『森林での会話』
次の日の朝
光堂は誰よりもはやく目が覚める。
この時間には、外の不気味な雄叫びは聞こえない。
窓のない部屋は長く居るとあまり落ち着かず、気付いたら表に向かっていた。
やはり日の光が恋しく感じるもんだ。
周りを見渡すと、みんなはまだ、ぐっすり眠っている。
何やら、ペレーが寝言を言っていたので、光堂は聞き耳をたてた。
「うちに帰りたいウキ」
その言葉を聞き、何とも言えない気持ちなった。
もとはと言えば、自分達の為にペレーも多村もここにいる、命をかけここに来てくれた。
すまない、ペレー。
二人をなんとか無事にもとの場所に帰らせよう、そう胸に本気で誓った。
光堂は外の空気を吸いに、一旦地上に出る。
長い階段をあがり、地上に出る瞬間はたまらない程の解放感に包まれた。
何だか、モヤモヤとしていた、今後の不安な気持ちが晴れる気がする。
地上に顔を出すと、眩しいくらいの光が差し込み、光に照らされ輝く森林の木々達が顔をだす、それは、うっすらと霧に包まれ、やはり、何とも言えない程の幻想的な風景。
自分達の世界の、自分が住んでる地域では、お目にかかれない風景だな、今のうち心にやきつけとこうと、景色をしっかり心に残す様に眺めていた。
何故だか、ここで見ている風景は地球でみる、それより一段と美しく感じるのだ。
それは自身に置かれた状況の心構えのせいか、はたまた本当に美しいのか、理由は分からなかったが。
すると後ろからマサが
「ほんとに凄いきれいな景色だね」
「ああ」
「こういうのを見てると、何処の世界にいようが関係ない気もするな」と光堂は笑った
「あはは、そうかもね、結局のところ自分次第なのかも」
二人は少し歩いてみた。すると、すぐ先に湖があるのを知った
「凄い水が綺麗だ 透きとおってるよ」
ほんとに今まで見たことのないくらいの透明度の水
「これ、水あるよね?」と言う程透き通っている
「ほんとにこの場所は凄いな、見たこともないような、信じられない事が沢山起こる」
二人は何だか嬉しくなった。
「もといた場所に帰ったら、不自由に感じちゃったりしてね」
「ああ、日常生活に飽きて、今度はこっちに戻りたいなんてな」
二人は何だか夢を見ている様なそんな気になっていた「もしかしたら今までの世界こそ、夢だったのかもな」光堂は自分でおかしな事を言ってるなと思い笑い出す。
いつまでもいつまでも、ここに居座っていれるような、何とも平和で調和に満ちた感覚を味わっていた。
暫くの静寂の後
「こんな景色、地球で見たことあるか?」
「ないよ」
湖から木やら光に包まれてるように見え、何とも美しい景色だった。
地球でも見れる景色である事は間違いないのだが、何故こんなにも美しく感じるのだろう。
やはり本当の理由は分からなかった。
すると「この先 黒楽町に何があるんだろう?」マサは光堂に向かって呟いた。
「さっぱり分からない、ただこの世界を味わった今、新しい疑問が生まれたのは確かだ」
「えっ?」
「俺たちのもといた世界は何なんだろう? 事実、今おれ達はこうしてこの世界を体験して、地球と同様にこの世界も存在してる」
「今まで俺は地球が全て、それだけだと思っていた。 でも、それは違った
「うん、こうして実際、今ぼくらは全然知らない世界にいるし、これが夢じゃないのも確かだ」
「今まで信じていた唯一の現実、それこそが幻だったことになる 俺たちは、ほんとは何処に帰ろうとしてるんだ」
光堂の声は少し勢い強くなる。
「もし俺たちが地球に帰ってこんな話をしたら、病院送りじゃないのか?」
「うん、間違いなく頭のおかしい人間だって思われるよ」
「今度は地球に帰ったら 自分達の居場所じゃないように感じてしまうんじゃないのか?」光堂は少し興奮していた。
「まっ、まあ落ち着いて」
人間は何も知らない、どこから来て、どこに向かうのか?死んだらどうなるのか?我々とは一体なんなのか?
知らないくせに、常識だけや目に見えるものだけが真実かのように語り、理解できないそれにぶつかると、お前はおかしいと否定する。
光堂は思った。人間は大人も、知識人も、頭の良いと言われてる科学者も、教授だろうが結局は何も知らない。
なぜ我々が生きてるのか?命とはなんなのか?何処に向かってるのか?
死んだらどうなるのか?
その知らないことを、気づいておらず、いかにも自分の理論や学んだ事、何処か外に居る知識人の言葉こそが正しいと言ってるのが怖い。
案外、なにも知らないはずの子供のほうが、大人達が忘れている大切な、何かを、分かっているような気すらする。
今や常識や、目に見えるものだけが、全てではないことを二人は知ってしまった。
今まで自分にとっての真実は真実でもなんでもなかったのだ。
人は自分が何も知らない事を知らない。
「今はとりあえず、やる事をやろう。ミサの妹を探し、二人を無事に帰すんでしょう」
光堂はハッと我にかえったようだった。
「そっ、そうだな」
「それに僕ら二人は、戻ってもホントを知ってるじゃないか」
「僕らは、お互いが嘘を言ってないのを知ってる、誰も信じなくても関係ないよ」
光堂はそれを聴き、嬉しくなり笑った。
「少し落ち着いたよ、そうだな今出来る事をやろう」
二人はあまりにも美しいその景色を暫く黙って眺めていた。
最初にあった一つの疑問、ここは何処なんだ?という疑問は姿形を変え始めていた、一体生きるとは何なんだ?
光堂は自分が生まれてからこのかた、思いも浮かばなかった疑問に直面していた
俺は一体?
人間
人間とは何なんだ?
予想もしなかった疑問であった
俺たちは一体?
何をして
何処に向かってる?
ただ、はっきりと言えることは
存在してる
と言うことだった。
そんなことを思った時
「おーい何してるウキか?」
ペレーの声が
光堂は何だか他の者がどう考えてるのか気になった
「ペレーお前は自分が何者か、考えた事はあるか?」
「何言ってるウキ 頭大丈夫ウキか?サル ウキよ」
「ああそうだった サルだったな」光堂とマサは笑った。
「みんなー、朝食食べて出発するわよ」下からミサが大きな声で呼んでいる。
皆は朝食を済ませ、さっそく車に乗り込む
「昨日車、隠さずにおいといて壊されてないか心配だったけど、大丈夫で良かったわ」
ミサが車を運転して、昨日話していた場所に向かい始める。
「昨日の町は、ここを右に向かって走ったんだけど、今日はここを左に行くの」
20分くらい車は、そこからまっすぐ走り
辺りは砂漠地帯の様で何もない
そこの場所一帯は、シーンと静けさすら漂っている。
「昨日の街とは随分違うな」と多村が言った。
走りつづけると、さっきまで果てしなく横に広がっていた大地が急に狭くなってきている
すると急に、人の姿が目につく様になってきた。
何やら拝んでる人やら、向こうの方角を見ている人もいる
ミサは車を止め
「着いたわ降りて」
何だここは?
さっきまで横に延々と広がっていた地形が嘘のように
今、目の前に広がる場所は、車二台通るのがやっとの狭い幅の大地になっている。
何より驚いたのは、その道の先が紫色のモヤのようなものに覆われて、全く見えないでいる事だった。
ここは通ったらまずい、四人は何故だか、直感でそう感じる
「ここが昨日言った場所よ、さすがに妹はここには来てないと思うんだけど、君たちにこの場所がある事を何となく見せてあげたくなって」
「まっ、まさかここは行かないウキよねっ」
「私は妹が見つからなかったら行くつもりよ。ただ、そしたら、あなた達も私についてくるか、自分達でこの黒楽町から無事に出るすべを見つけるしかないわね」
「さっ、今日も探しましょう」
光堂は目の前の紫色の道を見つめた
なんだか不気味だが、不思議と怖くはなかった。
ただ、ここを通ったら二度と戻れないそんな気がした。
戻る?
何処へ?
俺とマサはいずれここを通る事になる、光堂は直感でそう感じた。
その道は、目の前で、不気味に手招きしている様であった
はやく こい
はやくこい
光堂は、そう呼びかけられている感じがする事を不気味に思うも何処か惹かれている自分も居るのが分かった。
未知なる世界からの呼びかけが、静かに手招きをしている
「おーい、光堂はやく車に乗れ」
多村の声にハッとし、我に返る。
光堂は奇妙な道を見つめてから、車に乗り込んだ
後にはひけない
もう何処にも 戻る場所はなかった。




