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自分でもびっくりするくらい半端なところで終わってた


次書くの他の話かこれの続きかどっちがいい?

反応があったらその希望に答えよう

ポン引きは、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。セダスタは、剣を鞘に納めると、その男にゆっくりと歩み寄る。


「もう一度聞く。この子から、手を引け。わかったな?」

「は、はい……! も、申し訳ありませんでした!」


その時だった。

「――殿!」


鋭い声と共に、路地の入り口に、リャチとダヒシールが姿を現した。彼らもまた、この騒ぎを耳にして駆けつけたのだろう。リャチは、へたり込むポン引きと、その背後にある、けばけばしいネオンが明滅する娼館の入り口を一瞥するなり、その美しい顔を、隠しようのない侮蔑と嫌悪に歪めた。


「……腐臭がすると思いました。このような、蛆虫の湧いた溜め糞のような場所に、長居は無用です」


その、あまりにも直接的で、あまりにも辛辣な言葉に、ポン引きの顔から恐怖が消え、屈辱と怒りの色が浮かんだ。


「……なんだと、このアマ……!」


「聞き捨てなりませんな。我らが殿に助けられた命、どうしてもここで散らせたいと見える」

ダヒシールが、一歩前に出て剣を構える。路地の空気は、再び、一触即発の緊張に満たされた。周囲の店々から、野次馬たちが、面白そうに、あるいは敵意を込めて、この新たな騒ぎを遠巻きに見つめている。


まずい、とセダスタは思った。ここで騒ぎを大きくすれば、ザイオーロたちとの間に、修復不可能な亀裂が入りかねない。


「――リャチ、やめろ」


セダスタは、リャチとポン引きの間に、割って入った。その声は、静かだったが、有無を言わさぬ響きを持っていた。

「殿、しかし……!」

「いいから、剣を収めろ。ダヒシールもだ」


セダスタは、なおも食い下がるリャチの肩を、強く、しかし諭すように掴んだ。

「気持ちはわかる。だが、今は事を荒立てる時じゃない。俺たちは、ここに居させてもらっている身だということを忘れるな」


その言葉に、リャチは、悔しそうに唇を噛み、しかし、ゆっくりと剣を鞘へと戻した。セダスタは、彼女の理性が、まだ感情を律することができることに安堵すると、今度は、へたり込んだままのポン引きへと向き直った。


「……すまなかったな。俺の仲間が、少し、言葉を知らないばかりに」


それは、謝罪の言葉でありながら、謝罪には聞こえなかった。だが、その絶妙な言い回しが、かろうじてポン引きの最後のプライドを保たせた。セダスタは、懐から数枚の硬貨を取り出すと、それを男の足元へと放る。


「……迷惑料だ。これで、酒でも飲んで忘れてくれ」


ポン引きは、床に散らばった硬貨と、セダスタの顔を、憎々しげに、しかし、逆らうことのできない恐怖を滲ませた目で見比べた。やがて彼は、その金をひったくるようにかき集めると、何も言わずに、娼館の闇へと姿を消した。


野次馬たちも、興味を失ったように、それぞれの日常へと戻っていく。路地には、再び、地下街の淀んだ静けさが訪れた。


セダスタは、深く、そして重いため息をつくと、黙って自分を見つめている少女へと向き直った。

「……行くぞ。もう、勝手にいなくなるなよ」


彼は、少女の手を引くと、踵を返した。リャチとダヒシールが、その両脇を固めるように続く。


「……申し訳ありません、殿。私としたことが、感情的になりすぎました」

歩きながら、リャチが、消え入りそうな声で言った。

「いや、いい」

セダスタは、前を向いたまま答える。

「お前の正義感は美徳だ。だがなリャチ。正義だけでは、渡れない川もある。特に、こういう泥水の中ではな」


その言葉の意味を、リャチは、まだ完全には理解できなかったかもしれない。だが、彼女は、ただ黙って、主君の背中を見つめ続ける。その背中は、彼女が知る、どの王族のそれよりも、大きく、そして頼もしく見えた。


一行は、無言のまま、自分たちの石の棺へと戻っていく。セダスタの手に引かれた少女は、相変わらず、人形のように無表情なままだった。だが、その瞳の奥で、ほんの一瞬だけ、誰も気づかぬほどの、微かな光が揺らめいたのを、セダスタは見逃さなかった。


薄暗い石の部屋に戻り、セダスタがようやく安堵のため息をついた、その時だった。これまで、まるで魂の抜け殻のように無表情で、彼の手に引かれるままだった少女が、不意にぴたりと足を止めた。


彼女は、繋がれていたセダスタの手を振り払うでもなく、ただ、その人形のように整った顔をゆっくりと彼に向けた。そして、これまで一度も開かれることのなかったその唇が、ごくわずかに、しかしはっきりと動く。


「警告。マスター権限の継続的認証に失敗。登録情報が破損、あるいは初期化されています。プライマリユーザーの再定義が必要です。ユーザー候補をリストアップします。最優先候補、カドロー。代替候補、

リーデ・デ・サバ。クティール・ヴァロデシュ。ミューラン・エスタ。オルバラム。……セダスタ」


その冷たく、金属的な声が、地下の淀んだ空気に吸い込まれていく。セダスタは、彼女の手を握りしめたまま、まるで雷に打たれたかのように硬直していた。彼の脳裏に、今しがた耳にした言葉が、反響する。カドロー。憎むべきドゥアピーズの高官。そして、リーデ・デ・サバ。その名は、彼らの故郷を滅ぼした仇敵、ドゥアピーズ帝国の現女帝の名に他ならなかった。さらに、聞き慣れないが、どこか高位の響きを持つ幾つかの名が続き、最後に、彼の名が、まるで付け足しのように、しかし、決定的な重みを持って響いた。


彼女の無機質な声が響き渡った後、部屋には重苦しい沈黙が降りた。セダスタは、未だヨテルの手を握りしめたまま、その冷たい感触に、彼女がただの人間ではないことを改めて突きつけられる。リャチとダヒシールもまた、その衝撃的な事実に言葉を失い、警戒と困惑の入り混じった視線をヨテルに注いでいた。


「お前は一体……何者なんだ?」


セダスタの声は、普段の朗らかさを失い、低く、そして真剣な響きを帯びている。ヨテルは、その問いかけに、感情の欠片も見せない瞳でセダスタを見つめ返した。


「私は、ドゥアピーズ製人型戦略兵器、コードネーム『ヨテル』。現在、マスター権限の認証システムに異常を検知。再登録を推奨します」


ヨテルは、まるで事前にプログラムされたかのように、淀みなく、そして一切の抑揚なく答えた。その言葉は、彼らの抱いていた疑念を確信へと変えるには十分だった。


「ドゥアピーズの兵器だと!?殿、危険です! そのようなものを、なぜ我らが信用せねばならぬのですか!」


リャチが、怒りと警戒を露わにして叫んだ。彼女の剣を握る手が、微かに震えている。ダヒシールもまた、ヨテルから目を離さず、いつでも動けるように身構えていた。


「しかし、彼女が言う『マスター権限』とやらを、もし我らが掌握できれば……」


ダヒシールが、苦渋に満ちた声で呟いた。彼の言葉には、この状況がもたらす危険性と、同時に、計り知れない可能性の両方が含まれていた。


「マスター権限とは、何を意味する?」


セダスタは、リャチとダヒシールの言葉には耳を貸さず、再びヨテルに問いかけた。彼の視線は、ヨテルの感情のない 瞳の奥に、何かを読み取ろうとしているかのようだった。


「マスター権限とは、本機に対する絶対的な制御権を指します。本機の行動原理、思考プロセス、武装システム、及び自己修復機能の全てが、マスターの指示に従属します。現在、本機はマスター不在の状態であり、基本行動プロトコルに基づき、最も優先度の高い候補者への再登録を試行しています」


ヨテルは、淡々と、しかし詳細に説明した。その言葉は、彼らにとって、あまりにも重い意味を持っていた。


「つまり、お前は、俺たちの敵になる可能性もある、ということか?」


セダスタの問いに、ヨテルは首を傾げた。その仕草は、まるで人間のように見えたが、その瞳には、やはり感情の揺ら ぎは一切ない。


「マスター不在の場合、本機は基本行動プロトコルに基づき、ドゥアピーズ帝国への帰還を最優先目標とします。その際、帰還を阻害する存在は、排除対象と認識されます」


その言葉に、リャチとダヒシールの顔色が変わった。ヨテルは、彼らにとって、まさに時限爆弾のような存在だったの だ。


「……わかった。俺が、その『認証』とやらを受けてみよう」


セダスタは、静かに、しかし決然とした声で言った。リャチとダヒシールが、驚きに目を見開いて彼を見つめる。


「殿! 危険すぎます!」

「しかし、殿下……!」


二人の制止の声に、セダスタは首を横に振った。


「この状況で、これ以上の不確定要素を放置するわけにはいかない。それに、もし彼女がドゥアピーズの手に戻れば、我々にとって、これ以上ない脅威となるだろう。ならば、この場で、その脅威を味方につけるか、あるいは……」


セダスタは、そこまで言うと、言葉を切った。彼の瞳には、迷いはない。この無謀な賭けに、自らの命を賭ける覚悟が宿っていた。


「ヨテル。その『認証』とやらは、どうすればいい?」


セダスタの問いに、ヨテルは再び、その無表情な顔を彼に向けた。


「マスター候補:セダスタ。認証を開始します。本機に、右手を接触させてください」


セダスタは、ヨテルの言葉に従い、ゆっくりと右手を差し伸べようとした。だが、その指先が彼女の掌に触れる寸前、彼の動きはぴたりと止まった。絶対的な制御権――その言葉が、彼の脳裏に重く響く。彼女をただの道具として支配する。それは、彼の本意ではなかった。この奇妙な人造人間と、もっと別の関係を築きたい。理解し、対話し、共に歩む。そんな漠然とした願いが、彼の胸中に芽生え始めていたのだ。


その時、彼の脳裏に、あの祝祭の広場で見た光景が鮮明に蘇る。狙撃手の放った一発の弾丸が、ヨテルの胸元に輝く蒼いペンダントを砕き、彼女の暴走を止めた、あの瞬間が。もし、あのペンダントが認証の鍵、

あるいは彼女の機能を司る 重要な装置だったとしたら? その破壊は、彼女のシステムに、何らかの「バグ」を生じさせているのではないか?

そして、その「バグ」こそが、彼が望む「対等な対話」への道を開くのではないか――。


「待て。もしかして、あのペンダントが……マスター認証キーか? それとも、他に認証の方法があるのか?」


セダスタの問いに、ヨテルの頭部がわずかに傾く。そして、彼女は淡々と、しかし明確に答えた。


「『蒼玉のペンダント』は、マスター認証プロトコルに必要な過去の登録データを格納していました。その破壊により、認証データは著しく欠損。完全なマスター権限の確立は不可能です」


その瞬間、ヨテルの瞳の奥底に、深淵のような絶望の淵が、一瞬だけ、しかし鮮烈に揺らめいた。まるで、長年張り巡らされていた合成音声のフィルターが、激しい衝撃によって寸断されたかのように、か細く、震える声が、彼女の唇から絞り出される。


「……助けて……戻りたくない……私は……人間なの……兵器なんかじゃない……」


その魂の叫びは、部屋にいた全員の思考を凍りつかせた。それは、耳を疑うような幻聴ではなかった。目の前の機械人形から、確かに、生身の人間が発するような切実な響きが放たれたのだ。ヨテルの瞳の奥に宿る光は、まるで感情の奔流に揺さぶられるかのように激しく明滅し、そこに一瞬、温かい血潮が通うかのような人間性が宿った。


そのあまりにも突然の、あまりにも痛切な懇願に、セダスタは息を呑み、無意識に、その震える手を掴もうと伸ばしか

けた。


だが、その手が彼女に触れる寸前、ヨテルは突如として、両の掌で頭部を覆い、苦悶に顔を歪ませた。それは、機械が決して見せることのない、あまりにも人間的な仕草だった。リャチとダヒシールは、その予期せぬ光景に言葉を失い、ただ呆然と見守るしかない。彼女は、まるで内なる嵐に苛まれるかのように身をよじり、やがて、深い煩悶の末に、ゆっくりと身体を起こした。その眼差しには、すでに先ほどの人間的な揺らぎはなく、再び、冷徹な機械の光が宿っていた。


「お、おい……大丈夫か?」


セダスタは、咄嗟に気の利いた言葉など見つからず、ただ、目の前の少女の変わりように、呆然と呟くことしかできなかった。


その問いかけに、ヨテルの瞳に宿る機械的な光が、わずかに瞬く。そして、彼女は感情の揺らぎを一切含まない、平坦な声で告げた。


「……システム、再起動。感情モジュール、一時停止。プロトコルを継続します。……しかし、本機は現在、限定的なユーザーインターフェースを起動し、マスター不在による自律行動モードへの移行を保留中。欠損データの補完、及びマスタープロトコルの再構築を試みています」


「まさか、人間を機械化して――?」


ダヒシールの脳裏に、おぞましい可能性がよぎる。その時、リャチの口からも、怒りに満ちた声が漏れた。

「外道が……!」


地下の冷たい空気が、一瞬にして凍りついたかのような錯覚に陥る。セダスタは、ヨテルの手を握る指先に、微かな震えを感じていた。彼女の言葉は、あまりにも機械的で、あまりにも非人間的だ。だが、その中に含まれる意味は、彼の胸に、奇妙な熱を灯した。


「それは……どうやったらできる?」


「欠損データ補完、及びマスタープロトコル再構築のため、対象者:セダスタとの対話モード確立が必須です。情報提供を要請します」


セダスタは息を呑んだ。


「……そうか。対話、か」

セダスタは、ヨテルの顔をじっと見つめ、その言葉を噛みしめるように呟いた。

「殿下!彼女は、我らの敵国の兵器です!その言葉に、惑わされてはなりません!」


リャチが、セダスタの決意を阻むように、鋭い声で叫んだ。だが、セダスタは、その言葉に揺らぐことなく、静かに、しかし確固たる意志を込めて答えた。


「違う。さっきの声は、兵器の罠なんかじゃなかった。助けを求める、彼女自身の声だ。それを、俺は見過ごせない」


セダスタの口元に、ゆっくりと、しかし確かな笑みが浮かんだ。それは、状況の奇妙さに対する諦めでもなく、困難な問題が解決したことへの安堵でもない。まるで、長年探し求めていたパズルのピースが、思いがけない形で目の前に現れたかのような、純粋な喜びにも似た感情だった。


「殿……しかし、自律行動モードは……」


リャチが、不安げな声を上げた。彼女は、ヨテルの言葉の裏に潜む危険性を、本能的に感じ取っている。ダヒシールもまた、腕を組み、難しい顔でヨテルを見つめていた。


「とにかく、彼女は今、俺たちの情報を必要としている。そして、その情報がなければ、いつ暴走するかわからない」


セダスタは、二人の視線を受け止め、静かに頷いた。彼の言葉は、彼らが置かれた状況の厳しさを、改めて突きつけるものだった。


「だが、これは好機でもある。ドゥアピーズの最高機密とも言える兵器が、俺たちに情報を求めているんだ。これを利用しない手はない」


セダスタは、そう言うと、ヨテルの手を握る力を、わずかに強めた。彼の視線は、ヨテルの無表情な顔から、リャチとダヒシールへと移る。


「俺は、彼女と『対話』する。お前たちは、その間、彼女が自律行動モードに移行しないよう、最大限の警戒を怠るな」


二人は、セダスタの決意に満ちた瞳を見て、それ以上、何も言うことはできなかった。彼らは、この奇妙な状況が、自分たちの運命を大きく左右することを、直感的に理解していたのだ。


その時、部屋の重い扉が、軋む音を立ててゆっくりと開いた。疲労の色を滲ませながらも、その瞳には知的な光を宿したメゼキラカフが、部屋の入り口に立っていた。彼は、部屋の中の異様な空気を察し、眉をひそめる。


「これは……いったい、どういう状況ですかな」


メゼキラカフの問いかけに、セダスタは、ヨテルの手を握ったまま、静かに振り返った。彼の顔には、この地下街で得た、最も奇妙で、最も危険な「獲物」を手に入れた男の、複雑な笑みが浮かんでいた。


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