第7話
「間違いない。あの紋章は近年シャールメール王国を中心に急速に信者を増やしている新興宗教『宵闇の祝祭』のシンボルマークだ」
アカデミーの会議室でロレンスが説明してくれたのは、先日取り逃した黒フードの男の額に浮かび上がった竜の形に似た紋章のことだ。
シャールメール王国とはルミ達が住むクラニア王国があるアナテマ大陸の西方を領土に持つ国だ。ルミには行ったことがない国なので宗教団体のこともよくわからない。
ルミの師匠であるバロックがロレンスにこれからの身の振り方を確認する。
「では、早速シャールメール王国に向かうのですね」
「そうだな。私は氷のジュエル奪還部隊のリーダーだからな。明日、部隊のメンバーと共に王国を発つ。それから」
ロレンスはルミの方に向き直る。
「昨日の戦いぷりを見せてもらった。君は十分戦力になると判断した。部隊への参加を許可しよう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
これで一人前の魔道士にまた少し近づいた。正式な魔道士になれば行動範囲が広がるので、父親探しが見習い時代より格段にはかどるだろう。ルミはまだ見ぬ父親の姿に想いをはせた。
「ルミ、くれぐれも無茶なまねはしないで下さいよ。いくら才能があってもあなたはまだ見習いですからね。相手が格上だと思ったら退くことも魔道士として大切なことです。気を付けて」
バロックは心配そうな顔をしている。
「わかってます!無理はしません。絶対に氷のジュエルを取り戻して来ますから!」
ルミは明るく決意表明した。
「ぬおおおお、許せん。私の優秀な部下を殺したあの小娘が……」
絶対に失敗しない超有能な部下を持ってせっかく快適な労働環境を得たのに、また無能な人間の部下を使わなければならなくなり、デネス商会の幹部ロジャーズは今までになく苛立っていた。それこそ仕事が手につかないくらいに。
「もう一度あの部下どもが欲しいか?」
ロジャーズ以外誰もいなかったはずの部屋にいつの間にか黒フードの男が佇んでいた。
「おお、あなた様はあの時の!お願いします、もう一度あの部下達を連れてきて下さい!あの優秀な部下の仕事ぶりに慣れてしまうと、もううすのろな人間どもに仕事を任せる気にはとてもならないのです!どうかお願いします!お金ならいくらでも望むままに!」
「金などいらん。まあどうしてもくれると言うなら貰ってやってもいいが、私がお前に望むのは、自分の理想の世界を具現化する為には自らの身体すらも捧げる、という覚悟だ。どうだ?お前にその覚悟はあるのか?」
ロジャーズは迷う事はなかった。もう無能な人間どもに足を引っ張られる日々に戻るという選択など、彼にはあり得ない。
「覚悟はあります!私は自らの手で理想の世界を創りたいのです」
「ならばお前に力を与えよう。世界の理を離れた、変革の力を!」
そう言うと黒フードの男の右手に禍々しいオーラが満ちていく。
「かりそめの世は終焉に向かい、誕生するは真実の楽園なり。我、聖名を刻みて福音と成す。汝は異説の使徒、グラフィトス!」
黒フードの男の右手から放出したオーラが、ロジャーズの身体を包み込んだ。
「ぬわああああああああああああああああああああ!!!」
「そうだ!その力こそ選ばれし者のみを理想郷に導く、天人に等しき力!神の寵愛にもれた弱者を淘汰する、正義の暴力!」
ロジャーズの身体がみるみるうちに変化していく。金属質の、異形の姿に。
翌日、旅立ちの準備を整えたルミは、城下町で氷のジュエル奪還部隊のメンバーと合流した。
ルミはワンピース風の黒いローブを着ている。ローブの丈はひざより上で、太ももが半分位露出している。足は黒色の革靴に、黒のニーソックスをはいている。背中には12歳の女の子には不釣り合いな、古びた魔道士の杖を背負い、美しい金髪がその杖に絡まりながらも流れるように地面すれすれの所まで伸びている。腰には父親が残してくれた短剣。目はぱっちりとして眉はきりっとしている。可憐な中にも勇ましさを感じさせる整った顔立ちは、芸術的なまでに美しくてかわいい。小悪魔っぽさと清楚さが見事に調和した、まさに人間離れした美少女だ。
「さあ、出発しようか」
氷のジュエル奪還部隊のリーダー、ロレンスが先頭を歩く。ロレンスの他には二人の青年、そしてルミ。部隊のメンバーはこの四人だけだ。あまり大人数で他国に赴くと目立ってしまうので、出来る限り少人数で編成されたのだ。
そんな四人を、じっと見下ろす存在がいた。その存在は、人間とはかけ離れた、金属質の身体をしていた。




