外伝 トール様は今日もご機嫌
ゴートが日々の冒険者生活を頑張っている頃、アイン領三男のトールもまたセカの街で領主の一族として日々業務に励んでいた。毎日の業務は経理や施策、各組織との交渉等多岐にわたる。勿論一人でこなしている訳ではないが激務には違いない。そんな生活を送るトールのここ最近の楽しみは、部下からゴートという冒険者の活躍を聞くことだった。
ゴートととの出会いはある意味最悪である意味最高だった。敵軍に奇襲され窮地に陥っていた所にゴートを含む志願兵が救援に駆けつけたのだ。そこでゴートは一番の活躍をし、志願兵の中では戦力になり得ると見なされトールが領に戻るまでの護衛に選ばれ、その後その活躍が認められ領民となり今では冒険者として働いているという経緯がある。
「どうやらゴート殿は九級冒険者に昇級したようです」
トールに昔から仕えている部下の一人が休憩がてら報告する。
「ギース農園との繋がりも得たようですね」
「そうかそうか。順調にいっているようで何よりだ」
トールは紅茶を飲みながら珍しく年相応の笑顔を見せる。因みにトールは二十一歳である。
「何故私が一冒険者の動向を気にしているか気になるかい?」
「恩人だからでは無いのですか?それにしても随分と気に入っているようですが」
「恩人ね…それも大きな理由だ。ただ個人的にもう一つの理由が大きいかな」
そう言いながら笑うトールを見て、部下が不思議そうに理由を訪ねる。
「理由がね面白かったんだ。私をあんなに懸命に助けた理由」
「面白いということは、指揮官だからではない…ということで?」
「そう。帰り道に聞いたんだけどね。彼にとって指揮官であるかはとかはどうでも良かったみたい」
「勿体振らないで下さいよ」
「ごめんごめん。何でも志願兵の訓練をしているときに、教官に色々教えて貰ったみたいでね。アイン領が豊かで農奴を使い潰したりしなくてすむのは我々アイン家の実直で手堅い施政のおかげだとね。それを聞いて絶対守ろうと思ったらしいよ。その愚直なまでの善意にやられちゃってね」
「それは…わかりますね」
トールも部下も普段は騙し騙され、裏を読んでなんぼの世界で仕事をしている。
そんなときに真っ直ぐな善意をぶつけられるとかなり効く。
「なに、彼をどうこうしようって訳じゃないから安心して良いよ」
「そこら辺は信頼してますので問題ありませんよ」
一時の静寂の後、紅茶も飲み干しそろそろ業務再開。
トール様はアイン領のためにセカの街のために今日も身を粉にして働くのであった。




