手に入らないものとかもあるからな。

 家族にプレゼントしたりするやつもいたりする。」


「そうなんですか?

 じゃあ、そちらに行ってから

 実家に行きたいです。」


 家族に会う前に、自分が住む場所を

 きちんと知っておきたかった。


「予定変更か。ちゃんと実家に連絡しとけよ。」


「はい。」


「じゃ、取り敢えずは行くか。横浜に。」


「はい、出発ですね!」

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