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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
春は出会いと花見酒
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5. 南雲飛鳥


 まだ春だというのに、うだる様な暑さがオフィス街を包む。

 空に伸びるようにして建つビルを見上げた男――除霊師・南雲飛鳥なぐもあすかは、やる気のない表情で足元に纏わり付く霊を蹴り飛ばすと、一歩踏み出した。





 除霊師として最近やっと親父から認められ、独り立ちすることができた俺は、親父の”御零れ”をこなす日々に追われていた。

 だが、それも今日のため。


 今回の依頼は飛行機で一時間の距離にある都会で、尚且つ比較的簡単な依頼ということもあり、ゆっくりと買い物や観光出来ることを楽しみにしていたのだ。

 そのためにこの一ヶ月、仕事を詰めに詰め込んで、一日。

 やっと、一日を確保した。


 まずは疲れを取ろうと、時計もかけずゆっくりと休んでいたというのに、一時間前俺にかかってきた電話はその状況を一変させた。



 電話は父の友人、真中さんからのものだった。

 同業者の中でも、『腕が良い・安い・迅速な対応』で好評な真中一平は、駆け出しの俺にもアドバイスをくれるなど、情に熱い人だ。

 しかも家族の時間も大切にするときたら、欠点なんて無いんじゃないかと疑ってしまう。


 そんな真中さんからの電話を無視する訳にもいかず、出てしまったのが運の尽き。

 家族旅行中で行けない真中さんの代わりに、俺が仕事を押し付けられたのだから。

 


「せっかく、ゆっくりできると思ったのにな……」


 文句を言いながらも、エレベーターが目的のフロアに到着する音と共に表情を引き締める。

 そして笑顔を張り付けると、足を踏み出した。


「こんにちは。除霊師の南雲飛鳥と申します」

「は、初めまして! 日向綾です!」

「部長の上田だ。それでいきなりだが、ここに桜庭さんの……女性の霊がいるというのは本当か?」

「……いますね」


 何故か熱い視線を向けてくる日向さんとは視線を合わさず、部長さんと向かい合う。


(確かに、女の霊はいる、が――)


 そちらへゆっくり歩み寄ると、談笑していた霊達の視線が自分に注がれた。

 その中では、女性と呼べる年齢の女は一人しかおらず、必然的にそちらを向いて話すことになる。


「貴方が桜庭さん?」

「うん」

「貴方が怒っていると聞いたんだけど」

「別に怒ってないよ。死人でも仕事しろって言われたから手伝おうとしたら、パソコンの電源が切れちゃっただけだし」

「……そっちの三人は?」

「こっちは、前にここで自殺した山田くんと、浮遊霊ふゆうれいのアキちゃんとテルくん」


 俺の問いに、不思議そうに首を傾ける桜庭さん。本当に、怒ってはなさそうだ。

 続いて、俺に対してあからさまに警戒の色を向ける残りの面々の説明を求めると、そんな彼等の様子に気付いているのかいないのか、彼女は満面の笑みで答えたのだった。


 俺が到着するまでの間に仲良くなったという四人。

 幼稚園児くらいの浮遊霊二人に抱き付かれ、嬉しそうな顔の桜庭さんを、気の弱そうな青年が微笑ましく見ている。


「お姉ちゃんは悪くないよ! あのおばちゃんがお姉ちゃんのこと悪く言ったの。ね、テルくん」

「うん! あのおばさんが悪い! お兄ちゃんだって、あいつに嫌がらせされて死んだんだ!」

「では、桜庭さんも自殺を?」

「いやいや、私は昨日のハイジャックで」

「ああ、昨日の。……とりあえず、話はわかった」


 桜庭真琴との話を終え、心配そうに見守っていた部長たちの元へと戻る。


 彼女たちとのやり取りは、周囲から見たら独り言を言っているとしか思えなかったのだろう。

 俺を不審そうに見つめる部長と、おばちゃんと呼ばれていた田中さん。日向さんは「流石」だとか「やっぱり」だとか、騒ぎ立てている。


 日向さんを黙らせるように一度咳払いをすると、部長と向かい合った。

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