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第23話

 ルミは夢を見ていた。

 見知らぬ背中。でもどこか懐かしい感じのする背中だった。

 頬を一滴の涙がつたった。今、目の前に見えてる背中が遠ざかっていくのが寂しい。あの背中は誰なのだろうか。

 やがてルミに一つの考えが浮かんだ。あの背中は……もしや!


「お父さん!」


 ルミは勢いよく跳ね起きた。辺りをキョロキョロと見渡す。ここはどこなのだろうか。見覚えのない部屋だった。自分はその部屋のベッドに寝かされていたようだ。

 部屋の扉が開いてロゼッタが姿を現した。


「気がついたのね。良かった……」


 ロゼッタは安堵の笑みを浮かべた。ルミは何故ベッドに寝かされていたのか最初分からなかった。頭がもうろうとしていた。しばらくすると、ハッと思い出した。


「そうだ!ロレンスさん達は?」


 ルミはロゼッタの顔を見ながら聞いた。ロゼッタは目を閉じて神妙な顔をして首を振り、


「わからない……、私達も気がついた時にはこの街にいたのよ」


 トランス教団の寺院でギュスターヴ達に捕まり、処刑されそうになったルミ達を、ロレンス達が身を挺して逃がしてくれたのだった。あの時は確か妙な儀式の最中だったはず。あれからロレンス達はどうなったのか?儀式はどうなったのか?ルミは想像出来なかった。とにかく、一刻も早くあの寺院に戻らねば。

 それにしても、ここはどこなのだろう?ルミは尋ねた。


「ロゼッタさん。ここはどこ?」


「ここはプロパの街。イシュタリア大陸の南西部にある街だそうよ」


 え?イシュタリア大陸?ルミ達がいた大陸の名前はアナテマ大陸だ。クラニア王国もシャールメール王国もアナテマ大陸に存在する国である。という事は……。


「別の大陸まで飛ばされてしまったってこと?」


「そうみたいよ。私とヘイデンが目を覚ました時、すぐ近くにこの街があって、まだ目覚めない貴方を背負ってこの街の宿屋まで運んできたのよ。その後、ヘイデンと二人で街の人に話を聞いて、ここがアナテマ大陸じゃない事を知ったの」


「そうだったの……」


 ルミは困惑した様な表情になった。すぐにでもロレンス達の安否を確認したいのに、まさか違う大陸にまで飛ばされてしまうとは……。どうすれば、もう一度あの場所まで戻れるのか。

 その時、部屋の扉が開いた。ヘイデンが帰ってきたのだ。ヘイデンはルミの姿を見ると、表情が明るくなった。


「ルミ!気がついたのか!」


「ヘイデン!」


 ルミも笑顔になった。三人ともとりあえずは無事の様だ。

 ルミは早くロレンス達の所まで行きたいと思っていたので、とりあえず船に乗れる所まで行きたかった。しかし、ヘイデンは暗い表情になり、今自分達がいるこのプロパの街について語りだした。


「この街は一筋縄ではいかないみたいだ」


 ヘイデンによれば、この街には港はなく、しかも別の街にいくためには市長の頼みを聞かないといけないらしい。


「えー……そんなー」


 最近周辺の国が戦争状態にあるらしく、よそから来る旅人の数もめっきり減ってしまった。腕っぷしの強い旅人が来なくて困っていた所に、ルミ達がやって来たという訳だ。


「とりあえず、市長に会って話を聞いてみよう」


 ルミ達は宿屋から街に出ると、市長のいる建物へと向かった。街の様子は至って平和で、クラニア城下町と比べると建物の造りは違って見える。何人かの市民とすれ違ったが、皆無表情だった。平和なのにどこか活気がない感じがするのは、近くで戦乱が起こっていることと関係があるのだろうか。

 しばらく歩いて行くと、市長のいる政庁へとたどり着いた。ルミ達は建物の中に入っていった。

 受付の人に案内されて、ルミ達は市長室に通された。


「やあ、待っていたよ。私はプロパの街の市長アンドリューだ」


 アンドリューは満面の笑みで三人を迎え入れた。

 市長は挨拶もそこそこに、本題に入った。


「実は、この街の近くに二つの国があるのだが、最近その二つの国が戦争を始めてしまってね……」


 市長が言うには、プロパの街の近くにライザ国とレフリ国という国がある。この二つの国は長い歴史の中でずっと友好関係を保ってきた。しかし、ちょっとしたきっかけで両国の仲は険悪なものになり、とうとう戦争になってしまったらしい。


「我がプロパの街はどちらの側にもつかない。あくまでも中立という立場を守るつもりだ」


 市長は自分達はあくまでも中立である、という事を強調しながら、話を続けた。


「君達にはこの武器をレフリ国のジョーンズ将軍に届けて欲しいのだ」


 そう言って市長は秘書に目配せすると、秘書は巨大な大剣を担いできた。


「この大剣をジョーンズ将軍に持たせれば、戦争はレフリ国優位に傾くだろう。そうなれば戦争は早期に終結へと向かうだろう」


 ルミは市長の話を聞いて違和感を感じた。


「あの、市長さん。この街は中立なんですよね?」


 ルミの質問に市長は顔色一つ変えずに答えた。


「ああ。我々は中立だよ」


 市長はやはり中立である事を強調するが、ルミには彼らがレフリ国に肩入れしている様に見えた。だが、今は早くロレンス達の安否を確かめたかったので、そこまでしつこく追及せずに市長の依頼を引き受けることにした。

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