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moment  作者: しん
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第三十二幕

小五郎―side


本番が無事に終わり、幕府の内情についてもかなりの情報を得ることができた。

一座の皆は打ち上げに向かっていたが、わたしは参加せずに藩邸に帰る準備をしていた。

「おつかれさま、桂くん」

「お疲れ様です。この度はお世話になりました」

「これくらいお安い御用さ!いつでも協力するぜぇ」

「京にはまだいらっしゃるんですか」

「そうだなぁ、あと七日は滞在するつもりだよ」

「そうですか。では、今度は客として見に来ます」

「おう!待ってるぜぇ」

そう言って、遊斉と別れ藩邸へと帰路を急ぐ。


「ただいま」

トタトタトタトタ!

小さな可愛い足音が急いでこちらに向かってくる。

いつもなら叱るところだが、今は廊下を走るくらい自分に会いたいのかと思えるから嬉しい。

「小五郎さん!おかえりなさいっ」

満面の笑みでナナさんが出迎えてくれる。

「ああ、ただいま」

「本番おつかれさまでした!夕餉はもう召し上がりましたか?」

「いや、急いで帰ってきたからまだ食べてないよ」

「そうですか!ではすぐに準備しますね。よかったら先にお風呂どうぞ」

「うん、ありがとう」

トタトタトタと今度は台所へ走っていく。

手に入れた情報を伝えるため晋作の部屋に行くと、机の上に突っ伏していた。

「晋作!?大丈夫かい?」

驚いて晋作に駆け寄り、体を起こす。

「ん~、小五郎か。よかった、やっと帰ってきてくれたか..」

晋作の机の上には書類が山積みになっていた。

「この三日間、死にそうだったんだぞ!」

「ふふ、それはご苦労さま」

「全く、俺にはこんなちまちました仕事は向かん!それに、ナナはしょっちゅうお前に会いに行ってて全然一緒にいられなかったしな!」

「まあ、おかげで、かなり役に立つ情報は手に入れられたからいいだろう?」

「ほう?それは楽しそうだな!はやく聞かせろ」

「ああ」


晋作への報告が終わり、風呂に入る。

「ふう~。」

ナナさんがここにいるのは明日までか...

寺田屋に戻ったら坂本君と一緒になるのだろうか

「それなら、そいつよりももっと自分に惚れさせりゃあいいじゃねぇか」

遊斉に言われたことを思い出す。

「惚れさせる...か」

風呂から出て広間に行くと、食事が用意されていた。

「あ、小五郎さん。温かいうちにどうぞ」

「ありがとう。いただきます」

「ナナさん、明日は何か予定はあるかい?」

「明日ですか?特にないですよ」

「よかった。わたしと少し出掛けないかい?」

「はい、ぜひ!」


翌日――


今日は天気がいい。雲一つない空に太陽がサンサンと輝いている。

「お待たせしました」

玄関からナナさんが出てくる。

「それじゃあ行こうか」

「はい」

「どこか行きたいところはあるかい?」

「ん〜、そうですね。あ!お皿を見に行きたいです」

「お皿?」

「はい、小五郎さんがお稽古に行かれてるときに

 晋作さんが何枚か割っちゃって」

「ふふ。わかった。じゃあそうしよう」

市がある大通りに出て、皿やお椀などを売っているお店を色々と回る。

「小五郎さん、これなんかどうですか?」

白地に向日葵が描かれた皿を指差す。

「うん、可愛らしくていいね」

他の商品を見ていると、店主に話しかけられる

「仲の良いご夫婦だねぇ。新婚さんかい?」

「ほぇ!?し、しし新婚??」

「いえ、残念ながらまだなんです」

「わたしは早く娶りたいのですけど」

「な、小五郎さん!じ、冗談はやめてくださいっ」

真っ赤な顔をしてナナさんが抗議してくる。

「がはははっ!若いってぇのはいいねぇ!」

「もう、おじさんまでからかわないでくださいー」

お目当ての皿を数枚買って、近くを散歩する。

林を少し行ったところに、ちょうど二人座れるくらいの大きさの岩があり、そこに腰掛ける。

風がそよそよと木々を揺らして過ぎていく。

「疲れたかい?」

「いえ、小五郎さんとお出かけできて嬉しいです」

本当に嬉しそうに微笑む。

「…ナナさん」

「はい」

「好きだよ」

「え、?」

「初めてなんだ。

 こんなに心惹かれる女性に出逢ったのは」


「愛してるよ」



ナナーside


「…小五郎さん」

突然の告白にわたしはどう答えたらいいのかわからず、黙り込んでしまった。

「困らせてしまったかな」

「い、いえ!」

小五郎さんは優しく微笑んで、いつものように頭を撫でてくれた。

「返事がほしいわけではないから気にしないで。ただ君に伝えておきたかったんだ」

「はい...」


どうしてだろう。

どうしてわたしは、あの人じゃないとダメなんだろう。

こんなに優しくて素敵な人が、わたしのことを好きだと言ってくれているのに。


「そろそろ帰ろうか」

「はい」


長州藩邸に戻ると、晋作さんが門の前で待ち構えていた。

「あー!!やっぱり二人で出かけてたんだなっ!狡いぞ小五郎!!」

「狡いも何も、お前は奇兵隊の訓練で居なかっただろう?」

「それとこれは関係ねぇ!!よし、出かけるぞナナ!」

「ええっ?!」

「今帰ってきたばかりなんだぞ。少しは気を使え」

「じゃあ、今夜は添い寝だな!」

「何でそうなるんですかっ!?」

「全く、近所迷惑だから中に入ろう」

「そうですね」

夕餉を食べながら、今日買ったお皿を晋作さんに見せる。

「この向日葵のお皿とっても可愛いですよね!」

「ああ、夏らしくていいな!」

「でしょう?」

「そうだ、ナナ。渡したいものがあるから、後で俺様の部屋に来いよ」

「渡したいもの?」

「ああ、楽しみにしてな!」


夕餉の後にお風呂をいただいて、そのまま晋作さんの部屋に向かう。

コンコン。

「入れ」

「お邪魔しまーす」

部屋に入ると、晋作さんに少し大きめの木箱を渡される。

「何ですか?」

「開けてみろ」

パカッ。

「これ…!!」

木箱の中に入っていたのは、奇兵隊の隊服だった。

「カッコいい〜!!!」

「わっははは!そうだろう?」

「これをわたしに?」

「ああ!着てみろ!」

黒地の隊服の背中部分には、”正義” の文字の刺繍が施されていた。

わたしのサイズに合わせて作ってくれたのだろう、袖の長さもピッタリだ。

「どうかな?」

「ものすごく似合ってるぞ!さすが俺の嫁だっ」

「ありがとう!あ、小五郎さんにも見せてくるね!」


小五郎ーside


トタタタタタ!

可愛らしい足音が近付いてくる。

「小五郎さん!うわぁっ!!」

広間に勢いよく入ってきたナナさんが、自分の隊服の裾につんのめって倒れる。

「ナナさん!」

怪我をしないように床と彼女の間に入って受け止める。

「大丈夫かい?」

「ご、ごめんなさいっ!小五郎さんに早く見せたくてつい…」

と申し訳なさそうな顔をする。

「ああ、とっても綺麗だよ」

そう言って頬に手を添える。

「え、あの。隊服はこっち…」

「ん?」

ドタドタドタ!

「ナナー!もう一つ渡すものが…って何してんだ!」

晋作が急いでナナさんをわたしから引き剥がす。

「昼間は小五郎と一緒に居たんだから、夜は俺と一緒にいるんだっ」

子どものような言い分をする友に、やれやれと肩をすくめる。

「あんまり夜更かしさせるんじゃないよ」

「へいへーい」


ナナーside


晋作さんに連れられて庭に降りる。

「もう一つの渡したいものってなーに?」

わくわくと晋作さんを見つめる。

「おう、これだ!」

そう言いながら、懐から綺麗な布に包まれた物を取り出す。

包みを開けると

「これって、指輪?」

「ああ、西洋の物らしいんだが知ってるか?」

「うん知ってる」

少し戸惑ったけれど、晋作さんの表情を見るに深い意味は無さそうだ。

「ありがとう、とっても綺麗」

「そうか」

でも、

「大きくてはめられないかも」

「何っ!?悪い、輪っかの大きさまで見てなかった」

「ううん、大丈夫!そういう時は…」

髪の毛を纏めていた紐を外して、指輪に紐を通す。

「ほら、こうすればネックレスになるよ」

自分の首に紐を当てて見せる。

「未来では首に飾りを付けるのか」

「そう!男性が女性にする贈り物の定番ね」

「貸してみろ。俺がつけてやる」

後ろに回って紐を結んでくれる。

「ありがとう」

「…」

「晋作さん?」


晋作ーside


「寺田屋に戻ったら…」

坂本と一緒になるのか?

「ん?」

「いや、何でもねぇよ!」

わしゃわしゃとナナの頭を撫でる。

「きゃ、晋作さんやめて!ボサボサになっちゃうでしょー!」

ぷくっと頬を膨らませて睨んでくる。

「何かあったら、俺を頼れよ」

「…ありがとう」

「もし、一番最初に晋作さんに出会ってたら、わたし晋作さんに惚れてたと思う」

「当たり前だ」

「それに、これから惚れさせてやるさ」

「ふふ。楽しみにしてるね」

全く、どうしたら振り向いてくれるんだか。

「そろそろ寝るか」

「はい」


夜空に浮かぶ月が優しく見下ろしていた。

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