第三話 盗み聞き
部屋の扉を3回ノックした音が聞こえた。バンっと音がなるくらいのスピードで俺がいる部屋に入ってきた。母は大きく息を吸って吐いてを繰り返しながら俺に抱きついた。
「リシア、大丈夫よ。何があってもあなたは絶対守るからね」
そしてバッと離れる。——何からだ?俺はそう思った。
「私、この後、会議があるからここで待ってなさい。いいわね?」
「はい」
そう母が言い終わると、ナル先生と共に部屋を出て行った。だがそうは言ったが黙って待っているはずはなかった。その母の言う会議は俺自身のことがテーマなのだ。それにタマシイリョウイキノゴリョウイキホジシャの話があることは明確だった。会議室があるのならそこの話は絶対聞いてやると思った。何も知らずに「はい、そうですか」は嫌だから——俺は廊下へ出て会議室へ向かった。
足音をさせないように廊下を進む。歩いていると声をかけられた。
「なにをしているのかな?そっちは君のお部屋はないと思うよ」
白衣を着た男性の声は優しかった。ここの患者の1人だと間違えられているらしい。俺は咄嗟に何も言えなかった。それが余計にここの患者らしかったのか、その医者はこう続けた。
「無理に戻らなくて大丈夫。戻りたくなったら戻っておいで。ただ、危ないことや人様の迷惑になることはしちゃダメだからね。君のペースで慣れていけばいいよ。きっとここは君の居場所になるから」
そう言って頭を優しく撫でてくれた。心がふわっとした。立ち去る男性を見つめてからまた歩き出す。そしてやっと会議室についた。会議は3人で行われているようだ。聞こえてくる声は俺の母、ナル先生、伝達に部屋を出ていた黒髪の女性のものだった。
「今回はリシア君の件です。ナル先生、結果をお願いします」
「僕の予測ではリシア君の魂は魂領域——視覚、聴覚、触覚、読解、接続の5つを持ち合わせている。それだと僕が判断したのは今まで研究されていた仮説からだ。あの5つの領域を持ちえるならこの配列だろうという仮説と合致していたんだ。」
「あの仮説に合致する魂が現れたってことね。そして、それがリシアだったと。医療や研究者の世界としては長年の悲願が叶ったけど母としては心配でしかないわ」
「聖女や神ツキ神官様でさえ、扱えるのは2領域。多くて3領域までなんですよ。本当にその領域まで使えるとお思いですか?」
「思いたくないけどそれが出来るとされていて理論上は可能なのよ」
母は考えたくないことに頭を痛めるような声を出していた。
「まだ、確定はしていないがその可能性も考えて行動しなければならない。これが現アクア教会にでもバレてみろ。人体実験される可能性が高い。僕たちで彼の能力を見極めつつ、保護するのがいいだろう。」
ナル先生の声にも緊張の色が滲んでいた。
「えぇ、問題ないわ。リシアは私のかわいい息子なのだから守ってみせるわ。確かあなた、あの論文は読んでなかったわよね?魂領域が全て使えるものは魂の状態を今とは違うモノにも変更可能で病を治すことも逆に病へとしたり、壊すことも可能だと言われている。」
力強い言い回しだった。魂を直すことも壊すことも可能で、別のものにも変えられる?変えたらそれはどうなるのか。怖いような気になるような感じがした。
「この件が落ち着くまで私はリシアがここに来るときは必ずいるようにするわ。」
「エレシア様の穴埋めはだいぶ難しいはずです。どのようにするおつもりですか?」
「患者に無理をさせないように私が回っていたけどこれからはここに入院してもらうか通ってもらうようにするわ」
このやり取りを聞いていると母が重大人物だということがありありとわかる。
「エレシア様がそうおっしゃるならルディア。調整を頼む。こういった調整も今回のような緊急事態では致し方ないと思われる。」
ルディアとは一瞬誰かはわからなかったが、ナル先生、俺の母親以外となると黒髪の女性の名前としか考えられなかった。黒髪のルディアの声が響く。
「かしこまりました。もとより私たちが推奨していた形にやっとされるのですね。エレシア様のご負担が大きすぎるのでわれら一同心配していたのです。」
「ルディアとナル、他の者たちにも心配をかけていたわね。彼らのそれぞれの居場所を壊したくわなかったのだけどね。リシアも患者もどちらも大切だから」
そう言う母は変わらない。でも、これから俺に対する態度に別の何かが入ることを理解するのには時間がかかった。




