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第8話

 嫌な奴とパーティーを組む事になっちまったな……。ビエットは心の中でそう毒ついた。

 ロレンスから氷のジュエル奪還部隊に選ばれた事は名誉なことだと思い、最初は喜んでいたが、まさかあいつも選抜されるとは予想出来ず、せっかくのお祝いムードに水を差された。あいつとは隣で鼻歌を口ずさむ緊張感のない顔をした、スコットという男だ。

 魔法を学び、研鑽し、魔道士としての己を高めていくことを『魔道』というが、ビエットにとって魔道とは、3つのステップを順番に踏んでいくことだ。

 まず一つ目のステップは『基礎』だ。魔道を歩み始めたばかりの見習いはこの段階にいると思っていい。この段階ではひたすら魔道の基本を徹底的に叩き込む。魔道士としての土台を作っていく時期だ。ここでしっかりとした土台を築かなければ、上に応用や実戦といった重いものを乗せると崩れてしまう。魔道士として大成できるかどうかの境目はこの段階でいかに強固な土台を作れるかにある。ビエットだけでなく多くの偉大な先輩方や魔道士仲間たちも、同じ見解だろう。

 基礎を徹底的に修めたら、次に『応用』の段階に行く。二つ目のステップだ。個性や人それぞれの感性といったものはこの段階でようやく解禁となる。基礎を学ぶ段階では無私でなければならないが、この段階では自分の考えや独自の解釈を加えてもよい。

 そして三つ目のステップ『実戦』である。今までの総決算。この段階で初めて人前で堂々と自分は魔道士だと名乗れる。魔道士としての評価がつくのもこの段階だ。

 これらの3つのステップを順番に進んでいくのが魔道である。まず基礎、次に応用、最後に実戦。必ずこの順番でなければならない。応用をやってから基礎をするとか、実戦から基礎というように順番を入れ替えてはならない。絶対にこの順番でないとダメだ。

 これがビエットの考える魔道のあり方である。いや、ビエットだけでなく、多くの魔道士はこう考えている。むしろこう考えない者の方があり得ないのである。

 だが、スコットは違う。悪い意味で型破りだ。スコットは基礎をおろそかにしていきなり応用、実戦をやりたがる。何というか、自分の感性や直感といったものだけを頼りに魔道をやっている、という感じだ。自分の感性や直感というものは、まず徹底的に基礎を固めてから加えていくものだ。そうでないと変な癖がついたりしてしまう。

 ビエットとスコットは同期だが、ビエットは18歳で正式な魔道士になってから順調にキャリアを重ね、現在は三つ星魔道士の地位にいるのに対して、スコットはアカデミーを強制退学になる年齢ギリギリになってどうにか卒業し魔道士になったが、大した功績もなく未だに最下層である星なし魔道士のままである。このキャリアの差こそが自分の考えの正しさを証明している、とビエットは思う。


「今日はここでキャンプにしよう」


 日が暮れてきたので、ルミ、ロレンス、ビエット、スコットの4人は野営をすることにした。


「よし、火を付けよう」


 ビエットが魔法陣を描こうとすると、スコットが割って入ってきた。


「俺にやらせてくれよ、ビエット」


 そう言うとビエットの返事を待たずに、スコットは炎をおこすための魔法陣を地面に描き出した。


「よし!オッケー。いくぞ、トーチ!」


 魔法陣が光り輝き、勢いよく炎が温泉のように吹き上がった。しかしすぐに炎は弱まって、やがて完全に消えてしまった。


「あれ、失敗しちまった……」


 ビエットはやれやれとため息をついた。こんな初歩的な魔法もろくに操れないのか。


「どけ、スコット」


 ビエットが描いた魔法陣は鮮やかにキャンプファイアーとなった。


「おお、流石は三つ星魔道士さまだ」


「お前なあ、こんなのは初歩も初歩。見習いでも当たり前のように出来ることだ。というか出来なきゃ恥ずかしいぞ。一応ここには後輩の見習いもいることだし、先輩魔道士として示しがつかないだろ」


「はっはっは、ちげーねーや」


「何がちげーねーやだ!人ごとみたいに。お前もいい機会だからもう一度基礎から鍛え直せ。何事も基礎が大事っていつも言ってるだろ」


「うーん、まあそうだろーけどよ。俺は俺の道を行くぜ」


 これだ。スコットは基礎の大切さをわかった上で、あえて無視しているかのようだ。こういうスコットの価値観がビエットには鼻につくのだ。まるで基礎をしっかりしてから魔道士として世に出た自分を否定しているかのように感じられる。




 深夜、4人は寝静まっている。

 ふいに、不穏な空気を感じてロレンスは飛び起きた。


「おい、みんな起きろ!何か来るぞ!」


 寝ていた3人はロレンスの声で跳ねるように飛び起きて、すぐに臨戦態勢をとった。


「モンスターですか?」


「わからん。来るぞ!」


 木と木の間から、音もなく静かに現れたのは金属の体をした人間ではない異形のモノだった。禍々しいオーラを身にまとうその姿はとげとげしい装飾をつけた巨大なツボのようだ。


「見つけたぞ小娘!貴様を殺す!」


 異形のモノはルミめがけて猛スピードで突進した。ルミは巨大な金属質の物体にはねられてはるか後方の崖まで吹っ飛ばされた。


「きゃあああ!!」


 ルミは崖下の川に落ちてそのまま流されていってしまった。


「ルミ!なんてこった!」


 ロレンス達3人が炎魔法を何回かぶつけると異形のモノは力なくガラガラと崩れていったが、ルミの姿はもう見えなくなっていた。

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