10. 柏木雄太
柏木雄太。それが藤井が言っていた少年だった。
彼の通う学校へ着いてすぐ、学校に憑く霊たちへの聞き込みを始め、彼女のそれが杞憂でなかったことを知る。
話を聞き終え、彼の側にいた短い時間だけでも、目撃したいじめは酷いものだった。
毎日続くそれに、雄太は精神を病んだ。寝れていないのだろう、目の下の酷い隈に、ふらふらと覚束ない足取り。授業中も何を考えているのか、ぼうっと焦点の定まらない瞳で黒板を眺めるだけだった。
(このままじゃいけない)
雄太の様子に、早まらないといいけれど、という片桐の言葉が頭を過ぎる。
一人決意した真琴はその場を後にすると、近くの神田山へと向かった。
◇◇◇◇
神田山の山頂付近。
昼間だというのに薄暗いそこで、真琴はある男を探していた。
「梅さーん。こんにちはー。桜庭ですー!」
大きな声で呼ぶのはこの山に憑く梅宮洋平。真琴に窓を揺らす方法を教えたその人だ。
彼女の声につられてか、山で死んだ者が集まってくる。
「ねぇねぇ、梅さん知らない?」
「梅さんは今の時間寝ていると思いますよ?」
「でもシュウ兄ちゃんだったら、さっき見かけたから呼んでくるね!」
「ありがとう。ここで待ってるね」
職場で出会った浮遊霊のアキと同じくらいだろうか、幼い女の子が東城周を目撃したという方向へと走って行く。
大人しくその場で待つことにした真琴は、周りに集まった霊たちと話を始めた。
「ごめん、待たせたね」
「周くん。久しぶり」
女の子の霊に連れられてやってきた周は、未だ幼さの残る少年だ。前に会ったときに年を聞いたところ、十八という答えが返ってきた。
「それで、今日はどうしたの?」
「うん…今、悩んでる子がいて、その子を励ましたいんだけど、どうしたらいいのかわからなくて…」
「そっか。……俺が相談乗ってもいいんだけど…とりあえず、今から洋平くんのとこ行こうか」
「うん? 梅さん寝てるって聞いたけど」
「真琴ちゃんが来たって聞いたらすぐ起きるって。この前もどうなったか心配してたみたいだったし」
寝ているのに悪いと言う真琴の手を取り、山の奥へと進んでいく周。
完全に日の光の届かない洞窟へと辿りついた真琴は、その暗さに息を呑んだ。
「ちょっと待ってて」
そんな真琴に気を使ったのか、洞窟の外で待たせると一人暗闇へと進んでいく。
肌寒い空気に、心細くなる。
待つこと数分。暗闇から姿を現した洋平に、真琴はほっと息を吐いた。




