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ブラインドワールド  作者: だかずお
9/27

『それぞれの決意』



車の中は緊張感に包まれている。

この状況下での沈黙、当たり前のことなのだが、お世辞にも心地良い気分はしなかった。

どんどん自ら死に向かっている感覚。

車は、こちらの世界では絶対に行ってはならないと言われる超危険地帯、黒楽町と呼ばれる場所に向かっている。

それは、やはり正直な所、恐ろしくもあった。

ただ、光堂もマサも引き返す気は毛頭ない、諦めて後ろに戻ろうとして感じる虚無感、そこに居座り続ける事は、二人にはもう不可能な事を知っていた。

決断した後、もう戻る場所はなかった。

今はただ、自分達の望む所に行くために行動に移すしかない、もう来た道を戻る選択肢は二人にはない事を、しっかりとお互いが理解していた。

もう、戻れない 進むしかない 覚悟を決める


「静かな車内ウキ」その時ポツリとペレーがつぶやく、長らくの沈黙が破られた。


「死んだらどうなるんだろうか?ウキ」


「今のシュチュエーションじゃ、洒落にならない質問だな」多村は笑った


「分からない、何にもないんじゃないか?それで終わり それまでだ」光堂は答える


「俺は、魂ってものはあると思うな」多村が言った。


死んだ後にどうなるか?

全ての生き物が避けては通れない、必ず直面する事のはずなのに誰も知らず、考えた事すらなかったのは面白くも感じた。


「考えても分からないし、恐れからか、知らず知らず考える事すら避けてるのかも知れないな、でも死を怖いと感じるのは、本当は死について、何も知らないから恐いのかも知れないな」多村がつぶやく

そんな会話が流れる中、車は徐々に黒楽町に近づいていた。


「不思議だけど、少しどんな所かワクワクするのもあるな」と、マサ


「その気持ち分からなくもないな、とてつもなくビビってるけど」光堂も黒楽町という場所が一体どんな所なのか、怖れと同時に、好奇心もあった。


その時、車が突然止まる

「どうしたペレー?」


「見てウキッ」


車が止まった、丘の下を見下ろすと、そこにはスラム街の様な町が見えていた。

「あれが黒楽町?」


光堂はすぐさま

「二人ともありがとう、ここでお別れだ」と言い、二人と握手を交わし車をすぐに降りた。

別れの挨拶をサッと済ませたのは、二人を少しでもこの場所に留まらせて危険な目に合わせない様にするための配慮からだった。

マサもそれに気付き車からすぐ降りる。

二人が車から降りた後、車の中で、多村は、隣に座る友に言った。

「ペレー元気でな、俺も行くよ、俺の家族によろしく頼むな」と。

ペレーはとまどった 自分は?

即座に一緒に行くとは言えなかった、それは当たり前の事でもある、その一瞬の間に、ペレーの中で色んな感情が混ざりあい奇妙な色、形をして浮上してきていた。

今この場所にいる恐怖感、友を見捨てる罪悪感、自身の決断力の鈍さへの嫌悪感。

多村の様にそこまでの覚悟を持てない自分への悔しさ、情けなさのような感情、これからもずっと一緒だと思っていた仲間たちとの永遠の別れ

奇妙な感情のもつれと、絡み合いがペレーをとてつもなく嫌な気分にさせていた。

そして、ペレーはどうして良いか分からず下を向く。

多村はそんなペレーを見て、肩を叩き言った。

「自分を責めるなペレー、俺のぶんまで、しっかり生きろ」

多村は車から降り、気づかれないように二人の後を追った。


光堂とマサは、自分達もこの町の住人の様に、ばれないように振る舞いながら歩いてみたが、それは無理な話だった。

そこらにいる住人の服装は、ボロボロの布切れの様なものをまとっているのに対し、小綺麗な格好をしている二人は、見るからに他所者で目立っている、すぐにコジキの様な人達が光堂達に近寄り始める。


「恵んでくだせぇ」


「子供が食べなきゃ、死んでしまうんです、どうかお金を」

二人は迷ったが無視して先に進んだ。


「どうやってこっちの世界の光堂を探す?」


「手掛かりは前に会ったゴリラの言ってた、飲む場所を探してみよう」

その時、目の前に驚くべき光景を二人は目にした。

一人の老人が、まだ10歳にもみたない子供達に殴られ蹴られ殺されそうになっているのだ。

光堂達は無視出来ず老人を、すぐさま助けに向かう。

「おい、やめろ」

子供達は二人を睨みつけ、その場を離れ去って行く。


「どうもありがとう あんた達 この町の住人じゃないね」


光堂はすかさず質問した

「この町で俺にそっくりな男、見たことないか?」


「いいや知らん」


「そうかありがとう」


「光堂ここは人目につく、先を行こう」マサが小さい声でささやいた


「まあ待て、君たちこれを」

そのじいさんは二人に、ボロボロの自分が着てた上着を二枚脱いで渡した。


「それじゃ、すぐ狙われる せめてこれを着ろ」


「助かったよ、じいさん」


「良いんじゃ、わしも救われた」

二人はすぐにそれを着ては、再び歩き始めた。

その時、光堂の肩を誰かが叩く、振り返るとそこには多村が立っていたのだ。

二人は唖然としている

「お前何やってるんだ?どうしてここにいるんだ?」


「俺も行く事にした」


二人は返す言葉が浮かばなかった

「馬鹿野郎死ぬかも知れないんだぞ」光堂は怒りを爆発させる


「覚悟を決めたんだ、お前らを最後まで見送る」

正直、光堂は嬉しい気持ちもあった、だが自分の命を捨てて残った多村の判断が許せなかった。


「どうして残った」


気持ちを抑えられない光堂は多村に殴りかかる

多村は微動だにせず、光堂の目を見て言った


「逆の立場ならお前はどうした?」


光堂はなにも反論出来なかった、何故なら自分も多村と同じ事をするだろうと言う事が分かってしまったから。

「馬鹿野郎」とつぶやいて多村に背を向ける


「まっ仕方ない、多村の判断に感謝するよ、もうこうなったら何を言ってもきかない性格分かってるから、それに無事にみんなで生き残る選択肢だってあるはず、とにかく今はここは危険だ先を行こう」マサはまとめる様に言った。


その直後、光堂は後ろを振り返り、頭が真っ白になる。

なぜなら、二人の男が多村に銃口を突きつけ立っていたからだ

「余所者だな?」


多村は手をあげている


「残念だな、お前もう死んだぞ」


「頼む金なら渡す、だから助けてくれ」光堂は男達に向かって叫んだ。


「金はもちろんいただく、でも、何で助けなきゃならない」


「くそっ」光堂も マサも 多村もどうする事も出来ない

おじいさんは身を伏せてうつむいている

光堂は何とか出来ないか必死に辺りを見渡した


だが


何もなかった


頭によぎったのは


友の死


多村が叫ぶ

「光堂 マサ 時間を稼ぐ 走れ」


「馬鹿野郎、お前何言ってるんだ、そんなのできるはずがないだろう」二人は、このどうしようもない状況に力なくつぶやいた。


多村を見殺しに・・・


頭は真っ白


色んな後悔の念が頭をよぎる


俺のミスだ………


多村を帰しておけば……


…………




その時だった

「どけーーーー」

突然一台の車が突っ込んでくる

光堂とマサ 多村はその声をきいて、すぐさま、身を躱す

銃を持った男達は道端に、車を躱す為、倒れこむ

「乗れウキーっ」

興奮しきって顔を真っ赤にしたペレーが、ドアを開けた

「ペッ ぺれー!!!」

光堂と多村は、落とした銃をとろうとしてる男達を、はねのけ銃を奪って車に乗りこんだ。

車は、猛スピードで黒楽町の奥に向かい走り始めた


「もっ、もう後にはひけないウキ」


「ペレーお前ってやつは命の恩人だ」多村の足はガクガク震えていた。


「丘の上からあの様子が見えて、気づいたら今こうしてるウキっ」

光堂 マサは予想外の展開に困惑していた、まさか二人まで巻き込む事になるとは

一体どうする?

どうすればいいんだ?

二人まで巻き込んでしまった。

車は、もう二度と戻ることは出来ない死の場所にどんどん足を踏み入れて行く。

奥へ奥へ、吸い込まれるようにして進んで行く。

それはまるで、黒楽町と呼ばれる場所が光堂達を手招きして呼んでいるかのようだった。



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