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第43話

「ひっろーい! これが海なんだね!」


 見渡す限りの大海原。雲と地平線。かもめの鳴き声がこだまする。

 船の上甲板にてルミは子供らしくはしゃいでいた。


「海を見るのは初めてかい? ルミちゃん」


 イーサンの質問にルミは笑顔でうなずいた。鼻をつんさぐ磯の匂い。海と空だけの開放的な空間。その全てが彼女にとっては新鮮だった。

 手すりに前からもたれかかり、広大な蒼い世界を覗き込みながら、ルミはここまでの旅路に想いをはせる。

 トナルエ山の山頂にて、激闘の末風の精霊ウィンディアを撃破したルミ達。その後風のジュエルが出現し、彼女達の目的が果たせると思った瞬間、黒フードの男が現れてかっさらって行こうとした。

 ルミ達は黒フードの男と戦おうとしたが、連戦に次ぐ連戦で消耗しきっていた一行にもはや戦う力は残されていなかった。

 結局ルミ達は去っていく黒フードの男をただ指をくわえて見ているしかなかったのである。

 氷のジュエルに引き続き、風のジュエルまでもが正体不明の敵に奪われてしまったことになる。

 残されたジュエルはあと二つ。

 火のジュエルと土のジュエル。彼らは当然残るこの二つも狙っているに違いない。

 ルミ達はクライン城下町で宿をとり体力を回復させると、すぐに近くの港町から船に乗った。この船の行き先はエルヴァーン大陸の北部にあるというラトセの町だ。


「エルヴァーン大陸には土のジュエルがあるそうね」


 いつの間にかルミの隣にいたロゼッタがそう言った。

 クライン城下町で聞いた情報である。

 ルミはロゼッタに、トナルエ山での事を聞いた。なぜ自分に踊り方を教えてくれたのか。ロゼッタはルミに踊り子の才能があると思ったので教えたのだった。

 ルミは考えた。自分には魔法しかないと思っていたので、まさか踊り子の才能があるなんて想像すらしていなかった。


「自分が何に向いているかなんて、なかなか自覚出来ないものよ。他人に教えてもらわないとね」


 そういうものなのだろうか、とルミは思った。


「でもろくに踊ったことがないのにあれだけステップを踏めるんだから大したものよ。あなたって、何をやらせても上手くこなしそうね」


「そ、そんなことないよ……」


 ルミは照れている。

 ロゼッタはルミを見つめながら思っていた。かつての恋人ギュスターヴも、深い知識と武術に長けた完璧人間だった。だが彼は道を踏み外した。いくら知識があろうとも、力を持っていようとも、それを扱う人間の心が伴っていないとダメなのだ。


「なあ、さっきからこの船、やたら揺れないか?」


 ヘイデンが青い顔をしてルミ達に声をかけた。今にも吐きそうである。


「言われてみれば……、確かに」


 ルミは船の様子を見た。船員達が騒々しい。ついで海の方を見た。あれだけ晴れていた空にはどす黒い雨雲がかかり、激しい波が船を揺らしている。


「一体何が起きているの……?」


 ルミ達は一か所に固まって様子を見る。

 船橋から船長の怒鳴り声が響いた。


「こ、これはまさか……、水の精霊アクアリスの仕業か!?」


 船員達は必死に船の姿勢を保とうとしたが、横から見上げる程の大波が覆いかぶさるように船に押し寄せ、あっという間に飲み込んだ。船はひとたまりもなく転覆し、乗っていた者達は海に投げ出されてしまった。

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