12. 接触
その日の夜、真琴は柏木家を訪れていた。
洋平の話が長引いたために、来るのが遅くなったと心配したが、どうやら大丈夫そうだ。
既に日も変わろうとする時刻だというのに、両親は帰って来ておらず、唯一帰宅している雄太の部屋だけが煌々と灯りを灯していた。
「雄太君?」
駄目もとで声を掛けてみたが、雄太は霊感のない人間らしく、聞こえている様子がない。
洋平に言われた通り、波長を合わせることを意識してみたがこれも上手くいかず、四苦八苦している間に電気を消してベッドに横になってしまった。
真琴からは顔が見えないが、次第に聞こえてきた嗚咽に、胸が締め付けられるような感覚が襲う。
真琴はベッドの縁へと座ると、雄太の肩へと触れた。
「聞こえる?」
「ひっ…!?」
ベッドの軋み、そして急に聞こえた声に強張る雄太。心なしか、肩に置かれた手が首の方へと近付いてくるようにも感じられた。
突然泣き止んだ雄太に、真琴はほっとした表情を浮かべる。勿論、雄太が怖がっていることなど気付いていない。
何と話しかけようかと真琴が悩んでいる間に、雄太はこっそりと瞳を開いた。
「う、わぁああ!」
雄太が見たのは、至近距離で自分を睨み付ける女の顔。
実際は、ただ悩んでいただけなのだが、雄太の突然の叫びに今度は真琴の方が目を丸くした。
(…はっ! これが藤井さんが言っていた!)
”突然夜中に叫び出すことがある”という藤井の言葉を思い出し、落ち着かせようともう片方の手を伸ばした真琴だったが、それが雄太に触れることはなかった。
転げ落ちるようにベッドから降りると、勢いよく部屋から飛び出す雄太。
そのまま外へと飛び出そうとしていた雄太を止めたのは、ちょうど帰宅した雄太の母親だった。
「ちょっと! こんな時間にどこに…って、そんなに慌ててどうしたの!?」
「母ちゃん! 霊! 幽霊が!!」
「ゆ、幽霊!?」
そのあまりの形相に、雄太の母はぎょっとした後、恐る恐る彼の部屋の方を見た。
しかし、見えるのはいつもと変わらぬ風景で。
「何もいないじゃない…っ!?」
何かの見間違いよ、と笑い飛ばそうと、再び雄太を見た母は言葉を呑んだ。
顔は白を通り越して青くなっており、目は血走って見開かれている。
身体はガタガタと震えているというのに、その吐く息は荒い。
これは只事ではないと感じた彼女は、雄太を連れ家を出ると近くのホテルへと向かった。




