第二十七幕
龍馬ーside
あれから一週間が経った。
ナナさんは元気にしているかの…
「はぁ…。嫌われてしまったの」
どんよりとした気持ちのまま出掛ける準備をする。
これから薩摩藩邸で宴会がある。
宴会が終わったらナナさんも一緒に帰る予定じゃが
帰ってきてくれるじゃろうか。
「龍馬さん!早くしてください、行きますよ!」
玄関口から中岡の元気な声が聞こえよる。
ナナさんに会えるんが嬉しいんじゃろうな。
「ちくと待っちょれ!」
そう言って身支度を整える。
ナナーside
「はぁ〜。
今日の宴会が終わったら寺田屋に帰らなきゃ」
気が重いなぁ。
「全く、辛気臭いな」
「大久保さん」
「帰りたくないならここに居てもいい」
「でも、迷惑なんじゃ…」
「小娘一人囲うくらいどうってことない」
「ふふ。囲うって愛人みたいですよ?」
冗談めかして言うと
「ふん、軽口を叩く元気はあるようだな」
と言って笑う。
「部屋に宴会用の着物を用意している。
そろそろ着替えておけ」
「え!わざわざ用意してくださったんですか?」
「ああ。一人で着られないだろうから
後で手伝いを寄こす」
そう言って大久保さんは自室に戻って行った。
宴会用の着物って何だろう?
ワクワクしながら部屋に戻ってみると…
そこに置かれていたのは色鮮やかな刺繍が入った綺麗な桜色の着物だった。
着替えた後に藩邸の人に髪も結ってもらった。
「支度は済んだか」
「はい、もう皆さんいらっしゃいましたか?」
「ああ」
「それじゃあ、給仕の準備してきますね」
「何を言っている。お前も一緒に参加するんだ」
「え、でも」
「芸妓も呼んでいるから給仕は彼女たちがする。
お前はわたしの隣に座っていろ」
「そうなんですね、わかりました」
大久保さんに付いて皆んなが集まっている部屋に向かう。
中に入ると、すでに宴会は始まっていて芸妓さんたちが三味線と舞いをしていた。
「待たせた」
「おお!大久保さん、先に始めてるぞ!」
「全く、主催者が来る前に勝手に始めて…」
「あ、ナナちゃん!お久しぶりです!」
慎太さんが駆け寄ってくる。
「慎太さん一週間ぶり!」
「元気そうでよかったです!」
「見ない間に少し太ったんじゃないか?」
「ひどーい!以蔵の意地悪!」
「ナナさん、良かったらこちらに座って
お酒を注いでくれないかな」
と武市さんにお願いされる。
「いいですか?大久保さん」
「構わぬ」
武市さんの隣に座りお酒を注ぐ。
「元気にしてたかい?」
「はい、皆さんとても良くしてくれました」
「そうか、それは良かった。
すまないが、隣で羨ましそうに見ている愚か者に
も注いでやってくれるかい?」
「な、誰が愚か者じゃ!」
「おまんに決まっちょる!こんのバカ龍馬!」
「なんじゃと!?」
「あ、あの!わたしなら大丈夫ですから」
「ナナさん…」
「龍馬さんどうぞ」
そう言って龍馬さんの持っている杯にお酒を注ぐ。
「ナナさん、この前のことなんじゃが…」
「もういいんです。
龍馬さんも気にしないでください」
「違うんじゃ!わしが間違っちょった」
「わしも、おまんのことが…」
龍馬さんが何か言いかけたところで
酔っ払った晋作さんが絡んできた。
「何だ、何だ〜?愛の告白かぁ坂本ぉ?」
「からかうんはやめとうせ」
「そうですよ、わたし振られちゃったんですから
そんなわけないじゃないですか」
「そうなのか!?坂本!詳しく聞かせろ〜!」
わいわい盛り上がっていると
「ナナ、わたしにも酒を注いでくれぬか」
大久保さんに呼ばれてお酒を注ぎにいく。
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」
「気まずいなら部屋に戻っても構わんぞ」
そう言われて思っていたより平気なことに気がつく
「いえ、大丈夫です」
「そうか」
「大久保さんのおかげです」
「何がだ」
「ふふっ。秘密です!」
晋作ーside
気に食わん!
大久保さんとナナが前より親密になっている。
まさか…あの二人、、
「ナナー!俺様にも注いでくれ!」
「はーい」
ナナがトコトコとやってきて俺の隣に座る。
「はいどうぞ」
注いでもらった酒を一気に飲み干して
「大久保さんに鞍替えしたのか?」
「え?鞍替え?」
「ああ、大久保さんの女になったのか?」
「な、何でそうなるの!違うよ!」
「そうか!ならいいんだ!わはははっ!」
何だ、ただの杞憂か。
「ここでの手伝いは今日までだろう?
今度は長州藩邸に来い!」
「へ?でも…」
「それはいいね。僕からもぜひお願いするよ」
「り、龍馬さんに聞いてみないと」
「そうか!おーい坂本ぉ!」
向こうの席で武市と取っ組み合いをしている坂本に呼びかける。
「ナナを長州藩邸に連れて行くが構わんな?」
「なっ?!何言うがじゃ高杉さん!」
そう言ってこちらにやってきてナナの隣にどかりと座る。
「ダメじゃ!ナナさんはわしと一緒に寺田屋に帰るんじゃ!」
「お前と一緒にいるのは気まずいんじゃないのか?」
「そ、それは…!」
「あの、わたしは一週間くらいでしたら」
「よしっ!決まりだな!」
「高杉さん覚えちょれよ」
坂本が恨みごとを言っているが関係ない。
大久保ーside
全く、小娘は人気者だな。
その理由はわからんでもないが。
このままそばに置いておきたいが難しそうだな…
そんなことを考えながら席を外し、縁側の方へ出る。
「大久保さん?」
後ろから声がかかる。
「もしかして酔っ払っちゃいました?」
そう言いながらナナが水の入った湯呑みを置く。
「高杉くん達と帰るのか」
「はい、晋作さんの体調も気になりますし」
「そうか」
「短い間でしたがお世話になりました」
「構わぬ」
「何かお礼をしたいのですが、、」
「そんなこと気に…」
と言いかけたところで
「そこまで言うならその礼とやら今もらおうか」
「今できることでしたら」
「目を瞑れ」
「え?」
「礼がしたいのではないのか」
「し、したいです!…これでいいですか?」
無防備な柔らかい唇に指でそっと触れる。
ピクッと肩が揺れる。
「あの、大久保さん?」
白い首筋に自分の唇を押し当てる。
「…ちゅっ、ちゅ」
「んっ」
綺麗な首筋に桜色の跡が付くように念入りに吸う。
「ちゅ…ちゅっちゅ」
「ふっ、ん…んっ、お、っくぼさっ」
「礼がしたいと言ったのはお前だぞ?ちゅ」
と耳たぶを吸い上げる。
「ひゃんっ!」
「何だ?感じてるのか?」
「ち、ちがっ!あっ、ん、」
耳から首筋にゆっくりと舌を這わせていく。
「やっん、も…うやめ、あっ…ん!」
甘い声がわたしの理性を溶かし始める。
不味いな…
そう思いながら滑らかな肌を丁寧に吸い上げる。
「んっ…」
複数の桜の花びらが付いたところで吸うのをやめる。
「こんなものか」
「へ?はぁ、はぁはぁ」
顔を赤らめ息を整えている。
「物足りないのか?」
顎を掴み視線を合わせる。
「ち、違います!」
「ふっ」
「あ、またからかいましたね〜!」
龍馬ーside
ありゃ、ナナさんはどこに行った?
縁側かの。
賑やかな声が外から聞こえよる。
「ナナさん」
「あ、龍馬さん。お酒切れちゃいました?」
「いんや、ちくとえいかの?」
チラッと横目で大久保さんを見よる。
「わたしは先に戻っている」
「あ、はい」
大久保さんが広間に戻ったのを確認して
「この前のことなんじゃが…」
「はい」
「わしは臆病者じゃ、
おまんを失うんが何よりも怖うて敵わん」
「じゃが、もう迷わん!」
「おまんのこと愛しちゅうがぜよ」
「え、?」
「一緒に帰ろう、ナナ」
ナナーside
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
愛してる…?
でもわたし振られたはずじゃ
一人で混乱していると
「あの林で初めて会うたときからわしの心はおまんのものじゃ」
「にしし。なんじゃ照れくさいのう」
ああ。わたしはこの笑顔がたまらなく好きなんだ。
「わ、わたしも」
と言いかけたところで
「ナナー!何処だ?ひっく、そろそろ帰るぞー」
晋作さんの声が聞こえてくる。
「あ、龍馬さんわたし」
「あん人の機嫌を損ねるのもなんじゃ、返事は帰ってきた時に聞かせてくれ」
「は、はい」
広間に戻ると
「何処行ってたんだ!ひっく、帰るぞ!」
「晋作、飲み過ぎだよ。全く…すまないナナさん」
「あ、いえ!それでは皆さん先にお暇しますね」
皆んなに挨拶をしてから二人の後を追う。
つづく




