6.かえりみち
同居人が待っていると思うと、帰るのも楽しいと知ったのはいつだっただろう。
魔女として主に仕えている時ではなかった。
年老いた魔女に拾われて、暮らし始めてからだったような気はする。彼女は、ぼうっとして食事をすることさえ忘れる雫に、根気よく接した。
おかえりと言われても、素直にただいまとは言えなかったし、どうせすぐ出て行くつもりだったのだ。
それが、いつのまにか年老いた魔女の仕事を手伝うようになり、彼女が亡くなったあと、結局は店を受け継いでしまった。挙げ句の果てに、普通の女性と一緒に暮らすという、昔なら考えられないことをしている。
人生、本当にわからないものだねえ。
夕暮れの森を歩きながら、雫はそう呟いた。
遠くに、薄ぼんやりと明かりが見える。
明るいのは店側なので、きっと多紀はそこにいるのだろう。
誰もこない日でも、多紀はきちんと日が沈むまでは店を開けている。時々サボったらどうだいと言ってみるが、雇われている以上そんなことはできませんと、恐い顔をされてしまった。
真面目というよりは、融通が利かないと言ったほうがいいのだろうが、そういうところを含めて、それが多紀という人間だ。
それに、こうやって雫がたまに家をあけ、帰宅したとき、普段は仏頂面な顔が、嬉しそうに綻ぶ。
客を前にした愛想笑いでも、雫のつまらない冗談に義理で笑う時でもない、多紀自身の笑顔だ。
子供の頃は、もっと頻繁に浮かべていた。
お菓子を渡された時だったり、いたずらに成功した時だったり、頭を撫でられた時だったりと、数え上げてみれば、実に様々な状況で、多紀は笑っていた。
あまり笑わなくなったのは、街へ出てからだろうか。
人の下で働くようになり、処世術を覚え、感情を押し殺すようになった。それを大人になったと人は言うのだろうが、たまに村に帰ってくる多紀が、どんどんかわいらしさを失っていくのは、正直つまらなかった。
だから、彼女が路頭に迷った時、つい誘ってしまったのだ。
『うちに来ないか』と。
昔、この森を走り回っていたときのように、笑ってほしいと思ったからだ。
かつて一人だったときと違い、雫の足取りは軽い。
変なものもたくさん仕入れてきた。妙なものも手に入れてみた。
多紀はこれを見て、呆れた顔をするだろう。
その時の様子を簡単に想像できて、雫は思わず笑ってしまった。
そうやって、多紀に接しているうちに、自分も感情を表に出すのが苦痛でなくなったのだと、恐らく彼女は知らないだろう。
知らなくてもいいのだ。
知ってしまって遠慮されるのも嫌だし、気を使われるのも困る。
多紀は多紀のまま、子供の頃と同じように雫を振り回してくれればいい。
もちろん、多紀から言わせれば、振り回しているのは雫の方だと言い張るだろうが。
いつまで続くかわからない生活だけれど、出来れば長く一緒にいたいものだと、そんなささやかな願いを、最近の雫は抱いている。