第5話
「どうすれば氷のジュエル奪還部隊に入れるんですか?」
「力を認めさせるしかないでしょうね」
ルミは今しがたバロックから聞かされた話の内容を頭の中でまとめてみる。
まず、ルミはお父さんに会いたい。それには魔道士にならねばならない(と思う……)。(ルミの現在のクラスは見習い魔道士)
先日魔道士になる為の試験を受けた。しかし試験は中止になった。(中止になったのでルミはまだ見習い魔道士のままだ)
次の試験を待たねばならないが、氷のジュエルを不審人物に奪われたのでアカデミーは今現在試験どころじゃない。よって次の試験がいつ行われるか不明。
校長アンジェラの話では試験に合格するのに等しい任務をこなせば試験を受けずに魔道士にしてくれるらしい。
そして現在氷のジュエル奪還部隊を編成中であると。
つまり氷のジュエル奪還部隊に加わって無事任務を果たせばこれは試験突破に等しい偉業と言えるに違いない!
だからルミは氷のジュエル奪還部隊に入りたいとバロックに言ったが、見習いなので入れないだろうと……。
しかし、アカデミーはいろいろあって人材不足なので実力さえ認めさせれば特別に入れてくれるんじゃないかというのだ。
「奪還部隊のリーダーはロレンスという者です。彼に実力を認めてもらえば部隊に入れてくれるでしょう」
「そのロレンスさんは、どこにいるの?」
「彼は錬金マニアだから、道具屋で素材を物色してるんじゃないでしょうか」
「城下町の道具屋を探せばいいのね。でも道具屋っていっぱいあるからどこ行けばいいんだろ」
「道具屋なら品揃えがいいエルス商会か、激安ショップのデネス商会辺りでしょうね。彼は最近金欠で困ってたみたいですから、デネス商会かもしれません」
「わかりました、行ってみます」
デネス商会は城下町大通りの一角でひときわ繁盛している道具屋だ。客には冒険者や兵士、魔道士といった日常的に戦闘を行う人たちも多いが、ごく普通の一般市民の方が多いだろう。
「でっかーい、まるで宮殿みたい」
デネス商会本店前にやって来たルミは、店の余りの大きさに驚いた。店の中も広く人で溢れている。
「こんなに人がいたら、見つけられないよ」
ルミはバロックから聞いたロレンスという人物の特徴を思い出しながら、店の中に入った。しかし人が多すぎて捜索は困難を極めた。
「少し一休みしよう」
椅子に腰掛けて、父親の形見の短剣をテーブルの上に置くと、背後から少し高い声がした。
「君ぃ、中々興味深いもの持ってるねえ」
振り返ると見上げる程背の高い男性が立っていた。銀髪で筋肉質の身体をしたその男性は、話に聞いていたロレンスの特徴に限りなく近かった。男性の視線はテーブルの上の短剣にそそがれている。
「え、これのことですか?」
ルミが右手で短剣を掴もうとしたが、男性の方が早く短剣に手をかけた。
「!?」
短剣に手を触れた男性は突然がくっと態勢を崩した。
「だ、大丈夫ですか」
「何ということだ、この私が触れただけで……魔力を吸い取られてしまうとは」
「あのぉ……」
男性ははっとしてルミに向き直した。
「失礼した、では」
立ち去ろうとする男性にルミが声をかける。
「あの、もしかして魔道士のロレンスさんですか?」
男性は足を止めてくるっと振り返る。
「ああ、そうだが」
「あの、わたしアカデミーの見習い魔道士ルミです。実はロレンスさんに会いにここまできたんです」
「ほう、私に何か用か?」
「はい、実は……」
言いかけたルミの視界に予想していなかった人影が映った。ルミは、弾かれた様に人影目指して飛び出した。驚いたロレンスが後ろから呼びかけた。
「どうした!?」
ルミは後ろを振り返り、答えた。
「いたんです!氷のジュエルを盗んだ黒フードの男が!」
「なんだって!?」
ルミはあっという間に人混みに消えてしまった。
ロレンスは気を取り直して後を追った。黒フードの男捜索任務を受けたものの、手掛かりもなく正直どこから手を付けていいか困っていたので丁度良かった。なんか都合が良すぎる気もするが、ロレンスとしては任務さえこなせれば都合なんてどうだっていいことだ。過程には興味ない。欲しいのは結果だけだ。




