それぞれの告白
「よくも……」
「……は?」
私の低く唸るような声が、どこから聞こえたのかわからずキョロキョロするパルミナ嬢。
「よくも!」
私から発せられたとわかった彼女が怪訝な顔で私を見る。
「よくもそんな幼稚な我が儘で、たくさんの人を泣かせましたわね!」
室内に稲妻が走る。会場のあちこちから悲鳴が聞こえた。流石にヤバいと思ったのか、フィルが後ろから私を抱きしめて落ち着かせようとした。
「そんなバカみたいな理由で禁術の魅了を使って。ハーレムですって!?そんなものの為に一体どれだけのご令嬢方が心に傷を負ったと思っているんですの?一体どれだけのご令息方が今、死ぬほどの後悔に苛まれていると思っていますの?」
稲妻は走らなくなったが、今度は窓の周辺が凍り出す。
「エラ、怒るのはいいけど会場が凍ってしまう。落ち着いて」
耳元でフィリベルト王子が囁く。耳に吐息がかかって意識がそちらに持って行かれた。おかげで温度が元に戻る。
「誰がこんなに可愛いですって?周りをよくご覧なさい。あなたなんかよりも数倍可愛らしい方々がたくさんいらっしゃいますわ。言っておきますけれど、別にあなたなんて普通のレベルですわよ。魅了を使わないと誰にも構ってもらえない、そんなレベルですわ」
「何言ってるの?私が一番可愛いじゃない。あなたの目の方がおかしいのよ!」
「あら?では近くにいらっしゃる殿方にでも聞いてみたらいかがかしら?」
パルミナ嬢が取り巻きだった伯爵令息に詰め寄る。
「ねえ、私は可愛いわよね」
「ええっと、可愛い方だとは思うけれど……」
「けれどなんなのよ!?」
「マリエラ嬢には負ける!」
「はあ!?」
名前を出されたマリエラ嬢本人は、真っ赤になって俯いた。
この二人は婚約をする寸前で、彼が魅了にかかってしまい。婚約話が棚上げになっていたのだ。
「僕は、マリエラ嬢の方が断然可愛いと思っている。あの変な感覚がなくなった今、断言できる!」
彼の張り上げた声と共に、会場が湧き上がった。その勢いに押され、伯爵令息がマリエラ嬢の前まで走って行き跪いた。
「マリエラ嬢。僕は不甲斐ない事に魅了にかかってしまった。あなたを深く傷つけてしまった事、今物凄く後悔している。あなたを心の底から好きだったのに。魅了にかかっていた間もあなたが悲しい顔をしているのは知っていた。自分のせいだともわかっていたのに、あの女の声に逆らえなかった。でも、彼女にはプレゼントをした以外の事はしていない。目が覚めた今、やはり好きなのはあなただと実感している。都合のいい事を言っている自覚もある。いくらでも罵ってくれて構わない。だからどうかもう一度、僕との婚約を考えてみてくれないだろうか?」
マリエラ嬢は泣きながらも彼をしっかり見ていた。彼が嘘を言っていないか、またかかってしまうのではないか。きっと信じる事はすぐには無理だろう。それでも彼女の心には何か響くものがあったのだろう。
「すぐには婚約したくありません。でも、あなたが本当に私を、私だけを愛してくださるのか見極めたいと思います。あなたが私だけを愛してくださると信じる事が出来たなら、その時は私から婚約を願い出ます。それでもよろしいですか?」
涙がとめどなく流れていながらも、しっかりと自分の想いを伝えたマリエラ嬢。
「マリー、ありがとう。ありがとう。これから一生をかけて君に愛を伝え続ける」
再び湧き上がる会場。
この二人を切っ掛けに、殿方たちが自分の想いを伝えるため、懺悔するために自分の想い人の元へ走った。受け入れられる者、拒絶される者。それぞれに違いはあるけれど、自分の本当の想いを言えたことで気持ちは違ったと思う。
そんな様子をにこやかに見守っていると、隣で腰を抱いていたフィルが私の前に跪く。
「私ももう一度愛を誓うよ」
私の手を取り見つめる海の青が煌いていた。
「フィル、あなたは先日してくれたじゃない。謝罪も求愛もちゃんと受け入れたわ」
「それでも。私は何度でも誓うよ。エラを死ぬほど愛しているからね。私は、君が私を忘れてしまう程傷つけてしまった。死んでも死にきれない程後悔したよ。死んで詫びる事が出来るなら喜んで死んでいた。本当にごめん。もう二度と、エラを泣かせるような事も、傷つけるような事もしないと改めて誓うよ」
「ふふ、ありがとう。私の方こそフィルを忘れてしまってごめんなさい。何度も悲しい顔をさせてしまったわ」
「そんな事。当然の事だったんだから。エラが私を忘れたという事実は辛かったけれど、もう一度出会って再び恋をしてくれた時は、不謹慎にも嬉し過ぎて天にも昇る気持ちだった。愛してるよ、エラ」
「私も愛しているわ、フィル」
茫然としている彼女の目の前で私を抱きしめるフィル。彼の胸の中から彼女を窺い見ると、凄い形相で私を睨んでいた。




